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ことなみ
レビュアー:
ギリシャ神話にまつわる、こんな面白い短編がたった12編だけで終わっている。わずか182ページなのに面白くて長く書いてしまった。
短くて残念だと思ってあとがきを読むと、アテネ・オリンピックに因んで、開催の前年から書き始めて12編まできたところでオリンピックが終了。と共に連載が打ち切りになったそうだ。
たった12作で終わっている理由。
こんな面白い作品を200作は書く予定だったそうで、これを読んで小さい残念涙がチロッと出た。文庫本になってすぐ買ったのを今になって読んでいるような読者の言い草とも思えないが、とっても面白かった。
ギリシャ神話ならもっともっと題材はあるし、こんな風に柳流の上から下から斜めから深堀、浅掘りも含めて神話好きを小躍りさせてくれるかも知れなかった。のに。

ともあれそうなのでゆるゆると読んでみた。
題名の「ソクラテスの妻」でニヤリ、締めの「ヒストリエ」は読後に手を打つほど。
だから今ごろ言ってみる。ギリシャはオリンピックの時だけではないのにね。

短い備忘録

オイディプス
汝オイディップスよ、そなたは父を殺し、母と交わるであろう
神託は宿命、今も残る言葉。そのコンプレックス。

異邦の王子
スキュタイの王子は母から故郷ギリシャの話を聞いて憧れた、いざ行ってみるとギリシャ人は酒浸りで殴り合う野蛮人ばかりだった。そこで噂に聞くソロンを訪ねその博識と人格に打たれて弟子になった。彼はソロンから多くを学び、人々から尊敬されるまでに成長して帰国した。そして兄の矢にあたって死んだ。王は言ったギリシャで多くを学んだ息子よスキュタイの掟は忘れたのか。


白い帆と黒い帆、アテナイの王子に恋したクレタの王女アリアドネの話。
王子と共に国から出たアリアドネはクレタの歴史の滓から逃げられなかった。
立ち寄った島にひとり残り、アテナイに向かう王子の舟に密かに死の黒い帆を揚げておいた。

亡牛嘆
クレタ王がポセイドンから輝くような白い牡牛を授かった。妃のパシファエはその牛に恋し、名工ダイダロスに作らせた牝牛に入り交わった。そして生まれたのが牛頭人身のミノタウロスだった。彼は迷宮に閉じ込められ運命について考える。もうすぐ人身御供に交じって破滅がやってくる。「破滅」は美しく恋したアリアドネを連れて行った。

ダイダロスの息子
父が余りに名高い名工だった故に息子の僕は名前で呼ばれたことがない、母からも。
父は王妃に呼ばれ本物と見まがうような牡牛をつくった。次は王に呼ばれて入ったら出られない迷宮をつくり生まれた息子の化け物を閉じ込めた。僕と父も閉じ込められたが父は名工、翼を二組作った。「低過ぎず高すぎず飛ぶのだ、高いと膠が溶けて落ちるぞ」ふと下を見るとオヤジが僕の陰に入っていた。僕の陰に。僕は高く高く飛んだ。僕の名はイカロス。

神統記
ゼウスは父親を倒したクロノスを冥府につないで王座を勝ち取った。次々に娶った妻たちからは運命の女神豊穣の神詩歌の神など大勢の子供が生まれた。次々に父親を殺すという呪いが断たれてゼウスは不死の神になった。時が経ち戦いに倒れた親たちを想う。死は呪いでなく恩寵だったのではないかと。

狂いの巫女
アポロンとの約束を破ったカサンドラは呪いを信じた人々に信じてもらえない罰を受けている。トロイア戦に勝利したアメガムノンが十年ぶりに帰ってきた。貢物の王女カサンドラを連れて。狂った王女が不吉な言葉を叫ぶのを王妃がかばった。彼は湯殿で王妃に首を切り落とされたのだった。信じてもらえない王女のことはポールオースターの「孤独の発明」でも引用されていたけど、なるほど。

アイギナの悲劇
旱魃にはオリーブで作った女神像を安置せよと神託が下った。オリーブの木がないエピダウロスはアテナイに頼って像を作った。毎年生贄を送ることを条件に。だが独立したアイギナに像を盗まれた。当然生贄は送られない。怒ったアテナイが攻めてきた。事情を聴きに来た使者が煽ったのだ。そしてアテナイの戦士は全滅したが一人生き残ったあの使者は自分の話上手に自惚れていた。結果戦士たちの妻に殺された。

最初の哲学者
タレスは知識を求めてはるばるエジプトに来た。だが知識人の神官はそれを伝えようとしなかった。だがピラミッドの高さはいかに、という問いをやすやすと解いた。
知識を得て帰って来たが人々は素朴な知恵で彼の説を信じなかった。彼を人々に信じさせたのはオリーブの豊作だった。星から豊作を知ったといい、財を成した彼を人々は信じるようになる。彼の言葉は今でも生きていて「イオニア学派」と呼ばれギリシャ哲学の幕を開けた。タレスと星の話は彼の死後も人々の胸に生きていた。

オリンポスの醜聞
ヘファイストスは青銅を鍛えながら貧しい身体を見て、これでもギリシャ12神の一人なのかと思う。人々は彼を鍛冶屋と呼んで崇めている。神殿も戦車も彼が作った。その上愛の女神アフロディテが妻だった。彼女は「愛(エロス)」「欲望(ヒメロス)」を従えて神々の欲望を掻き立てていた。彼女は破壊の神アレスに恋をした。ヘファイストスは細い網を作ってベッドに仕掛けた。ベッドを吊りあげられた二人は集まった神々の嘲笑の中にいた。ヘファイストスはその時ふとばかばかしくなった。神々の不満顔を見ながら仕掛けを解いた。
そしてしみじみと思った美醜など幻影だ。

ソクラテスの妻
悪妻だと言われたが彼女はその訳が分からない。
世間離れした夫をかばってどこが悪妻なの。みすぼらしい衣服をはぎ取ったこと。何度もはだしで歩かないでといったがとうとう呆れてそのままにしていること。広場で水をぶっかけたこと、夫の言葉を理解しないで口汚くののしること?一緒に暮らしてみないと分からないわ、どうしようもない夫なのに。「無駄なものはいらない」って甲斐性がなくて買えないだけなのに。議論では負けたことがないから殴られたりけられたりするのよ。裁判だって援助を断ってああいうことになったのよ。理解せずに愛することが悪いことなの。

女王メディア
メディアはギリシャから来たイアソンに一目ぼれした。様々な障害を乗り越えてきた船団を率いる男。
目的は金羊皮と聞いて落胆した。父は牛を使って耕し作物を作れ、収穫後に望みをかなえよう」牛は怪獣で手に負えるものではない、メディアの助けで金羊紙を盗んで船出したギリシャの一行。メディアはついてきた弟を八つ裂きにして海に捨てた。それを王が拾って葬っている間に帰還した。しかし国は乱れていた。王が変わっていた。メディアは彼を助けたが残虐な本性を知られてしまった。彼は無惨にも死にメディアは生き残ってしぶとく生きた。

ヒストリエ
ヘロドトスは驚いた。長い千三百年という歴史をエジプトの司祭は証明して見せたのだ。記録を使って。記録することに驚いたのだ。ヘロドトスは何でも質問した。彼は好奇心の塊だった。そして知ったことに驚いた。そして同じものが一つもなく変化していることに。
彼は世界を旅して見聞きすることに常に驚いた。そして書き記した。風習、伝説、歴史や異国の人々について。
その上優れた判断力で書く事柄を取捨選択した。その記録をギリシャ人に読み語って聞かせた。だが冷たくされることもあった、聴衆は聞きたいことだけを聞く。
ペルシャ戦争の記録で筆をおいた。

ヘロドトスの残したものは“ヒストリエ”と名付けられた。
古いギリシャ語で“調査・探求”を意味するこの言葉に、英語で「ヒストリー」日本語で「歴史」の訳語がつくのは、ヘロドトスが生きた時代の何世紀も後のことだ。
ヘロドトスは今「歴史の父」と呼ばれている。


読了
新世界


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ことなみ
ことなみ さん本が好き!1級(書評数:645 件)

徹夜してでも読みたいという本に出会えるように、網を広げています。
たくさんのいい本に出合えますよう。

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