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ぽんきち
レビュアー:
天皇に奉仕する庶民、八瀬童子とは何者か?
改元に際して、「天皇に最も近い庶民」として京都のある集落の人々がちょっとした注目を浴びた。
八瀬童子。
比叡山の山麓、左京区八瀬地区に住む人々である。
彼らは古くから、天皇の輿や棺を担ぐ奉仕を行い、その代わりに税を免じられたり、手当てを得たりしてきた。
現在では免税や手当の制度はなくなったが、彼らはなお、天皇が京都を訪れる際には出迎えや見送りをするのだという。
「鬼の子孫」という言い伝えもある。フィクションにも何度か取り上げられている。
何だかちょっと不思議な集団である。
本書はこの八瀬童子と天皇制の関わりが主題である。

著者は宗教社会学者で、あとがきによれば、当初は八瀬の近現代を中心に扱おうと考えていたという。それがその奥深さを知るにつれ、専門からやや外れる中世や古代にも遡ることになった。
記述は学術的で門外漢にはいささか取っつきにくいのだが、にもかかわらず、この特異な役割を担う人々の背後に垣間見える歴史の流れが非常に興味深い。

「童子」というが、もちろん、ここで指しているのは子どもではない。半僧半俗で寺などの雑務を行っていた者をいう。これらの人々は多く、童子のような髪型をしていた。八瀬童子は古くから比叡山延暦寺の雑役を行っており、後醍醐天皇の頃には皇室の用も担うようになったようである。
「鬼の子孫」伝承に関しては、酒呑童子の末裔などの説もあるが、著者は、角の生えた悪鬼的な鬼ではなく、「悪魔祓い」「魔除け」的な役割を担っていたのではないかと考察している。彼らは座主などが冥府に往来する際に供をする二鬼の子孫という伝承がある。この鬼は閻魔王に遣わされた護法童子である。
棺を担ぐということは、死霊の鎮送呪術に関わることであったのではないかというわけである。
こうした特殊な役目を果たす代わりに長きにわたり、実質的な免税などの特権が与えられてきた。

村落の中には、支配層にあたる「だい家株」の家と、一般の「ぼて株」の家があった。これらの人々の間では祭祀に対する姿勢も異なり、対立もあった。
村の祭礼を取り仕切る役目を果たすのは「だい家株」の家のみであり、村長もこの階級からしか出なかった。
近代以降、固定された階級は徐々に崩れていく。他の土地から入ってくる人々もいた。
免税に当たる特権もなくなっていく中で、皇室とのつながりは何とか続いていく。昭和天皇の葬送でも、棺に直接触れる作業に何人かがかかわった。

現在の大きな役割は、むしろ、古くからの祭礼の保存に移っている。
赦免地踊と呼ばれるもの、また代わる代わる神職を務め、「神殿」の主となる一年神主のしきたりである。
一年神主が行う1年間の儀礼について、本書中で詳述されている。これがなかなか興味深く、それぞれに込められた個々の意味はわからぬまでも、どこか太古へとつながる名残を感じさせる。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1828 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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