かもめ通信さん
レビュアー:
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「たいていのものは話半分だが、あれだけはかならず話のほうが小さい」たとえ語り尽くすことは出来なくても、語り継いでいかなくてはならない原爆の記憶、平和への願い。
このタイトルを見たらおそらく、こうの史代さんの 『この世界の片隅に』を思い浮かべる人が多いのではなかろうか。
この本は初版が1965年という古い本で、長らく絶版だったらしい。
2017年に異例の復刊が決まったのは、こうの作品との関連で注目されたからだという。
私はこの復刊のニュースを目にして、本書の存在を知ったクチだ。
もっとも同じ「片隅」でもやわらかな雰囲気のこうの作品とは異なり、こちらの「片隅」はかなり強烈だ。
本書は編者でもある作家山代巴が関わっていた「広島研究の会」のメンバーが、原爆投下後20年という節目に、様々なテーマで広島の被爆者のその後を追ったルポルタージュ集で、その中味はというと、在日朝鮮人、被差別部落、胎内被爆による障害児とその家族、被爆孤児、沖縄在住の被爆者といった、被爆者援護活動の中でも特に置き去りにされてきた人々の姿を追ったものなのだ。
冒頭に掲げられた山代による15ページほどの「まえがき」によれば、当時、旅のルポライターが至極簡単に「原爆被害者の吹きだまり」などと書いていた広島最大のスラム街の実態をつかむべく、担当した作家文沢隆一は、この地域に住み着いてこのルポルタージュを書き上げたという。
原爆孤児精神養子運動について書かれた「あすにむかって」を執筆したのはあの 『おこりじぞう』の作者山口勇子で、彼女がずっとこの精神養子運動に関わっていたことを知って目頭が熱くなる。
胎児に被曝の影響などなかったと言い続けてきた原爆傷害調査委員会(ABCC)の欺瞞を告発するルポはその取材活動を通じて、(我が子だけが……)と思い悩んでいた小頭症の子どもを抱える親たちを結びつけ、共に立ち上がらせもする。
当時はまだアメリカの占領下で、情報からも被爆医療からも遠ざけられていた沖縄に住む被爆者を訪ね歩いたルポも。
それそれのルポが告発する内容のすさまじさはもちろんのこと、文字通り「ペンは剣よりも強し」を地で行くこうした著者たちの活動にも、胸をつまらせずにはいられない。
後に「折れた八月」(1972年)で直木賞候補に、「夏の刻印」(1977年)で芥川賞候補にもなる小久保均が書いた「原爆の子から二十年」にこんな一節があった。
筆舌に尽くしがたいあれこれ。
語り尽くせない想い。
それでも、掘り起こし、語り継いでいかなくてはならないのだという並々ならぬ決意が、多くの書き手を動かしてきたのだと、改めて思う。
そしてそれは同時に、受け止める読み手にも、様々なものをつきつけているのだとも。
この本は初版が1965年という古い本で、長らく絶版だったらしい。
2017年に異例の復刊が決まったのは、こうの作品との関連で注目されたからだという。
私はこの復刊のニュースを目にして、本書の存在を知ったクチだ。
もっとも同じ「片隅」でもやわらかな雰囲気のこうの作品とは異なり、こちらの「片隅」はかなり強烈だ。
本書は編者でもある作家山代巴が関わっていた「広島研究の会」のメンバーが、原爆投下後20年という節目に、様々なテーマで広島の被爆者のその後を追ったルポルタージュ集で、その中味はというと、在日朝鮮人、被差別部落、胎内被爆による障害児とその家族、被爆孤児、沖縄在住の被爆者といった、被爆者援護活動の中でも特に置き去りにされてきた人々の姿を追ったものなのだ。
冒頭に掲げられた山代による15ページほどの「まえがき」によれば、当時、旅のルポライターが至極簡単に「原爆被害者の吹きだまり」などと書いていた広島最大のスラム街の実態をつかむべく、担当した作家文沢隆一は、この地域に住み着いてこのルポルタージュを書き上げたという。
原爆孤児精神養子運動について書かれた「あすにむかって」を執筆したのはあの 『おこりじぞう』の作者山口勇子で、彼女がずっとこの精神養子運動に関わっていたことを知って目頭が熱くなる。
胎児に被曝の影響などなかったと言い続けてきた原爆傷害調査委員会(ABCC)の欺瞞を告発するルポはその取材活動を通じて、(我が子だけが……)と思い悩んでいた小頭症の子どもを抱える親たちを結びつけ、共に立ち上がらせもする。
当時はまだアメリカの占領下で、情報からも被爆医療からも遠ざけられていた沖縄に住む被爆者を訪ね歩いたルポも。
それそれのルポが告発する内容のすさまじさはもちろんのこと、文字通り「ペンは剣よりも強し」を地で行くこうした著者たちの活動にも、胸をつまらせずにはいられない。
後に「折れた八月」(1972年)で直木賞候補に、「夏の刻印」(1977年)で芥川賞候補にもなる小久保均が書いた「原爆の子から二十年」にこんな一節があった。
たいていのものは話半分だが、あれだけはかならず話のほうが小さい
筆舌に尽くしがたいあれこれ。
語り尽くせない想い。
それでも、掘り起こし、語り継いでいかなくてはならないのだという並々ならぬ決意が、多くの書き手を動かしてきたのだと、改めて思う。
そしてそれは同時に、受け止める読み手にも、様々なものをつきつけているのだとも。
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本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
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- 出版社:岩波書店
- ページ数:240
- ISBN:9784004150220
- 発売日:2017年03月23日
- 価格:886円
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