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darklyさん
darkly
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「ブレードランナー」が好きな人、特にまだ「ブレードランナー2049」を観ていない方は必読です。
実は「ブレードランナー」で描かれた未来世界は今年2019年なのです。
私が「ブレードランナー」を観たのは確か1980年代後半だったと思います。ディックの小説は読んでいましたが当時はネットもなく特に映画ファンというわけでもない私はこの映画を知らずマニアな友人の勧めでビデオを借りてきた覚えがあります。その当時は知る人ぞ知るカルト映画という位置づけでしたがファンが増え続け今や古典SFの名作という位置づけが正確なのだろうと思います。

今ではネットでこの映画に関する名場面だとか名セリフとか溢れかえっていますが、私が強く印象に残っているのは劇場公開版におけるデッカード(ハリソン・フォード)のナレーションでロイの死後「彼が欲しかったのは俺たちが知りたいのと同じ答えだ。俺はどこから来たのか?俺はどこへ行くのか?」と語るところです。ちなみに今普通に観ることができるのはディレクターズ・カット版(最終版)でこれはナレーションがありません。

後にゴーギャンが同じようなことを言っていることを知るのですが、その当時衝撃を受けた覚えがあります。それは厳密なテストでしか判別できないくらいに精巧に作られた人間らしい感情も併せ持つレプリカントと人間の違いは何なのか?という問いだと思いました。それは奇しくも先日書評を書いたミシェル・ウェルベックの「素粒子」にも通じる問いなのです。

ディストピアSF映画としての新しさや映像美もさることながら、科学技術の発展が人類の利便性や生活の質を向上させるという考えが主流の時代の中、科学技術の発展が否応なしに「人間とは何か?」ということを意識させる現代を予言したかのような内容は現在進行的に人類に問われているものと言えます。車が飛ぶというのはさすがに実現しませんでしたが。

正直本書を手に取ったときはそれほど期待していませんでした。「ブレードランナー」という題名に釣られたものの、これも以前書評で書いた「メイキング・オブ・ブレードランナーファイナルカット」の要約のようなものなのかなと。

予想は見事に外れてとても面白い内容でした。本書は2017年に公開された「ブレードランナー2049」に携わった関係者へのインタビュー集です。「ブレードランナー」の製作に関与している人もいます。両作品の相違点や製作過程におけるエピソード、映画論、哲学、などアッと言う間に読み終えてしまいました。

【ハンプトン・ファンチャー】
両作品に脚本家として関わった重要人物。というよりも彼がディックの「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」を読んで映画化しようとしたことからこの名作が生まれた。彼は映画化するにあたってディック本人に脚本を書いてもらおうと居場所を探したが分からない。たまたまビバリーヒルズの大通りを歩いていたら大声で呼ぶ声がする。それはレイ・ブラッドベリだった。レイにディックの居場所を聞いたら電話番号を教えてくれた。結局はディックに脚本を書いてもらうことはできなかったが。

面白いのはファンチャー自身ディックの原作については好きではなかったということです。しかし映画化はしたかった。これは小説と映画が似て非なる物の証左なのでしょう。

【マイケル・グリーン】
「ブレードランナー2049」の共同脚本家。ファンチャーが大まかなイメージのような脚本を書きそれを具体化する役割。インタビューでは本作品について込められた思想的な部分の話が多いことからも製作にあたりかなり重要な役割だったようだ。彼も実はディックの原作は好みではないようだ。

「ブレードランナー」を巡る議論において私がとてもバカバカしくかつ素晴らしいと思うのはデッカードがレプリカントなのか人間なのかというものです。なぜバカバカしいかと言えば、批評家やファンがそれを議論するのは分かります。しかし、リドリー・スコットを始めとして映画製作に関わった人たちもいつまでも議論していることです。自分たちが作ったものをですよ?例えば本人は亡くなっていてその真意が聞けない状況で議論が起こるのなら分かりますが。

なぜ素晴らしいかと言えば、製作者本人たちがそのような議論をするということは製作者本人たちが未だ現役であるにも関わらず作品が既に彼らの手を離れているということです。彼らは製作者でありながら既にファンのように作品を楽しんでいるのです。作品自体が製作者たちの意図を超え、公共財のような世界遺産のようなある意味神話的な雰囲気を持つ稀有な作品になっていった。例えば小説においてもカフカのように名作と言われるものは作者の死後、時代を経てそのような評価になっていくのが普通だろうと思うのです。

【渡辺信一郎】
アニメーション監督。「ブレードランナー2049」製作にあたり、2019年から2049年の30年間の空白を埋めるべく作成された三本の短編映画の内、「ブレードランナー ブラックアウト2022」を製作した。

渡辺監督と言えば、私が大好きなアニメ「カウボーイビバップ」「サムライチャンプルー」などを作られた方ですが、他にも「マトリックス」と「マトリックスリローデッド」の間を描く短編映画集である「アニマトリックス」において二本製作しています。余談ですが「マトリックス」シリーズが好きで「アニマトリックス」を観ていない方にはその中の一つ「ファイナル・フライト・オブ・ザ・オシリス」は観ることをお薦めします。また「ブレードランナー2049」をまだ観ていない方はこの三本の短編映画から見るのをお薦めします。ユーチューブで無料です。

【ポール・M・サモン】
前述した「メイキング・オブ・ブレードランナーファイナルカット」の著者であり映画批評家。ある意味最も「ブレードランナー」の全体像が見えている人だと言える。本書でも色々な側面から両作品について言及している。「ブレードランナー」好きなら本書においてこの人の章だけでも読むことをお薦めします。

「ブレードランナー2049」については興行的には成功しませんでしたが製作者たちにとってそれは織り込み済みのような気がします。前作のように評価されるには時間がかかるだろうと。私は公開をとても楽しみにしていたのでせっかくならと4DX版(3Dに加え座席が動いたり水がかかったりするアトラクションのようなもの)で観ましたが、ご存知のとおりブレードランナーの世界は環境が破壊され酸性雨が降りしきる世界であるため、ひっきりなしに水がかかって不快で映画に集中しづらかったのが残念でした。

というわけで「ブレードランナー」を観たことがない人にはなんじゃらほいの書評でした。
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darkly
darkly さん本が好き!1級(書評数:337 件)

昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。

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この書評へのコメント

  1. Yasuhiro2019-11-11 21:38

    渡辺監督の作品、なかなかクールでしたね。それにしても2049の4DXにそんな罠があったとは!普通の字幕版で見てよかったです(笑。

  2. darkly2019-11-11 22:01

    コメントありがとうございます。ディストピア感を体験するためにYasuhiroさんも是非!(笑)

  3. mari0022019-11-13 14:58

    私はディックが好きすぎて、当時、「ブレードランナー」を受け入れることができませんでした。
    何年も経って、「ブレードランナー2049」の公開にあわせて「ブレードランナー」を見たら、純粋に面白かった(笑)。2049も好きです。
    なので、大変興味を持ちました。ぜひ読んでみたいです!

  4. darkly2019-11-13 22:19

    コメントありがとうございます。まあ原作とはかなり違っていますから。しかしポール・M・シモンは電気羊とブレードランナーは本質的には同じと本書で語っています。私も同意見です。理由は本書でお読みになった方が良いかと思います。

  5. No Image

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