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かもめ通信
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ペーター・ハントケがノーベル文学賞を受賞したというニュースを聞いて驚いたのは、おそらく私だけではないはずだ。
ペーター・ハントケがノーベル文学賞を受賞したというニュースを聞いて
驚いたのはおそらく私だけではないはずだ。

なぜって彼の作品をほとんど読んだことがない私でも
現代ドイツ語圏文学を代表する作家の一人でありながら、
ユーゴスラビア紛争での西側メディアの報道の偏りを非難し
NATOによる対ユーゴ空爆に真っ向から抗議したことで
親セルビア的であるとしてマスコミからも
文学界からも激しい攻撃に晒されて
書店が売り場の棚から彼の作品を撤去したり、
目立たぬ場所に置き換えたりするほど冷遇されている
……という話を耳にしたことがあったから。
そうした状況が一時のことだったのか、
ずっと続いていたことなのかは知らないのだけれど…。

そんなことを思い出せば
時にきわめて「政治的」になるこの賞が
いまこの時期にハントケに授けられる意図は?と、
勘ぐりたくなるというものではないか。

とはいえ、ハントケの本を読んだのはもう随分前のことではあったし、
記憶も少々曖昧であったので、
とにもかくにもと引っ張り出して再読したのが
1999年、コソボ紛争を理由にNATOが空爆を開始した後、
爆撃下のユーゴに赴き執筆した、旅行記の形を取った手記が収録されているこの本だ。

スロベニア人の母をもち
自らのルーツでもある「ユーゴスラビア」という国に愛着を持っていた作家は
訪れる先々で空爆の恐怖にさらされている人々に問いかけられる。

いったい私たちには、ほんとうにそんな罪があるのでしょうか

そこに至るまでの道程では、
自分の心の内の葛藤をさらけ出すように
詩的な表現を用いながらも
疑問を呈し、持論を展開していた作家はしかし、
自分に投げかけられたその問いには対しては、
NATOへの批判はもちろん
どんな自説をも声高に唱えることはしない。

ただそう問いかけながら、途方に暮れる人たちの姿を
文字によって描き出し、淡々と書きとどめているのだ。


おそらくはノーベル賞の受賞によって
またまた様々な議論が再燃することだろう。

けれども、私にとってこの本が
いろいろな意味で
忘れがたい1冊であることには変わりはない。

<関連レビュー>
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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2233 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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