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かもめ通信
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ダイヤモンド広場でダンスを踊る自信はないが、いつの日かバルセロナを訪れて、グエル公園のてっぺんから、ナタリアの暮らした街を見下ろしてみたい!
現代カタルーニャ文学の至宝と言われ、三十以上の言語に翻訳されている、世界的によく知られた名作。
●ガルシア=マルケスをして、この作品は、私の意見では、内戦後にスペインで出版された最も美しい小説であると言わしめた物語。
という前評判を聞いて手に取ってみた。

1962年に出版された原書はカタルーニャ語で書かれ、日本では1974年にフランス語からの重訳で出版されているが、今回はカタルーニャ語から直接訳されたとのこと。
クルメタ、小鳩ちゃん。私はむっとして彼の顔をにらみつけた、私の名前はナタリアよ。私の名前はナタリア、って言っているのにまだ笑いながら、君の名前はクルメタ、小鳩ちゃん、それしかあり得ない、ですって。私は走り出した。彼が後を追いかけてくる。そんなに怖がらないで…一人で行っちゃだめだよ、わからないのか?誰かにさらわれちゃうぞ。私の腕をつかんで引き留めると、さらわれるのがわからないのか、クルメタ?お母さんは死んじゃって、私は馬鹿みたいに突っ立って、ゴム紐はお腹に食い込む、食い込む、まるでアスパラガスの柱に針金で留められているみたい。

主人公で語り手でもあるクルメタ(小鳩ちゃん)ことナタリアが、ダイヤモンド広場のお祭りで家具職人のキメットに言い寄られるシーン。
一人称の物語はどういう語り口を選ぶのかによって随分印象が変わってくるものだけれど、今回のこの翻訳は思い切った口語体。
まるで鳩の鳴き声を思わせるようなリズムカルな語り口が、物語を引き立てる。

作者は当初この物語を『クルメタ』というタイトルにして書き始めたというだけあってこの「鳩」は、物語の中で単なるあだ名というだけでなく、生き物としても象徴としても重要なモチーフになっていく。

舞台は最初から最後までバルセロナのグラシア街。
母親に早くに死なれた若い女性が、押しの強い男性に見初められて結婚し、出産し、あれこれありながらも家庭を築いていくのだが、やがてスペインの内戦による混乱が、彼女の人生を翻弄することに……。

生きていくためには私はコルクみたいにならなきゃならなかった。もし雪みたいに冷たい心を持ったコルクになれなかったら、つまり前みたいにつねれば痛い生身のままだったら、私はあんなに長くて狭くて高い橋を越えられなかっただろう。

物語の中盤、ナタリアはそう回想するけれど、私の印象では彼女は最初からコルクのようだった。
それも身を削ってまでも周りにぴったり合わせようとするような痛々しいコルク。
もっともそれはおそらくナタリアだけのことではなく、多くの女性がそうやって暮らしてきたのだろうけれど。
だからこそ彼女には、自分自身がありたいような形で幸せになって欲しいのだけれど……。
そう思いながら読みふけった。

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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2236 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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