かもめ通信さん
レビュアー:
▼
これでは「メイド・イン・ジャパン」を誇れない。
滅多にテレビを見ない私だが、Twitterでの予告に惹かれて、今年(2019年)6月、ベトナム人技能実習生が直面している実態を告発したNHKのドキュメンタリー「ノーナレ 画面の向こうから」を観た。
メイド・イン・ジャパン
その表示を確かめて、買い物をする。
日本製のタオルがワゴンセールでお安くなっていれば、どうせ必要になるものだしと、予定外でも買っておく。
そんな経験が私にもあるが、その裏にまさかこれほどひどい実態があったとは。
常日頃から「強制帰国させる」と脅されつつ、早朝から夜10時過ぎまで働かされ、180時間という過労死ラインの2倍超え残業を強いられた上、支払われる手当はごくわずか。
手が変形するほどの厳しいノルマが課せられ、会社の敷地内の窓のない狭い寮に大勢で押し込められて暮らしている。
今治市の縫製工場で、低賃金で長時間労働を強いられているベトナム人の技能実習生を取り上げたこの番組の内容は、本当に衝撃的だった。
だがこれは決して特殊な事例ではなく、氷山の一角なのだろう。
実は私の住む北海道の田舎町にも、多くの技能実習生がいる。
その多くが水産加工場で働いている。
少し前まで年若い中国人女性たちをよく見かけたものだったが、最近はベトナム人が多くなったようだと思っていたところでもあった。
今年4月には出入国管理法が改正され、受け入れ職種なども拡大されたことでもあるし、人手不足に悩む田舎の町にも、「技能実習生」「外国人材」などと様々な呼称が使われつつも、これからますます外国人労働者が増えていくのだろう。
あれこれ考え始めると知らなかったでは済まされない気がして、この本を読んでみた。
近年急増しているベトナムからの技能実習生について、多数の実例を紹介しながら、その構造的な問題を明らかにしようと試みるこの本には、「技能実習生」を取り巻く状況を、劣悪な労働現場の実態告発だけでなく、そもそもなぜ、どういう状況の元で日本にやってくるのかということも丁寧に掘り下げていて、
ベトナム政府が「労働輸出」に力を注いでいる実態
高額な手数料や保証金を要求するベトナムの仲介会社の存在
日本側の「管理団体」
等々、問題が複雑な多重構造になっていることがよくわかる。
ベトナムから技能実習生として来日する彼らは、ベトナムの仲介会社を利用した上で、正規の移住労働者として、日本の受け入れ企業で働くことになる。
こうしたシステムは、一見するとすべてが本人の自由意志に基づくもののように思われ、諸処の問題は「自己責任」と切り捨てられかねない。
だが……と著者は続けて説明する。
そもそも技能実習生は、制度的に必ず仲介会社を通す必要があり、実習希望者とその家族は自分たちの経済水準を遙かに超える高額の渡航前費用を支払って、その権利を手に入れる。
そのため実習生は来日時点で債務を負っていて、日本に来た後、働きながら返済することを求められる。
技能実習制度の既定により職場を変えることが出来ないため、当初説明されていた給与水準を大幅に下回っても、仕事の内容が全く異なっていても、そうとは知らされずに原発事故後の除染作業に携わらせられていたとしても、セクハラにあっても暴力を振るわれても、借金があるため仕事を辞めるわけにもいかない。
管理団体に訴えても取り上げてもらえず、どうしようもなく追い詰められて逃げ出したその後にも、新たな苦難が待ち受けている……というのだ。
こうした技能実習制度の実態は2007年以降、米国務省の人身売買年次報告書で継続して批判されてきたし、国連自由権規約委員会からもたびたび勧告を受けてきた。
途上国の人材育成を通じた国際協力。
そんな理念を掲げた外国人技能実習制度は、「日本人」にはとてもさせられないような劣悪な条件の下で、メイド・イン・ジャパンを支える安価な労働力を得るための「裏口」となってきたのだ。
この「裏口」には、改正出入国管理法施行で単純労働力受け入れの正規ルートができたため、その存在意義は薄れたとして、廃止の声もあがっていると聞く。
だが法律や名称が変わっても、実態が変わらなければ意味が無い。
なにが起こっているのかを知るだけでなく、どうやって改善していけばいいのかということを、早急かつ真剣に考えなければならないと強く感じさせられた1冊だった。
尚、本書は2016年4月からYahoo!ニュースに寄稿した記事をまとめ、加筆修正をしたものだそうで、そのせいもあるのだろう、同じ内容が繰り返し出てきたり、ルポルタージュ風に書かれた部分と、論文調の部分が入り交じっていて非常に読みづらい箇所があったりと、その構成には少々難があると言わざるを得ない。
読み応えのある内容だけに、読みづらさで敬遠する読者がいたらもったいない。
版を重ねる際にはぜひ改善を求めたいところだ。
メイド・イン・ジャパン
その表示を確かめて、買い物をする。
日本製のタオルがワゴンセールでお安くなっていれば、どうせ必要になるものだしと、予定外でも買っておく。
そんな経験が私にもあるが、その裏にまさかこれほどひどい実態があったとは。
常日頃から「強制帰国させる」と脅されつつ、早朝から夜10時過ぎまで働かされ、180時間という過労死ラインの2倍超え残業を強いられた上、支払われる手当はごくわずか。
手が変形するほどの厳しいノルマが課せられ、会社の敷地内の窓のない狭い寮に大勢で押し込められて暮らしている。
今治市の縫製工場で、低賃金で長時間労働を強いられているベトナム人の技能実習生を取り上げたこの番組の内容は、本当に衝撃的だった。
だがこれは決して特殊な事例ではなく、氷山の一角なのだろう。
実は私の住む北海道の田舎町にも、多くの技能実習生がいる。
その多くが水産加工場で働いている。
少し前まで年若い中国人女性たちをよく見かけたものだったが、最近はベトナム人が多くなったようだと思っていたところでもあった。
今年4月には出入国管理法が改正され、受け入れ職種なども拡大されたことでもあるし、人手不足に悩む田舎の町にも、「技能実習生」「外国人材」などと様々な呼称が使われつつも、これからますます外国人労働者が増えていくのだろう。
あれこれ考え始めると知らなかったでは済まされない気がして、この本を読んでみた。
近年急増しているベトナムからの技能実習生について、多数の実例を紹介しながら、その構造的な問題を明らかにしようと試みるこの本には、「技能実習生」を取り巻く状況を、劣悪な労働現場の実態告発だけでなく、そもそもなぜ、どういう状況の元で日本にやってくるのかということも丁寧に掘り下げていて、
ベトナム政府が「労働輸出」に力を注いでいる実態
高額な手数料や保証金を要求するベトナムの仲介会社の存在
日本側の「管理団体」
等々、問題が複雑な多重構造になっていることがよくわかる。
ベトナムから技能実習生として来日する彼らは、ベトナムの仲介会社を利用した上で、正規の移住労働者として、日本の受け入れ企業で働くことになる。
こうしたシステムは、一見するとすべてが本人の自由意志に基づくもののように思われ、諸処の問題は「自己責任」と切り捨てられかねない。
だが……と著者は続けて説明する。
そもそも技能実習生は、制度的に必ず仲介会社を通す必要があり、実習希望者とその家族は自分たちの経済水準を遙かに超える高額の渡航前費用を支払って、その権利を手に入れる。
そのため実習生は来日時点で債務を負っていて、日本に来た後、働きながら返済することを求められる。
技能実習制度の既定により職場を変えることが出来ないため、当初説明されていた給与水準を大幅に下回っても、仕事の内容が全く異なっていても、そうとは知らされずに原発事故後の除染作業に携わらせられていたとしても、セクハラにあっても暴力を振るわれても、借金があるため仕事を辞めるわけにもいかない。
管理団体に訴えても取り上げてもらえず、どうしようもなく追い詰められて逃げ出したその後にも、新たな苦難が待ち受けている……というのだ。
こうした技能実習制度の実態は2007年以降、米国務省の人身売買年次報告書で継続して批判されてきたし、国連自由権規約委員会からもたびたび勧告を受けてきた。
途上国の人材育成を通じた国際協力。
そんな理念を掲げた外国人技能実習制度は、「日本人」にはとてもさせられないような劣悪な条件の下で、メイド・イン・ジャパンを支える安価な労働力を得るための「裏口」となってきたのだ。
この「裏口」には、改正出入国管理法施行で単純労働力受け入れの正規ルートができたため、その存在意義は薄れたとして、廃止の声もあがっていると聞く。
だが法律や名称が変わっても、実態が変わらなければ意味が無い。
なにが起こっているのかを知るだけでなく、どうやって改善していけばいいのかということを、早急かつ真剣に考えなければならないと強く感じさせられた1冊だった。
尚、本書は2016年4月からYahoo!ニュースに寄稿した記事をまとめ、加筆修正をしたものだそうで、そのせいもあるのだろう、同じ内容が繰り返し出てきたり、ルポルタージュ風に書かれた部分と、論文調の部分が入り交じっていて非常に読みづらい箇所があったりと、その構成には少々難があると言わざるを得ない。
読み応えのある内容だけに、読みづらさで敬遠する読者がいたらもったいない。
版を重ねる際にはぜひ改善を求めたいところだ。
お気に入り度:







掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
この書評へのコメント
コメントするには、ログインしてください。
書評一覧を取得中。。。
- 出版社:花伝社
- ページ数:274
- ISBN:9784763408808
- 発売日:2019年03月20日
- 価格:2160円
- Amazonで買う
- カーリルで図書館の蔵書を調べる
- あなた
- この書籍の平均
- この書評
※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。
『奴隷労働―ベトナム人技能実習生の実態』のカテゴリ
- ・政治・経済・社会・ビジネス > 国際
- ・政治・経済・社会・ビジネス > 社会問題