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ぷるーと
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田舎の夏は、戦争の痛みを静かに解きほぐしていく。

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

1920年、夏、どしゃ降りの日。イギリス北部ヨークシャの田舎の小駅に、ひとりの若者が降り立った。

トム・バーキンは、壁面の修復士で、その村にある小さな教会の中世の壁画を復元するため、夏の1ヶ月あまりを教会の鐘楼に寝泊まりして過ごすことになった。

第一次世界大戦のフランス戦地で地獄のような体験をしたトムは、帰国してみると妻ににげられており、戦闘神経症のために頬が激しく痙攣したり夜うなされたりと戦争の後遺症に悩まされていた。孤独なトムは、この教会での孤独な作業を続ける間に戦争後遺症もいくらか治まるのではないかという望みを抱いていた。

村にはトムと同じスポンサーの依頼で、彼の先祖の墓を発掘調査している青年考古学者ムーンがいて、彼もまた、戦争後遺症に悩まされていた。トムとムーンはすぐ親しくなり、静かな交流が始まった。

敬虔なメソジスト派の信者である村の駅長一家。教会の司祭夫妻。復元作業の合間の彼らとの交流は、穏やかで楽しいものであったり、ちょっと刺激的だったり・・・。

中世に描かれ、描かれてすぐに塗りつぶされてしまったらしい壁画。その塗りつぶされ隠された絵を慎重に浮かび上がらせる作業は、戦争という地獄を経験したことで固くとざされてしまったトムの心を解きほぐし元に戻していく過程とリンクしている。

だが、浮かび上がってきたのが地獄の図だったとは、なんとも象徴的だ。そして、そこには、スポンサーの先祖の秘密か描かれていた。

素朴な村人たちとの触れあいで、心の平穏を取り戻していったトム。だが、彼は、二度とその村には戻らなかった。そこは、一度離れてしまったら二度とは行きつけない夢の地だったのだろうか。
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ぷるーと
ぷるーと さん本が好き!1級(書評数:2924 件)

 ホラー以外は、何でも読みます。みなさんの書評を読むのも楽しみです。
 よろしくお願いします。
 

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