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oldmanさん
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日本人てなんなのですか?
図書館 かもめ通信さんの書評をみて、娘に確認(最近は僕のYA以下の本のアドバイザーなので……)すると
「凄く良い本だよ!」との返事。
ということで読んでみました。

今まで読んだこの問題を扱った本の殆どは日本人が書いていました。
今回移民であるナディさんの話が読んだ事でまた一つ学ぶことが出来ました。

すごく読みやすい文章です。読みやすすぎるかもしれません。
著者は、日本人以外にも読みやすい様に、全ての漢字にふりがなを振っていますので、それと同様な理由で読みやすい文にしたのだと思います。

著者のナディは6歳の時、両親と弟二人の一家五人で来日しました。1991年というから丁度バブルが崩壊した頃ですね。

ナディ達はその余波をあまり受けない内に入国できたようです。

でも、ナディの知っている日本は「おしん」と「水戸黄門」」「みなしごハッチ」(しかもペルシャ語……)だけ、だから彼女は日本ではみんなペルシャ語を話し(含むハチ)チョンマゲを結っていると思っていました。

ナディー一家は出稼ぎの為に日本に来ました。普通ならお父さん一人が来るのですが、お母さんが反対して一家で入国したんです。
とうぜん三ヶ月の観光ビザでの入国ですが、当時はまだ人手不足の状態が続いていて半ば黙認されていたのですね。

実際その頃働いていた印刷業界では結構な外国人が居ました。
彼らは不法滞在でしたが、正直言ってすごく優秀で働き者でした。

さて、ナディ達の子どもの頃のはなしはとても感動的です。同じアパートには多くの不法残留イラン人が居たそうです。
彼らからすれば、子連れで目立つナディー一家は迷惑以外の何者でも有りません。それでも幼い一番下の弟が居なくなったときは、みんなで探してくれます。

お父さんお母さんが働くことで収入が安定し、ナディー達は日本語教室に通うようになります。
そこで、彼女はスピーチ大会へ出て「学校へ行きたい」とスピーチすることで、彼女は学校へ行けるようになるのです。

彼女は学校で考えます。
自分達、不法滞在者というのはどういう存在なのか?
自分達は何者なのか?

最初はまったく解らなかった3桁の掛け算をこなすようになり、
日本語教室のスタッフから贈られた、国語辞典と漢字辞典を使い、彼女はどんどん成長します。
一学年下とはいえ、驚くべき成長です。
その影には恐らく物凄い努力が有ったのだと思います。

しかし学校に居る限りいろいろな問題が起こります。
体操着のブルマやショートパンツの問題や給食の問題(厳格なイスラム教徒は、女性が家族以外の男性に肌を見せたりすることを嫌いますし、食べ物も「ハラルフード」以外を嫌います。)やら、彼女は勇気を出して先生に伝えて了解を得ます。

これって回りが理解していないと、中々難しいことだと思います。幸い彼女は周りがキチンと受け入れられる人が多かったのでこの問題がクリアできました。

これを読んでいて、一番感心したのは彼女が学校で進化論を習って、イスラムの教えと違うと悩むことでしょう。
彼女はお祈りの集会で、コーランを読む担当者(決して宗教的指導者ではありません。)に訪ねます。

「あの、質問があります。学校で先生が人間はサルから進化したと言っていて、神さまがつくったんじゃないみたいなんですけど……どう考えたらいいんでしょう」
するとエクバーグさんは、
「その進化の原点をつくったのが神さまだから、どっちの言っていることもまちがっていないんだよ」


なるほど、知的で信心深いイスラム教徒はこういう考え方をするのだな……と感心させられました。
(言っちゃぁなんですけど、頑固な福音主義者より余程柔軟です。)

もうひとつ、感心したのは……これは娘にも確かめたのですが、日本でも近年は公共施設では「メリークリスマス」という言葉は避けるようになったようです。
その代わりハッピー‐ホリデーズ(happy holidays)という言葉を使うらしいのです。

いや 勉強不足で知りませんでした。考えてみればろくに教会にも足を向けず、一週間も経たぬうちに神社やお寺に初詣に行く様な状態でメリークリスマスっておかしくないですか?

ナディーは大学へ進学し、エンジニアとして就職し、伴侶を得て子をなします。

あるとき、私が息子と話しながら歩いていると、二人のおばあちゃんが話しかけてきました。
「とっても日本語お上手ね!日本は長いの?」
「はい、育ちが日本なんです」
「そうなの~、何年くらい?」
「26年になります」
「あら~、そんなに長いのいね!じゃぁもう日本人ね」
一人のおばあちゃんがそう言うと、もう一人が驚いて言いました。
「え、でも生まれはちがうんでしょ?」
「でも日本に26年も住んでいるのよ?」
「だって生まれはちがうのよ?」


此処までよんで思うのは、冒頭に掲げた疑問です。

日本人てなでしょう?

法律的には、どちらか片方が日本国籍を持っていれば生まれた子どもは日本国籍を得られます。
二重国籍の子どもは、20歳になるまでにどちらかの国籍を選べます。

最近ネットなどで見られる書き込みに多いのは、「自分は日本人」という書き出しです。
でも僕が思うのは「日本人」とは何か?という疑問なのです。

此処で明かすのは妥当でないので書きませんが、僕の姓は非常に特殊な珍姓です。
人によっては、中国や韓国人だと思う人も居るでしょう(もっともどちらの国にも無い姓ですが……)
だからでしょうか? 子どもの頃から国籍問題には敏感でした。
国籍で人を差別してはいけないと思いながら、心の奥底で差別的な思いが有る自分が大嫌いでした。

その思いが無くなったのは中年を過ぎての事です。
僕は一歩間違えていたら、嫌らしいレイシストになっていたのだろうと思っています。

だからこそ、こういう問題に敏感なのです。
近年では「大阪ナオミ」や「八村塁」や「サニブラウン・ハキーム」の様に半分は外国人で有るが、日本国籍のスポーツ選手が活躍しています。
それを、日本の誇りのごとく称賛する人やメディアがいます。

でも彼らは彼らなんです。大阪ナオミであり八村塁であり、サニブラウン・ハキームなんです。

もう一度聞きます? 日本人てなんですか?
日本に生まれただけなら日本人ではありません。
両親の内どちらかが日本国籍を持っていて、初めて日本人なのです。
だから、母親が外国人で日本で生まれても、父親が認知しなければその子どもは外国人か最悪無国籍になります。

日本人てなんなのでしょう?神話じゃ有るまいし、オノコロジマから湧いて来た訳ではありません。
大陸と陸続きの時に徒歩できた人も居るでしょう。
船で朝鮮半島から渡ってきた人も居るでしょう。
南方から渡来した人も、北から氷の上を歩いてきた人もいます。
全部が日本人なんです。
ならば、今日本に船や飛行機できて、この国に住みたいと思う人たちが、どうして外国人なのでしょう?

この国は、昨年の子どもの出生数が90万人を切りました。
厚生労働省は「令和婚を望んだカップルが多かったので、出生数が減少した。」などと馬鹿げた誤魔化しを発表しました。

益々高齢化社会となるこの国は、移民や日本人として働きたい人々を、政府の言うような単純労働力では無く、この国の活力となる力として、そして「隣人」として受け入れるべきではないですか?

彼女も書いていますが、「国際化」というのは多くの日本人が海外へ行くことでも、多くの観光客がこの国に来て「カジノ」でお金を落とすことでもありません。
異文化をもっと受け入れて、許容することです。彼女はこれを「内なる国際化」と言っています。

今この国のコンビニの店員の多くには外国人が働いています。彼らはものすごく優秀です。僕は逆に彼らの国へ行って、彼らのように働ける自信なんて毛頭ありません。
でもその背景には、教育よりも労働力として留学生を供給する悪質な専門学校が有ったりします。

こうした様々な抜け道は、「単純労働者=移民は受け入れない」という「建て前」と、外国人の労働力を使いたいという「本音」との折り合いをつけるために制度化された面が有ると考えられています。そうした外国人は、日本に定住できない在留資格を与えられ、定められた期間が過ぎたら本国に帰ることになります。外国人労働者には、日本で働いて欲しいけれど、定着したり家族をつくったりはしてほしくない、という本音が制度の根底に見えるとは思いませんか。


一言の言い訳もありません。こう言われたら何も言えず、恥ずかしさに顔を伏せるだけです。

文化には衝突で生まれるものもありますが、出来るなら「対話」で生まれて欲しいのです。
そのためには、もう其処に居るのは外国人では無くて、あなたの隣人なのです。

長くなったので、これで終わりますが、本当なら入管(入国監理局)に不当に拘置されている問題も書きたいし、新しい「特定技能」やいまだ続く「技能実習生」問題も書きたいのです。

でもそうなると、これは評論では無く、論文になってしまいますので、此処で終わりにします。

最後にナディーをはじめとする、海外から来て働いている皆さん。
この国をふるさとと言ってくださってありがとう。
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oldman さん本が好き!1級(書評数:575 件)

最近歳のせいか読書スピードが落ちているにもかかわらず、本好きが昂じて積読本が溜まっております。
そして、歩けるうちにとアチコチヘ顔を出すようになりました。

現在はビブリオバトルを普及することに力をいれております。
その為読書メーターにはコミュニティーも作りました。
( ゚∀゚)つ https://bookmeter.com/communities/337701

いささかひねくれた年寄りですがよろしくお願いいたします。
2016年12月 読書メーターのプロフィル画像とハンドルネームをちょっと変えてみました(*^^*)
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この書評へのコメント

  1. 爽風上々2020-01-01 04:28

    アフリカを出発した現生人類(ホモ・サピエンス)は4万年ほど前までは中東に留まり、その後急激に世界各地に広まったと言われています。
    日本列島に最初の人類が入ったのはその後ですから、ざっと3万年前からということでしょうか。
    つまり元々日本に居たという人類など無く、おそらく旧人も来ていないでしょうから、その前は無人、日本列島に対しては最悪の外来生物ということです。
    そのような成り立ちの日本人ですが、他の地域でもあるのと同様、新規移民という人たちに対する排斥運動というものは存在します。
    欧米より実質的に成功しているとも言えますから、さらに悪質かもしれません。
    しかし、これを一言で言えば「お山の大将オレ一人、あとから来るもの突き落とせ」状態ですね。
    先に来たものがそこを占領して続いてくるものを排斥する。
    世界中でそうではないところは無いのですが。

  2. keena071511292020-01-01 05:09

    >1951年というから丁度バブルが崩壊した頃

    これは1991年の間違いなのでは? 

    >実際その頃働いていた印刷業界では結構な外国人が居ました

    昔の本は誤植が多く 
    「外国人が“字”ではなく“絵”として漢字を拾っているのでは?」 
    というジョークがあったのですが 
    実はそれが事実だったというのを何年か前に知りました 

    僕は現状考えられる少子化対策&人口均衡策は 
    中学生から高校生くらいの外国人に 
    衣食住を無償提供して日本に来てもらい 
    大学を卒業するまで援助し 
    卒業後はそのまま日本人になってもらうしかないと思います 
    今ならまだ日本に来てくれる外国人もいるでしょうが 
    何十年も経てば誰も来てくれなくなるでしょう

  3. oldman2020-01-01 17:00

    爽風上々さん そうです。この風潮が世界に蔓延しています。
    この国は凄く成功しているのでしょう。
    でももっともっと受け入れて良いのでは無いでしょうか? 
    老齢化社会を叫び、少子化を嘆くなら、根本的に日本人を増やしたらどうなんですか?
    僕はこの国を愛し 尊び ルールを学んでくれるなら、どんどん日本人として認めて良いと思います。

    でもこの国の意識はまだまだ足りません。
    テレビ東京のヒット番組の一つに「YOUは何しに日本へ」というものがあります。此処では空港で来日した外国人を掴まえて、その行動に密着するという番組です。
    でもある日気がつきました。密着する外国人は皆欧米系の白人ばかり……一番多く来ている中国人や韓国人 アジア系の人にはインタビューさえしません。
    アホらしくなって視るのをやめました。

    この国はまだまだ見てくれが欧米人でないとダメなんですね。
    みんな いい加減目を覚まさないとえらいことになると思います。

  4. oldman2020-01-01 17:46

    keena07151129さん
    ご指摘有難うございます。おしゃるとおり1991年の間違いなので訂正いたします。
    ただ、中国から多く来ていた研修生に関しては誤解があるようなので、説明させて頂きます。
    印刷関係の研修生は、名目上印刷の勉強ということになっていましたが、実際についていたのは、危険でキツい汚れ仕事が殆どで、いわゆる印刷・製本の下働きでした。
    彼らは帰国しても、印刷関係の仕事に就く積もりは毛頭無く、単に出稼ぎ感覚で、汚れた寮生活(多くは4~6人部屋)をこなし、少し慣れると日本人より手際が良かったのです。

    おっしゃる通り日本人を増やさなくては行けませんが、僕の考えは家族単位で受け入れるべきだと思っています。家族なら出来るだけ一緒にいる。それが当然じゃないのではないでしょうか? ですから現行の「特定技能」法案も反対ですし、本当なら奥さんも子どもも呼び寄せて、一緒に日本人になって貰えたらと思います。

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