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ゆうちゃん
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地球の歴史をもう一回やり直したら、人間はやはり発生するのだろうか?進化生物学者S・J・グールドのこの問いかけに正面から答えた本。系統が異なる生物でも、環境により似た体形や機能を持つ場合が多々あるが・・

※ネタバレ注意! 以下の文には結末や犯人など重要な内容が含まれている場合があります。

朝日新聞の書評欄で知った本。
本書は、進化は偶発性に大きく依存すると言う進化生物学の巨人スティーブン・J・グールドの学説(主として彼の著作「ワンダフルライフ」からの引用)と進化は繰り返すと言うコンウェイ=モリスの学説を引用しながら、両者を比較検討する本である。
3部構成となっており、第一部「自然界のドッペルゲンガー」と題し、収斂進化を引き合いに出して、進化の繰り返し性をややひいき目に、つまりコンウェイ=モリスの学説に寄った形で取り上げている。収斂進化とは環境に適応した結果、遠縁の生物が類似の形態や機能を持つことであり、一番身近では魚の様な形態の鯨やイルカ(クジラは魚偏だ!これらは哺乳類である)、ほぼ人間の眼を同じ機能を持つタコの眼などが挙げられる。
DNA解析がかなり進み、この収斂現象は、種だけではなく生態系、つまり棲み分けにも及ぶことがわかって来た。オーストラリアでは、アジアや北米の様に種々の鳥がみられるが、これらの鳥は、従来は他の大陸からそれぞれの種が移動して来たのだと思われていた。だが、DNAの解析で、形態がかなり異なるこれらの鳥類は、皆同一の先祖を持つことがわかった。孤立した大陸での、餌などによる棲み分け現象、その結果として生態系そのものが旧大陸と似た様になる、それも収斂進化の一例である。
第二部は、進化が繰り返されると言う実証に取り組んだ学者たちの苦闘の物語である。グッピーの体色、アノールトカゲの肢の長さ(著者自身の研究)、ハルガヤ(植物の一種)、イトヨ(魚、形状)、シカネズミ(体色)。ダーウィンは進化の発現は悠久の時間がかかると言った。それからほぼ100年以上経って、やっとこの発言を疑う学者が出てきた。この章に登場する学者たちは、これらの生物が、捕食者の有無、水温、堆肥の種類により如何に進化が比較的早く発現させるか、と言うことをフィールドで、またはフィールドを模した環境(水槽など)で証明してきた。どの学者も、生物の形態の変化が、本当に遺伝なのか、それとも単に個体が環境によって鍛えられただけなのか(表現可塑性と言う)、の区別にとても苦労している。
第三部は、第二部の微生物版、主に大腸菌を使っての進化の証明実験である。これらの微生物の利点は、同一先祖(1個の大腸菌)から多数の世代(本書では6万4千世代)に渡って観測を続けられることである。第三部の記述はかなりの割合で第二部と重複するが、ここで偶発性の重要さが強調される。大腸菌は、理由は解明されていないが、有酸素環境下ではクエン酸を代謝出来ない。ところが、この実験では、生きるのにギリギリの分量のブドウ糖(にクエン酸が混ざったもの)の餌を与えられ続けた大腸菌のうち1株が、ある日突然、有酸素環境下でクエン酸を代謝する能力を獲得した。この能力は少なくとも2万世代目にひとつの遺伝子の変異が起き、さらに世代を重ねて二つ目の遺伝子の変異が起きないと獲得出来ない。このような実験は、各生物の世代の長さを考えると、ショウジョウバエなら1千年、マウスなら1万年かかる実験である。
この様な進化の実験を紹介した後、終章で地球の歴史をもう一回やり直した時、又は他の惑星でヒトが誕生する可能性について考察している。第三部の途中までは進化の再現性(同じ環境に置かれればどの生物も似たような形態や能力を獲得する)に重点を置いて説明していた。だが、カモノハシ、ヒトなど進化の特異点、かなりの偶然が重ならないと発生しない種もある。ヒトはアフリカでしか発生せず、オーストラリアやかつては孤立大陸だった南米では発生していない。結局、著者はある程度の進化は予測可能で再現性もあるが、特異な進化はかなり偶然に依存し、超長期で見れば、進化は予測できないものである、と言うことを言っている。

「未知との遭遇」と言う映画があるが、あれに登場する異星の知性体は、やはりどこか人間を思わせるものである。そう言う意味では、人間の想像に捉われたものである。本書を読むと、学者の中にはそれを肯定する人もいる。結局、知性を持つには脳が発達し、直立歩行が必要だからだと言う訳だ。だが、発達した脳は直立歩行の産物だろうか?ヒトが多くの大陸で育たなかったこと、中生代の生物と新生代の生物の非類似性などを考えると他の惑星の知性体がヒトに似ている保証はない(むしろレム小説の「ソラリスの陽のもとに」の方が異星系の知性体としてありそうな感じを受ける)。
拙評では、進化の実証実験の困難性はあまり言及しなかったが、これらの実験がすんなり行く訳でもない。表現可塑性の問題もあれば、フィールド実験では、想定外の実験パラメータの影響が示唆され、人工環境下での実験では、自然環境からかけ離れていると言う非難がなされる(結局、二律背反と言うこと)。本書では新しい分野に取り組む学者のそう言った苦労も面白く記述されていて、進化に興味を持つ読者に新しい視点を提供してくれる。
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ゆうちゃん
ゆうちゃん さん本が好き!1級(書評数:1686 件)

神奈川県に住むサラリーマン(技術者)でしたが24年2月に会社を退職して今は無職です。
読書歴は大学の頃に遡ります。粗筋や感想をメモするようになりましたのはここ10年程ですので、若い頃に読んだ作品を再読した投稿が多いです。元々海外純文学と推理小説、そして海外の歴史小説が自分の好きな分野でした。しかし、最近は、文明論、科学ノンフィクション、音楽などにも興味が広がってきました。投稿するからには評価出来ない作品もきっちりと読もうと心掛けています。どうかよろしくお願い致します。

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この書評へのコメント

  1. ゆうちゃん2020-01-04 17:42

    新年明けましておめでとうございます。本年もどうかよろしくお願い申し上げます。

  2. ヤドリギ2020-01-06 12:29

    カモノハシってほんとにおかしな生き物ですね。岡山にはヌートリアという変わった生き物が出没するらしいです。

  3. ゆうちゃん2020-01-06 23:19

    ヤドリギさん、コメントありがとうございます。

    本書にも出ていましたが、カモノハシを最初に見せられた学者が、幾つかの動物や鳥をくっつけて珍妙なものに仕立て上げたのだろう?と言ったとか。人間と同じくらい奇妙な動物です!ヌートリアは外来種の様ですね。日本では珍妙な種でしょうか。
    なんか今日は新年最初の営業日故か、20時頃からアクセスが集中したとかで、書評を読むのが一苦労で、メゲました。今日、一件投稿しようと思いましたが、中止です。このサイトでは時々こういうことがあるみたいですが・・。

  4. No Image

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