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かもめ通信
レビュアー:
『アンネの日記』は苦手だけれど、マルゴット・フランクの日記には興味があるなあ。
ともに芥川賞作家の小川洋子と堀江敏幸による14通の往復書簡小説。
奇数章が小川の手による「私」の手紙、
偶数章が堀江の書く「僕」の手紙という構成だ。

「まぶたをずっと、閉じたままでいることに決めたのです」
一通目の手紙の中で「私」はそう告白する。
さすが小川洋子!いきなり不条理文学できたか!?と読み手が構えたところで、
架空の国の切手を作品とした夭折の画家ドナルド・エヴァンズの話が
読者の心をがっつりつかむ。

2通目の手紙で「僕」は、自分が視力を失うことになった事故について語ると同時に
10歳で片目の視力を失い、その後もう片方の視力も徐々に失っていった
全盲の写真家ユジェン・バフチャルの話をする。

となると、もしや「私」は、
「僕」と一体化するためにまぶたを閉じたままでいることにしたというのか。
それもなんだか、おかしな話ではないか?と首をかしげつつ先へ進むも
まぶた問題だけでなく、
愛し合っていた2人はなぜ別れなければならなかったのかさえも
読者の疑問はなかなか解決されない。

それどころか、核心に触れそうになると
まるで読者をじらすかのようにように、
ロシアの宇宙船に乗せられた犬・ライカの話や、
アンネ・フランクやアンネの姉マルゴーの話など、
さまざまな話が差し挟まれるのだ。

手紙の1通、1通に掌編のような物語が綴りこまれていて
それらも確かに読み応えがあるのだが、
そうした一つ一つが
なんのたとえで提示されているのか
それが謎解きに直結するものなのかどうかが
はっきりしないのがもどかしい。

ああこれは、まんまと著者たちのしかけた罠にはまっているなあとおもいつつも
のめり込んでいく自分を抑えられずに一気に読んだ。

ふと長田弘の『すべてきみに宛てた手紙』を思い出す。
文字をつかって書くことは、
目の前にいない人を、じぶんにとって無くてはならぬ存在に変えてゆくことです

そんな一節があったっけ。

そうして私は、これが正解かどうか、はっきりわからないものの
私なりにこの謎を解いたような気になっている。
だがきっと、答え合わせなど必要ではないのだ。
小説も手紙と同じで書き手の手を離れた瞬間に
受け手のものになっていくものだと思うから。
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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2233 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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この書評へのコメント

  1. たけぞう2019-12-02 21:58

    >かもめ通信さん
    書評、お待ちしていました。まさかこの作品だったとは。さすがです。読みこなしていますね。とても勉強になります。

  2. かもめ通信2019-12-03 05:37

    >たけぞうさん
    いやいや読みこなせているかどうかは別として、これはかなり私好みの作品でした。
    実をいうとぱせりさんのレビューを拝見した時点で、読みたい本のリストにはいれていたのですが、たけぞうさんのレビューで(その「幻想」具合はきっと好物だぞ)と確信しましたw
    おかげで楽しませて戴きました。
    本筋のつかみにくさにくらべて、話題に上るあれこれが「現実的」なのがまた面白いというか。
    絵をお描きになるたけぞうさんなら、ドナルド・エヴァンズやユジェン・バフチャルの方へ進まれるかとも思ったのですが、そちらには派生しませんでした?
    バフチャルの写真を解するのは私にはちょっと難しそうですが、ドナルド・エヴァンズのあのこだわりぶりには興味があります。

  3. かもめ通信2019-12-03 16:15

     ↑ のコメントにEvgen Bavcarの写真集の書影を添付したかったのですが、Amazonで選択しても反映されませんでした。(><)
    代わりに私がこの本を読みはじめたとき真っ先に思い浮かべた本をあげておきますねw

  4. たけぞう2019-12-03 21:39

    >かもめ通信さん
    「葉書でドナルド・エヴァンズに」のちょわさんの書評、読み直してきました。とても記憶に残っています。まさか、こんなつながりがあったとはですね。久々にちょわさんの書評が読めたら嬉しいですね。
    エヴァンズとバフチャルの作品は、想像だけで読み進めました。自分的になんとなくそうしたかったみたいで。こうしてWebで作品を見ると、あの世界に戻れる気がして嬉しいです。

  5. かもめ通信2019-12-04 06:47

    普段あまり日本の小説を読まない私には、翻訳小説ならきっとつくだろう沢山の訳註がいっさいないということが新鮮だったりw
    もっとも小説を楽しむ上では、誰が実在した人物かとか、どんな作品を残しているかなんてことを知らなくてもさしたる問題はなくて、なにかの拍子に偶然、点と点がつながっって(ああ!これは!あの本に出てきた!)と気がつけば、2度美味しいというだけの話だという気もするのですが。

  6. No Image

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