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孤独と劣等感を糧に、アメリカのシンボルを生みだした芸術家の生涯。
世界の人気キャラクター、チャーリー・ブラウンとスヌーピーと仲間たちは、新聞漫画『ピーナッツ』の登場人物である。その作品は、世界の識字者人口の5%に読まれ、テレビアニメの特番で25年間にのべ44億人に視聴された。本書は、「地球上で最も知られた漫画」を生みだしたチャールズ・シュルツの評伝である。
『ピーナッツ』は、子どもの日常の何気ない出来事を描いていて、思わずクスッと笑ってしまう。「ちびっこと冗談に溢れて」いて、ささやかな面白さと優しさと、子どもの残酷さが共存している稀有な作品だと本書にもある。そしてまた、漫画本の作者紹介ページのシュルツさんの笑顔はとっても温かい。多くの人は、心優しい男が生みだした、愛らしい漫画というイメージを持っていると思う。ところが本書を読み進めるうちに、その認識がどんどん変化してゆく。
シュルツさんの生涯は、膨大な証言や手紙を積み上げて語られてゆく。1920年代生まれのシュルツさんが子どもの頃には、大衆文化は低俗と思われていた。にもかかわらず、将来は漫画家になると心に決め、脇目も振らずその目標に邁進した。やがて大成功を収めても、彼はある喪失感から立ち直れなかったのだ。あの満ち足りた素敵な笑顔と、心に抱えた劣等感や空虚さとのギャップは衝撃的ですらある。
家族関係も女性関係も、赤裸々過ぎるほどに書き込まれている。しかし本書は暴露本などではない。シュルツさんの生涯を通じて、自己の苦しみを糧に傑作を作り上げた芸術家の「昇華」という行為を描いているのだ。人生のエピソードと、それを元にした漫画が、同じページに並んでいる。作品と人生の繋がりが一目瞭然というところが凄い。また、豊富に挿入された漫画のおかげで、読者は2段組み600ページ超というボリュームに怯むことなく読み進められるのである。
アポロ10号のプロジェクトにおける司令船と月面着陸船の名前は、チャーリー・ブラウンとスヌーピーだった。チャーリー・ブラウンは人気者じゃないし、運が悪いし、時々いじめられたりしてるのに。なぜ『ピーナッツ』がアメリカのシンボルになり得たかの考察も、本書の読みどころの一つである。作品が世の中に影響を与えた事実を、これまた膨大に積みながら著者は言う。
傷つきやすいとは、小さくて孤独であるとはどういうことか。子どもの苦しみは大人の苦しみより重く心にのしかかる。けれど、チャーリー・ブラウンは溜息をつきながらもチャーリー・ブラウンであることから逃げない。
「失敗にめげずに生きてゆくことは、価値がないのかい?」
その問いかけが、アメリカンドリームの国で、勝者がもてはやされる国で、人々の心の琴線に触れたのだと。
愛される理由はそこにもあったのか。
1920年代からのアメリカ娯楽メディアの変遷を語った本としても、非常な優れものである。
『ピーナッツ』は、子どもの日常の何気ない出来事を描いていて、思わずクスッと笑ってしまう。「ちびっこと冗談に溢れて」いて、ささやかな面白さと優しさと、子どもの残酷さが共存している稀有な作品だと本書にもある。そしてまた、漫画本の作者紹介ページのシュルツさんの笑顔はとっても温かい。多くの人は、心優しい男が生みだした、愛らしい漫画というイメージを持っていると思う。ところが本書を読み進めるうちに、その認識がどんどん変化してゆく。
シュルツさんの生涯は、膨大な証言や手紙を積み上げて語られてゆく。1920年代生まれのシュルツさんが子どもの頃には、大衆文化は低俗と思われていた。にもかかわらず、将来は漫画家になると心に決め、脇目も振らずその目標に邁進した。やがて大成功を収めても、彼はある喪失感から立ち直れなかったのだ。あの満ち足りた素敵な笑顔と、心に抱えた劣等感や空虚さとのギャップは衝撃的ですらある。
家族関係も女性関係も、赤裸々過ぎるほどに書き込まれている。しかし本書は暴露本などではない。シュルツさんの生涯を通じて、自己の苦しみを糧に傑作を作り上げた芸術家の「昇華」という行為を描いているのだ。人生のエピソードと、それを元にした漫画が、同じページに並んでいる。作品と人生の繋がりが一目瞭然というところが凄い。また、豊富に挿入された漫画のおかげで、読者は2段組み600ページ超というボリュームに怯むことなく読み進められるのである。
アポロ10号のプロジェクトにおける司令船と月面着陸船の名前は、チャーリー・ブラウンとスヌーピーだった。チャーリー・ブラウンは人気者じゃないし、運が悪いし、時々いじめられたりしてるのに。なぜ『ピーナッツ』がアメリカのシンボルになり得たかの考察も、本書の読みどころの一つである。作品が世の中に影響を与えた事実を、これまた膨大に積みながら著者は言う。
傷つきやすいとは、小さくて孤独であるとはどういうことか。子どもの苦しみは大人の苦しみより重く心にのしかかる。けれど、チャーリー・ブラウンは溜息をつきながらもチャーリー・ブラウンであることから逃げない。
「失敗にめげずに生きてゆくことは、価値がないのかい?」
その問いかけが、アメリカンドリームの国で、勝者がもてはやされる国で、人々の心の琴線に触れたのだと。
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1920年代からのアメリカ娯楽メディアの変遷を語った本としても、非常な優れものである。
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この書評へのコメント
- Wings to fly2020-01-07 13:12
hackerさん
お久しぶりです 。そして、新年のご挨拶をありがとうございます(^^)
昨年秋に夫をあの世に見送りまして、色々と忙しく過ごしておりました。こちらにもすっかりご無沙汰してしまいましたが、やっと本を読む気力が湧いてきましたので、また皆さんの仲間に入れていただきたく思っています。
すこーしずつ復帰しますので、よろしくお願いします!
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- 出版社:亜紀書房
- ページ数:720
- ISBN:9784750516165
- 発売日:2019年09月28日
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