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星落秋風五丈原
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「子どもはただ無垢に生まれてくるのですけれどね」(市川ジュン「アンタレス」より)
 金子文子の事を最初に知ったのは映画「金子文子と朴烈」。関東大震災で朝鮮人を巡る流言飛語が飛び交い、不穏分子として捕らえられた文子は朴烈と共に圧倒的不利な裁判を戦い抜く。

 彼女は無籍者として育ち、実の祖母や叔母には女中替りにこき使われた。13歳の彼女を突き動かしたのは復讐心だった。

けれど、けれど、世の中にはまだ愛すべきものが無数にある。美しいものが無数にある。私の住む世界も祖母や叔母の家ばかりとは限らない。世界は広い。
そう思うと私はもう、「死んではならぬ」とさえ考えるようになった。そうだ、私と同じように苦しめられている人々と一緒に苦しめている人々に復讐をしてやらねばならぬ。そうだ、死んではならない。

 だが、復讐心を抱き続けながら生きるのは厳しい。やり切るのは、よほど大きな相手でないと。彼女たちが相手にしたのは国であり、社会だった。

 映画「未来を花束にして」では完全な脇役だったエミリー・ディヴィソン。映画では名優メリル・ストリープがサフラジェット(参政権を女性にも与えるよう主張する活動)のリーダー、エメリン・パンクハーストを演じており、皆を平等に鼓舞していた。しかしマッド・エミリーという二つ名までもらったエミリーは、史実ではその行動があまりにも過激すぎるとして、エメリンとその娘から忌避されていた。ポストに爆弾を投げ込んだりした過激なサフラジェットの彼女は、国王の馬の前に身を投げる。この映像はYouTubeで今でも見られるそうだ。恐ろしくて見られないが、少しも迷いがなくすたすたと歩いていたらしい。皮肉な事に、死んで初めて彼女はサフラジェット活動の役に立つ。彼女の葬儀は壮大なイベントとして、世にサフラジェット達の活動を広く知らしめた。

 もう一人はアイルランド独立運動の一つ、イースター蜂起で活躍したスナイパー、マーガレット・スキニダー。三人のうち彼女だけが病死という(三人の中では)穏やかな最期を迎える。一方で、これだけ「死んではならぬ」と繰り返していた金子文子が自殺という結果も納得がいかない。

 本編は百年前に生きた三人の女性達の生涯を交互に綴る。章タイトルはついていない。前の章の最後の言葉が、次の章で繰り返され、三人に共通の要素があったことを窺わせる。テロルという名称は物騒で、確かに過激な行動もここには書かれている。しかし、“以前よりはましになった”が“♯MeToo”や“職場でのハイヒール”など、未だに女性だけが不自由を感じたり理不尽を味わわされている機会は枚挙にいとまがない。
    • 映画「 金子文子と朴烈」
    • 映画「未来を花束にして」
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2321 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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この書評へのコメント

  1. あかつき2019-07-26 06:55

    おはようございます、市川ジュンに反応しちゃいました、w
    漫画の女性史といえばジュン様ですよね!

  2. 星落秋風五丈原2019-07-26 20:32

    そうなんですよ。別マのも一つ持ってました。後はレディースで連載されたものの文庫版とかコミックスとか持ってますよ。

  3. あかつき2019-07-26 20:42

    わたしも昭和史ものと鎌倉、室町ものを持ってます。なんかレビューあった気がします、探してみよっとw

  4. 星落秋風五丈原2019-07-26 20:52

    陽の末裔、鬼国幻想、華の王ですかね。燁輝妃も持ってます。彼女こそずっと前から今のようなブームになる前から漫画でフェミニズムを標榜してました。この本の激しいヒロインの漫画を描くようなタイプじゃないかなと。まあ、そのものずばりを書くと多くに共感してもらえないので脚色はするでしょうが。

  5. あかつき2019-07-26 21:03

    緋和さま!好きィ!ああ、その4作全部持ってますw
    陽の末裔の最後が大好きです。彼女こそ、太陽であった。

  6. 星落秋風五丈原2019-07-26 21:12

    私も昔ぱらぱらと書いてましたね。

    https://www.honzuki.jp/book/194088/review/165790/

    茗子センセーションとか。

    https://www.honzuki.jp/book/191810/review/165789/

    慶応三年のフルコースとかしか残ってないですけど。

  7. No Image

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