rodolfo1さん
レビュアー:
▼
理系の研究者が登場する短編集7編。最初の2編は主人公のキャラが立っていなくて今一つだったが、残りの5編、特に天王寺ハイエイタスのおっちゃんとエイリアンの食堂のプレアさんが圧倒的だった。
伊与原新作「月まで三キロ」を読みました。
【月まで三キロ】私は深夜に浜松でタクシーを拾い、富士山の鳴沢村まで行ってくれと頼みました。私が上着もネクタイも鞄も財布も持っていなかった事を見て取った運転手は、鳴沢村に何をしに行くのかと尋ね、下見だと私は答えました。運転手は自殺の下見かと尋ね、こんな月のきれいな夜に自殺の下見はやめてくれと頼み、近くに良い場所があるから案内する、自分も同じ所に行こうと思っていたのだと言いました。
実は私は地道に地元の岐阜で就職しろと強制する父親に反発して東京に進学し、名古屋の広告代理店に入りました。しかしリーマンショックのさ中に独立し、子供が欲しいと言っていた妻を無視した結果、経営が傾いて借金を抱えて離婚に至ったのでした。
再就職はうまくいかず、母親は病死し、父親は認知症を発症して生活は困窮し、実家を売り払って父親を介護施設に入れて私はついに自死を決意したのでした。運転手は月についての蘊蓄を披露し、この先に月に一番近い場所があるのだと言いました。運転手は車を停めて目的地に徒歩で向かいました。そこには月3kmという標識があり。。。運転手は何故満月の夜いつも自分がここに来るのかを語り。。。
【星六花】39歳の千里は同僚の美彩と共に合コンに来ていました。千里は同席した奥平の事が気になりました。奥平は気象庁に勤めており、天気予報の話をしました。折柄雨が降り始め、奥平は傘を貸してくれ、クリスマスぐらいまで持っていてくれと言い、千里はまた会えるのかと期待しました。千里は傘を返すと言って奥平に会いました。
奥平は、自分がやっている首都圏雪結晶プロジェクトに千里も参加してくれと言いました。雪予報を更に充実させる為に、降る雪の結晶を調べて雪を降らせる雲の内部を知る為でした。千里は星六花という結晶が好きだと言い、久しぶりに千里は幸せな時間を実感していました。千里は奥平に傘を帰そうとしましたが、奥平は、雪の結晶を見る為に必要だからまだ持っていてくれと言い。。。
千里は最初の恋人に手ひどく振られ、気落ちしていた所に暴漢達に強姦されかかり、男性恐怖症に陥っていたのでした。しかし千里は自らの寂しさを自覚し、奥平に期待していました。奥平の事はちっとも怖いと思わなかったのでした。ついに千里は奥平に恋心を告白しましたが、実は奥平は。。。しかしクリスマスイブの日、2人は公園で雪を待っていました。折柄雪が降って来ました。奥平は、雪の結晶は物理プロセスによってのみ産まれ、性とも欲望とも遺伝子とも関係ない、しかし美しいのだと言い。。。
【アンモナイトの探し方】小学6年生の朋樹は夏休み、北海道富美別町の祖父の家を訪れて、元博物館館長の戸川に教えられてアンモナイトの化石を採集しようとしていました。町の博物館でアンモナイトの化石を見ていると、博物館の館長ヨシエに戸川を紹介されたのでした。朋樹は成績優秀で有名中学への進学を目指していましたが、両親の離婚を目前にして、塾に通えなくなっていたのでした。その事を祖父に告げると、祖父はいろいろ事情があるからアンモナイト取りはやめろと懇願しましたが、朋樹は祖父に黙って戸川の元を訪れました。
戸川に祖父の事を糾すと、その時の事情を書いたパネルが博物館にあるとだけ戸川は言いました。訳知り顔に自分の状況を弁じる朋樹に、朋樹のような頭の良い子供にはありがちだが、わかった気になるのはとても危険だと戸川が大学生の時の経験を語りました。わかるための鍵は常にわからないことの中にあり、その鍵を見つける為にはまず、何がわからないかを知らなければならないと教えました。
朋樹は博物館を訪れてヨシエに戸川のパネルを見せてもらいました。実は富美別町は。。。そしてヨシエは朋樹に博物館の倉庫を見せました、そこのは何万個ものアンモナイトの化石があり、それを集めた何千人もの学者の努力が。。。朋樹は、このまま化石になってたまるかと思い、必死にハンマーを振るいました。そしてついに。。。
【天王寺ハイエイタス】健は気になる噂を聞きました。東京で学者をしている筈の兄貴が天王寺に戻ってきて、ヤクザのようなおっさんに金を巻き上げられていたと言うのでした。そのおっさんの風体を聞いた健は、それは哲おっちゃんだとわかりました。松虫商店街で営業する健の実家の老舗かまぼこ店を継ぐのはいつも次男でした。じいちゃんの兄貴は画家を志して家出し、戦死しました。父親の兄哲治は元プロのブルースギタリストで、バンドを組んでアルバムを3枚出し、元ライブハウス店長で元バーテンで元キャバクラの呼び込みで現プータローでした。健の兄貴は東京でまっとうな大学教授をしていましたが、やはり実家は健が継ぐのでした。
実家に戻るとそのおっちゃんが小遣いをせびりに来ていました。おかんはそれを知って激怒しましたが、いつも父親は金を渡していたのでした。おっちゃんは3年程前に無職になってからは酔っぱらって喧嘩をしては警察の世話になり、貰い下げにいくのはいつも父親でした。おっちゃんは3度離婚し、3度目の妻ミチコさんとの間にはミカちゃんという娘が出来ました。離婚の理由はいつもおっちゃんの浮気でした。ミチコさんに離婚されておっちゃんは初めて反省し、バンドを辞めて就職しました。何度も復縁を懇願しましたが、ミチコさんはついに復縁しませんでした。
健は兄貴を誘って夜釣りに行きました。そこで健は兄貴におっちゃんとの事情を糾し、兄貴は驚愕の事実を打ち明けました。おっちゃんがミチコさんに離婚された頃から音楽関係の資料や楽器を全部捨てたと兄貴は言い、健は、実はそれらは全部この釣り場に沈んでいるのだと打ち明けました。兄貴はハイエイタスだとひとりごち。。。しかし兄貴は更に驚きの事実を語り、その場に現れた哲おっちゃんは。。。
【エイリアンの食堂】つくばで定食屋をやっていた謙介の娘で小学三年生の鈴花は、いつも夜にやって来て毎日違う定食を頼む女性を待ち受けていました。鈴花は彼女にプレアさんと言う名前を付けていました。謙介の食堂の売りは日替わり定食で、いつも赤字覚悟で提供していましたが、プレアさんは決して頼みませんでした。謙介は鈴花に懇願されて3つの質問をプレアさんにしました。1つ目は日替わり定食がおすすめだから食べてはどうか、2つ目はどこに住んでいるのか、3つ目は、仕事は何かでした。プレアさんは言葉を濁しましたが、とうとう鈴花は我慢できなくなって、本当はプレアさんはプレアデス星人なのだろうと言いました。。。
母親の病死後、何の係累も無いつくばで寂しく暮らしていた父娘でしたが、鈴花は最近オカルト情報に凝って宇宙人や輪廻転生について調べており、地球にはプレアデス星人が沢山来ていると信じていたのでした。するとプレアさんは何故自分がプレアデス人なのかと尋ね、鈴花は、昨日の夕方プレアさんは、神社の前で空に向かって「お~い」と言っていたのを見た、あの時空に飛んでいた黄色い光はプレアさんの仲間のUFOだと言い張りました。するとプレアさんは、あれは確かに宇宙船、そして自分は確かに宇宙人だと言い、鈴花はそれを聞いて大変喜びました。
プレアさんは、あの黄色い光は国際宇宙ステーションだと打ち明けました。そして自分は国道沿いの研究所で素粒子の研究をしていると言いました。そして素粒子について親子に説明し、ビッグバンによって宇宙中に散らばった素粒子から人間は出来ている、すべての人間は宇宙人なのだとも言いました。。。実は母親の死後、鈴花は不眠症になりました。鈴花が眠れない時、謙介は鈴花を連れてドライブに出かけました。その夜2人はプレアさんの研究所を見に行き。。。しかしプレアさんはしばらく来なくなり、親子は大変心配しました。ある夜思い余った鈴花は。。。しかしプレアさんは。。。
【山を刻む】わたしの子供2人と夫と義母は好き勝手に生きており、家の暮らしはすべてわたしの献身の上に成り立っていました。しかしわたしには最近思う人が出来、その人の元に行く事を常に考えていました。ある日思い余ってわたしは家出し、古いお気に入りのカメラを持って日光白根山登山に出かけました。わたしは元々山岳カメラマン志望でしたが、夫に出会って専業主婦になったのでした。山で巨大なザックを背負った若い男と四十絡みの男に出会いました。2人は互いに悪口を言い合いながら、喜々として石の標本を採ってはザックに入れていました。
ふとした事からわたしは2人に声を掛け、2人は、自分達は火山の研究をしている大学教員と大学院生だと言いました。そして自分達は火山を形作っている地層を調べ、噴火に備えるのだ、山を刻んでいるのだと打ち明けました。わたしはそれは自分の事だと思いました。家族達は自分の愛と心をみんなで刻んでいるのだと。。。しかしそうこうしている内にわたしは道に迷い、野宿を覚悟しました。下山を続けながら、自分の子育ては失敗だった、長男は甘やかし、長女は厳しく育て過ぎたと思い。。。しかしあの2人が道に迷っているわたしを発見し、車で送ると言ってくれました。久しぶりに人に心配されたわたしは思わず泣きそうになり。。。
下山の道々、先生は何故自分が火山研究を志したかを語りました。その話を聞いたわたしは、この先生は努力して自分のなりたいものになったが、自分は娘にとって一番なりたくないものになってしまったと言われた事を思い出し。。。大学院生の自分語りを聞いて、先生が山は良いだろうと彼に言うのを聞いたわたしは突然ひらめきました。それは。。。わたしが思う人とは。。。わたしの計画は。。。
【特別長編 新参者の富士】瑞穂と美希は富士山トレッキングに来ていました。2人は東京の飲料メーカーの同期でしたが、体調を崩した瑞穂は途中退職し、美希だけが何くれと連絡を寄越して時々会っていました。瑞穂はここの出身でしたが、生来身体が弱く、富士登山をした事は無く、常々富士山が瑞穂の弱さを笑っていると感じていました。2人は中年男と老夫婦の3人連れが、このあたりが山頂なのだと話している所に行き会い、何の事かと思っていました。帰路2人はまたその中年男に会い、美希が何か面白いものでもあるのかと声を掛け、中年男は、地元の大学で火山研究をしている教授だと自己紹介しました。
そしてここは小御岳火山の頂上になるのだと言い、富士山の成り立ちについて語りました。富士山などここに較べればまだまだ新参者だと教授は言い、瑞穂は頂上に目をやって、あなた、新参者ですってと嫌味を言いました。美希は来年は富士山に登ろう、あたしたち人生の新参者は達成できてもできなくても、人生に影響しないような目標を持てば良いのだと語り、瑞穂は思わず山頂に、あなたにこんな友達はいないだろうと言い、初めて富士山は寂し気に。。。
いやこれは素晴らしかったでした。伊予原先生初作品ですが、今年の直木賞をお取りになったのもよくわかりました。伊予原先生は東大大学院卒の理学博士で、実際に富山大学で助教授として教鞭をとっておられたと言う事ですが、7編の短編すべてに研究者が登場してその蘊蓄を語ります。研究者としての実績と研鑽が、作品の背骨として作品を引き締めていました。また最初の2編の主人公キャラクターはやや弱いですが、それ以後は圧巻です。
アンモナイトの探し方の戸川先生、天王寺ハイエイタスのおっちゃんとエイリアンの食堂のプレアさんが傑出しており、皆蓄積した研究や実績から現れるあふれる優しさを発揮する所が何とも泣けました。特にスピカさんは子供も家庭も無い女性ながら、母の死別に悩む鈴花を、素粒子の話で救う所は圧倒的でした。山を刻むのわたしの発見した最後の救いにも胸を打たれましたし、新参者の富士で美希の示した友情と瑞穂の気づきも素晴らしかったでした。楽しみに藍を継ぐ海を読もうと思いました。
【月まで三キロ】私は深夜に浜松でタクシーを拾い、富士山の鳴沢村まで行ってくれと頼みました。私が上着もネクタイも鞄も財布も持っていなかった事を見て取った運転手は、鳴沢村に何をしに行くのかと尋ね、下見だと私は答えました。運転手は自殺の下見かと尋ね、こんな月のきれいな夜に自殺の下見はやめてくれと頼み、近くに良い場所があるから案内する、自分も同じ所に行こうと思っていたのだと言いました。
実は私は地道に地元の岐阜で就職しろと強制する父親に反発して東京に進学し、名古屋の広告代理店に入りました。しかしリーマンショックのさ中に独立し、子供が欲しいと言っていた妻を無視した結果、経営が傾いて借金を抱えて離婚に至ったのでした。
再就職はうまくいかず、母親は病死し、父親は認知症を発症して生活は困窮し、実家を売り払って父親を介護施設に入れて私はついに自死を決意したのでした。運転手は月についての蘊蓄を披露し、この先に月に一番近い場所があるのだと言いました。運転手は車を停めて目的地に徒歩で向かいました。そこには月3kmという標識があり。。。運転手は何故満月の夜いつも自分がここに来るのかを語り。。。
【星六花】39歳の千里は同僚の美彩と共に合コンに来ていました。千里は同席した奥平の事が気になりました。奥平は気象庁に勤めており、天気予報の話をしました。折柄雨が降り始め、奥平は傘を貸してくれ、クリスマスぐらいまで持っていてくれと言い、千里はまた会えるのかと期待しました。千里は傘を返すと言って奥平に会いました。
奥平は、自分がやっている首都圏雪結晶プロジェクトに千里も参加してくれと言いました。雪予報を更に充実させる為に、降る雪の結晶を調べて雪を降らせる雲の内部を知る為でした。千里は星六花という結晶が好きだと言い、久しぶりに千里は幸せな時間を実感していました。千里は奥平に傘を帰そうとしましたが、奥平は、雪の結晶を見る為に必要だからまだ持っていてくれと言い。。。
千里は最初の恋人に手ひどく振られ、気落ちしていた所に暴漢達に強姦されかかり、男性恐怖症に陥っていたのでした。しかし千里は自らの寂しさを自覚し、奥平に期待していました。奥平の事はちっとも怖いと思わなかったのでした。ついに千里は奥平に恋心を告白しましたが、実は奥平は。。。しかしクリスマスイブの日、2人は公園で雪を待っていました。折柄雪が降って来ました。奥平は、雪の結晶は物理プロセスによってのみ産まれ、性とも欲望とも遺伝子とも関係ない、しかし美しいのだと言い。。。
【アンモナイトの探し方】小学6年生の朋樹は夏休み、北海道富美別町の祖父の家を訪れて、元博物館館長の戸川に教えられてアンモナイトの化石を採集しようとしていました。町の博物館でアンモナイトの化石を見ていると、博物館の館長ヨシエに戸川を紹介されたのでした。朋樹は成績優秀で有名中学への進学を目指していましたが、両親の離婚を目前にして、塾に通えなくなっていたのでした。その事を祖父に告げると、祖父はいろいろ事情があるからアンモナイト取りはやめろと懇願しましたが、朋樹は祖父に黙って戸川の元を訪れました。
戸川に祖父の事を糾すと、その時の事情を書いたパネルが博物館にあるとだけ戸川は言いました。訳知り顔に自分の状況を弁じる朋樹に、朋樹のような頭の良い子供にはありがちだが、わかった気になるのはとても危険だと戸川が大学生の時の経験を語りました。わかるための鍵は常にわからないことの中にあり、その鍵を見つける為にはまず、何がわからないかを知らなければならないと教えました。
朋樹は博物館を訪れてヨシエに戸川のパネルを見せてもらいました。実は富美別町は。。。そしてヨシエは朋樹に博物館の倉庫を見せました、そこのは何万個ものアンモナイトの化石があり、それを集めた何千人もの学者の努力が。。。朋樹は、このまま化石になってたまるかと思い、必死にハンマーを振るいました。そしてついに。。。
【天王寺ハイエイタス】健は気になる噂を聞きました。東京で学者をしている筈の兄貴が天王寺に戻ってきて、ヤクザのようなおっさんに金を巻き上げられていたと言うのでした。そのおっさんの風体を聞いた健は、それは哲おっちゃんだとわかりました。松虫商店街で営業する健の実家の老舗かまぼこ店を継ぐのはいつも次男でした。じいちゃんの兄貴は画家を志して家出し、戦死しました。父親の兄哲治は元プロのブルースギタリストで、バンドを組んでアルバムを3枚出し、元ライブハウス店長で元バーテンで元キャバクラの呼び込みで現プータローでした。健の兄貴は東京でまっとうな大学教授をしていましたが、やはり実家は健が継ぐのでした。
実家に戻るとそのおっちゃんが小遣いをせびりに来ていました。おかんはそれを知って激怒しましたが、いつも父親は金を渡していたのでした。おっちゃんは3年程前に無職になってからは酔っぱらって喧嘩をしては警察の世話になり、貰い下げにいくのはいつも父親でした。おっちゃんは3度離婚し、3度目の妻ミチコさんとの間にはミカちゃんという娘が出来ました。離婚の理由はいつもおっちゃんの浮気でした。ミチコさんに離婚されておっちゃんは初めて反省し、バンドを辞めて就職しました。何度も復縁を懇願しましたが、ミチコさんはついに復縁しませんでした。
健は兄貴を誘って夜釣りに行きました。そこで健は兄貴におっちゃんとの事情を糾し、兄貴は驚愕の事実を打ち明けました。おっちゃんがミチコさんに離婚された頃から音楽関係の資料や楽器を全部捨てたと兄貴は言い、健は、実はそれらは全部この釣り場に沈んでいるのだと打ち明けました。兄貴はハイエイタスだとひとりごち。。。しかし兄貴は更に驚きの事実を語り、その場に現れた哲おっちゃんは。。。
【エイリアンの食堂】つくばで定食屋をやっていた謙介の娘で小学三年生の鈴花は、いつも夜にやって来て毎日違う定食を頼む女性を待ち受けていました。鈴花は彼女にプレアさんと言う名前を付けていました。謙介の食堂の売りは日替わり定食で、いつも赤字覚悟で提供していましたが、プレアさんは決して頼みませんでした。謙介は鈴花に懇願されて3つの質問をプレアさんにしました。1つ目は日替わり定食がおすすめだから食べてはどうか、2つ目はどこに住んでいるのか、3つ目は、仕事は何かでした。プレアさんは言葉を濁しましたが、とうとう鈴花は我慢できなくなって、本当はプレアさんはプレアデス星人なのだろうと言いました。。。
母親の病死後、何の係累も無いつくばで寂しく暮らしていた父娘でしたが、鈴花は最近オカルト情報に凝って宇宙人や輪廻転生について調べており、地球にはプレアデス星人が沢山来ていると信じていたのでした。するとプレアさんは何故自分がプレアデス人なのかと尋ね、鈴花は、昨日の夕方プレアさんは、神社の前で空に向かって「お~い」と言っていたのを見た、あの時空に飛んでいた黄色い光はプレアさんの仲間のUFOだと言い張りました。するとプレアさんは、あれは確かに宇宙船、そして自分は確かに宇宙人だと言い、鈴花はそれを聞いて大変喜びました。
プレアさんは、あの黄色い光は国際宇宙ステーションだと打ち明けました。そして自分は国道沿いの研究所で素粒子の研究をしていると言いました。そして素粒子について親子に説明し、ビッグバンによって宇宙中に散らばった素粒子から人間は出来ている、すべての人間は宇宙人なのだとも言いました。。。実は母親の死後、鈴花は不眠症になりました。鈴花が眠れない時、謙介は鈴花を連れてドライブに出かけました。その夜2人はプレアさんの研究所を見に行き。。。しかしプレアさんはしばらく来なくなり、親子は大変心配しました。ある夜思い余った鈴花は。。。しかしプレアさんは。。。
【山を刻む】わたしの子供2人と夫と義母は好き勝手に生きており、家の暮らしはすべてわたしの献身の上に成り立っていました。しかしわたしには最近思う人が出来、その人の元に行く事を常に考えていました。ある日思い余ってわたしは家出し、古いお気に入りのカメラを持って日光白根山登山に出かけました。わたしは元々山岳カメラマン志望でしたが、夫に出会って専業主婦になったのでした。山で巨大なザックを背負った若い男と四十絡みの男に出会いました。2人は互いに悪口を言い合いながら、喜々として石の標本を採ってはザックに入れていました。
ふとした事からわたしは2人に声を掛け、2人は、自分達は火山の研究をしている大学教員と大学院生だと言いました。そして自分達は火山を形作っている地層を調べ、噴火に備えるのだ、山を刻んでいるのだと打ち明けました。わたしはそれは自分の事だと思いました。家族達は自分の愛と心をみんなで刻んでいるのだと。。。しかしそうこうしている内にわたしは道に迷い、野宿を覚悟しました。下山を続けながら、自分の子育ては失敗だった、長男は甘やかし、長女は厳しく育て過ぎたと思い。。。しかしあの2人が道に迷っているわたしを発見し、車で送ると言ってくれました。久しぶりに人に心配されたわたしは思わず泣きそうになり。。。
下山の道々、先生は何故自分が火山研究を志したかを語りました。その話を聞いたわたしは、この先生は努力して自分のなりたいものになったが、自分は娘にとって一番なりたくないものになってしまったと言われた事を思い出し。。。大学院生の自分語りを聞いて、先生が山は良いだろうと彼に言うのを聞いたわたしは突然ひらめきました。それは。。。わたしが思う人とは。。。わたしの計画は。。。
【特別長編 新参者の富士】瑞穂と美希は富士山トレッキングに来ていました。2人は東京の飲料メーカーの同期でしたが、体調を崩した瑞穂は途中退職し、美希だけが何くれと連絡を寄越して時々会っていました。瑞穂はここの出身でしたが、生来身体が弱く、富士登山をした事は無く、常々富士山が瑞穂の弱さを笑っていると感じていました。2人は中年男と老夫婦の3人連れが、このあたりが山頂なのだと話している所に行き会い、何の事かと思っていました。帰路2人はまたその中年男に会い、美希が何か面白いものでもあるのかと声を掛け、中年男は、地元の大学で火山研究をしている教授だと自己紹介しました。
そしてここは小御岳火山の頂上になるのだと言い、富士山の成り立ちについて語りました。富士山などここに較べればまだまだ新参者だと教授は言い、瑞穂は頂上に目をやって、あなた、新参者ですってと嫌味を言いました。美希は来年は富士山に登ろう、あたしたち人生の新参者は達成できてもできなくても、人生に影響しないような目標を持てば良いのだと語り、瑞穂は思わず山頂に、あなたにこんな友達はいないだろうと言い、初めて富士山は寂し気に。。。
いやこれは素晴らしかったでした。伊予原先生初作品ですが、今年の直木賞をお取りになったのもよくわかりました。伊予原先生は東大大学院卒の理学博士で、実際に富山大学で助教授として教鞭をとっておられたと言う事ですが、7編の短編すべてに研究者が登場してその蘊蓄を語ります。研究者としての実績と研鑽が、作品の背骨として作品を引き締めていました。また最初の2編の主人公キャラクターはやや弱いですが、それ以後は圧巻です。
アンモナイトの探し方の戸川先生、天王寺ハイエイタスのおっちゃんとエイリアンの食堂のプレアさんが傑出しており、皆蓄積した研究や実績から現れるあふれる優しさを発揮する所が何とも泣けました。特にスピカさんは子供も家庭も無い女性ながら、母の死別に悩む鈴花を、素粒子の話で救う所は圧倒的でした。山を刻むのわたしの発見した最後の救いにも胸を打たれましたし、新参者の富士で美希の示した友情と瑞穂の気づきも素晴らしかったでした。楽しみに藍を継ぐ海を読もうと思いました。
お気に入り度:









掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
こんにちは。ブクレコ難民です。今後はこちらでよろしくお願いいたします。
この書評へのコメント

コメントするには、ログインしてください。
書評一覧を取得中。。。
- 出版社:新潮社
- ページ数:255
- ISBN:9784103362128
- 発売日:2018年12月21日
- Amazonで買う
- カーリルで図書館の蔵書を調べる
- あなた
- この書籍の平均
- この書評
※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。






















