かもめ通信さん
レビュアー:
▼
『アンネの日記』は苦手だけれど、マルゴット・フランクの日記には興味があるなあ。
ともに芥川賞作家の小川洋子と堀江敏幸による14通の往復書簡小説。
奇数章が小川の手による「私」の手紙、
偶数章が堀江の書く「僕」の手紙という構成だ。
「まぶたをずっと、閉じたままでいることに決めたのです」
一通目の手紙の中で「私」はそう告白する。
さすが小川洋子!いきなり不条理文学できたか!?と読み手が構えたところで、
架空の国の切手を作品とした夭折の画家ドナルド・エヴァンズの話が
読者の心をがっつりつかむ。
2通目の手紙で「僕」は、自分が視力を失うことになった事故について語ると同時に
10歳で片目の視力を失い、その後もう片方の視力も徐々に失っていった
全盲の写真家ユジェン・バフチャルの話をする。
となると、もしや「私」は、
「僕」と一体化するためにまぶたを閉じたままでいることにしたというのか。
それもなんだか、おかしな話ではないか?と首をかしげつつ先へ進むも
まぶた問題だけでなく、
愛し合っていた2人はなぜ別れなければならなかったのかさえも
読者の疑問はなかなか解決されない。
それどころか、核心に触れそうになると
まるで読者をじらすかのようにように、
ロシアの宇宙船に乗せられた犬・ライカの話や、
アンネ・フランクやアンネの姉マルゴーの話など、
さまざまな話が差し挟まれるのだ。
手紙の1通、1通に掌編のような物語が綴りこまれていて
それらも確かに読み応えがあるのだが、
そうした一つ一つが
なんのたとえで提示されているのか
それが謎解きに直結するものなのかどうかが
はっきりしないのがもどかしい。
ああこれは、まんまと著者たちのしかけた罠にはまっているなあとおもいつつも
のめり込んでいく自分を抑えられずに一気に読んだ。
ふと長田弘の『すべてきみに宛てた手紙』を思い出す。
そんな一節があったっけ。
そうして私は、これが正解かどうか、はっきりわからないものの
私なりにこの謎を解いたような気になっている。
だがきっと、答え合わせなど必要ではないのだ。
小説も手紙と同じで書き手の手を離れた瞬間に
受け手のものになっていくものだと思うから。
奇数章が小川の手による「私」の手紙、
偶数章が堀江の書く「僕」の手紙という構成だ。
「まぶたをずっと、閉じたままでいることに決めたのです」
一通目の手紙の中で「私」はそう告白する。
さすが小川洋子!いきなり不条理文学できたか!?と読み手が構えたところで、
架空の国の切手を作品とした夭折の画家ドナルド・エヴァンズの話が
読者の心をがっつりつかむ。
2通目の手紙で「僕」は、自分が視力を失うことになった事故について語ると同時に
10歳で片目の視力を失い、その後もう片方の視力も徐々に失っていった
全盲の写真家ユジェン・バフチャルの話をする。
となると、もしや「私」は、
「僕」と一体化するためにまぶたを閉じたままでいることにしたというのか。
それもなんだか、おかしな話ではないか?と首をかしげつつ先へ進むも
まぶた問題だけでなく、
愛し合っていた2人はなぜ別れなければならなかったのかさえも
読者の疑問はなかなか解決されない。
それどころか、核心に触れそうになると
まるで読者をじらすかのようにように、
ロシアの宇宙船に乗せられた犬・ライカの話や、
アンネ・フランクやアンネの姉マルゴーの話など、
さまざまな話が差し挟まれるのだ。
手紙の1通、1通に掌編のような物語が綴りこまれていて
それらも確かに読み応えがあるのだが、
そうした一つ一つが
なんのたとえで提示されているのか
それが謎解きに直結するものなのかどうかが
はっきりしないのがもどかしい。
ああこれは、まんまと著者たちのしかけた罠にはまっているなあとおもいつつも
のめり込んでいく自分を抑えられずに一気に読んだ。
ふと長田弘の『すべてきみに宛てた手紙』を思い出す。
文字をつかって書くことは、
目の前にいない人を、じぶんにとって無くてはならぬ存在に変えてゆくことです
そんな一節があったっけ。
そうして私は、これが正解かどうか、はっきりわからないものの
私なりにこの謎を解いたような気になっている。
だがきっと、答え合わせなど必要ではないのだ。
小説も手紙と同じで書き手の手を離れた瞬間に
受け手のものになっていくものだと思うから。
お気に入り度:







掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
- この書評の得票合計:
- 35票
読んで楽しい: | 4票 |
|
---|---|---|
参考になる: | 29票 | |
共感した: | 2票 |
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。
この書評へのコメント
- かもめ通信2019-12-03 05:37
>たけぞうさん
いやいや読みこなせているかどうかは別として、これはかなり私好みの作品でした。
実をいうとぱせりさんのレビューを拝見した時点で、読みたい本のリストにはいれていたのですが、たけぞうさんのレビューで(その「幻想」具合はきっと好物だぞ)と確信しましたw
おかげで楽しませて戴きました。
本筋のつかみにくさにくらべて、話題に上るあれこれが「現実的」なのがまた面白いというか。
絵をお描きになるたけぞうさんなら、ドナルド・エヴァンズやユジェン・バフチャルの方へ進まれるかとも思ったのですが、そちらには派生しませんでした?
バフチャルの写真を解するのは私にはちょっと難しそうですが、ドナルド・エヴァンズのあのこだわりぶりには興味があります。クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 - かもめ通信2019-12-03 16:15
↑ のコメントにEvgen Bavcarの写真集の書影を添付したかったのですが、Amazonで選択しても反映されませんでした。(><)
代わりに私がこの本を読みはじめたとき真っ先に思い浮かべた本をあげておきますねwクリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。 コメントするには、ログインしてください。
書評一覧を取得中。。。
- 出版社:中央公論新社
- ページ数:288
- ISBN:9784120052057
- 発売日:2019年06月18日
- Amazonで買う
- カーリルで図書館の蔵書を調べる
- あなた
- この書籍の平均
- この書評
※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。