darklyさん
レビュアー:
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不穏で落ち着かない気持ちにさせる整理しにくい物語
読み終わって面白かった、しかしすぐ内容を忘れる本があります。逆に読み終わっても自分の中で消化しきれていないが、時間が経つにつれイメージの輪郭がはっきりし、しっかり心に残っていく本もあります。本書はまさに後者に該当する本です。
湖のほとりの町ボロスで生まれたナミ(男の子)は母親の記憶が薄っすらと残っているが物心ついたときには祖父母と生活していた。祖父は漁に出て遭難し帰ってこなかった。祖母は骨折し弱ったことを村人に知られボートに乗せられて湖の精霊への生贄となった。
天涯孤独となったナミの家にはコルホーズの農場長家族が一緒に住むことになったが虐待を受ける。そのような境遇の中唯一の救いがザザという娘との恋であったが、ザザが目の前でロシア兵にレイプされる。ナミはザザを助けず農場長に罰として寝泊りするように命じられている鶏小屋にこもる。そして家を飛び出し、様々な人々と出会う中、仕事の同僚が残酷な死を迎える場面に遭遇し、若い道楽者の手下となったが反抗して逃亡、かつて上流階級であった老マダムの援助を経て母親を見つける。
母親との幸せな生活も束の間、故郷ボロスに帰ることを主張するナミは拒否した母親と別れ故郷に戻る。母親には戻れない理由があったのだ。そこでナミは自分の出自に関する真実を知ることになる。
これほど整理しにくい物語は珍しい。旧ソ連邦と思われる田舎の町が舞台であり、国家主席の像が立ち、ロシア軍兵士が幅を利かせている中、古い因習に囚われ湖に精霊がいると信じる人々、劣悪な環境で働かざるを得ない労働者など冷戦時代についての人々の暮らしを描いた小説であるとも言えます。地域等が特定されていないので本当にそのようなところがあるのかは分かりませんが。
一方、環境汚染の影響なのか腕が三本ある子供や腕がなく肩にそのまま手のひらがついている子供が生まれ、湖の島では細菌に汚染された動物たちが住み、湖の水は枯渇していくという状況から未来への警鐘を鳴らすディストピア小説とも読めます。
もちろんナミの自分探しのロードムービーのような小説でもあるわけですが、ナミの人間としての成長や自己を確立していくという一般的にありがちな物語とも言い切れない、一体ナミとはどのような人物なのか最後までよく分からない、そしてハッピーエンドでもバッドエンドでもないといったある意味とても歯切れの悪い物語とも言えます。そして物語全体から漂う何か不穏で落ち着かない気持ちにさせる雰囲気を的確に表現しているのが青を基調とする背景の中に浮かび上がるのっぺらぼうの子供が描かれるジャケットなのです。
私はこのような本は好みなのですが、ちょっと人には勧めにくい。
本書は読んだ人の数だけ違った感想や評価がありそうな本のような気がします。
湖のほとりの町ボロスで生まれたナミ(男の子)は母親の記憶が薄っすらと残っているが物心ついたときには祖父母と生活していた。祖父は漁に出て遭難し帰ってこなかった。祖母は骨折し弱ったことを村人に知られボートに乗せられて湖の精霊への生贄となった。
天涯孤独となったナミの家にはコルホーズの農場長家族が一緒に住むことになったが虐待を受ける。そのような境遇の中唯一の救いがザザという娘との恋であったが、ザザが目の前でロシア兵にレイプされる。ナミはザザを助けず農場長に罰として寝泊りするように命じられている鶏小屋にこもる。そして家を飛び出し、様々な人々と出会う中、仕事の同僚が残酷な死を迎える場面に遭遇し、若い道楽者の手下となったが反抗して逃亡、かつて上流階級であった老マダムの援助を経て母親を見つける。
母親との幸せな生活も束の間、故郷ボロスに帰ることを主張するナミは拒否した母親と別れ故郷に戻る。母親には戻れない理由があったのだ。そこでナミは自分の出自に関する真実を知ることになる。
これほど整理しにくい物語は珍しい。旧ソ連邦と思われる田舎の町が舞台であり、国家主席の像が立ち、ロシア軍兵士が幅を利かせている中、古い因習に囚われ湖に精霊がいると信じる人々、劣悪な環境で働かざるを得ない労働者など冷戦時代についての人々の暮らしを描いた小説であるとも言えます。地域等が特定されていないので本当にそのようなところがあるのかは分かりませんが。
一方、環境汚染の影響なのか腕が三本ある子供や腕がなく肩にそのまま手のひらがついている子供が生まれ、湖の島では細菌に汚染された動物たちが住み、湖の水は枯渇していくという状況から未来への警鐘を鳴らすディストピア小説とも読めます。
もちろんナミの自分探しのロードムービーのような小説でもあるわけですが、ナミの人間としての成長や自己を確立していくという一般的にありがちな物語とも言い切れない、一体ナミとはどのような人物なのか最後までよく分からない、そしてハッピーエンドでもバッドエンドでもないといったある意味とても歯切れの悪い物語とも言えます。そして物語全体から漂う何か不穏で落ち着かない気持ちにさせる雰囲気を的確に表現しているのが青を基調とする背景の中に浮かび上がるのっぺらぼうの子供が描かれるジャケットなのです。
私はこのような本は好みなのですが、ちょっと人には勧めにくい。
本書は読んだ人の数だけ違った感想や評価がありそうな本のような気がします。
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昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。
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- 出版社:河出書房新社
- ページ数:216
- ISBN:9784309207674
- 発売日:2019年04月19日
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