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ぽんきち
レビュアー:
小さき命を愛で慈しむ
小原古邨(1877-1945)は、明治から昭和初期にかけて活躍した絵師である。
海外では評価も高く、コレクターも多い。画家のクリムトも蒐集していたという。
ところが日本ではそれほど知られてこなかった。古邨の作品は、主に海外向けに制作・販売されていたためである。
近年、徐々に国内での注目が高まり、回顧展が開かれたり、メディアに取り上げられたりするようになってきた。
2019年には浮世絵美術館として知られる東京の太田記念美術館で展覧会が行われた。本書はその図録も兼ねている。

古邨の作品の多くは「花鳥版画」と呼ばれるものである。
題材は身近な鳥獣や草木、版型は短冊版や大短冊版といった細長いもの。
柔らかな色遣いで、牡丹にとまった燕、酸実と緋連雀、雨に打たれる五位鷺など、自然の一瞬を切り取る。小さな命を見つめるそのまなざしは温かく、優しい。
ふわりと愛らしい雀、手触りまで感じられそうな鵞鳥、風に抗う鷲。観察眼も確かなら、写し取る筆も見事だ。

古邨は日本画家として出発しており、古邨の花鳥版画の制作過程は一般的な浮世絵版画とは少々異なる。通常ならば、絵師が墨の輪郭線だけで書いた版下絵を制作するのだが、古邨の版画はまず、古邨が肉筆で画稿を描き、これを湿板写真で撮影し版下絵としたという。
古邨の技量ももちろんだが、摺師、彫師の力量も相当なものであったと考えられる。
この技術を持って、海外へと販路を拓いていったのだろう。

図録だけあって、収録点数も多く、古邨の絵をたっぷり楽しめる。
登場する鳥たちの簡単な解説があるのも楽しいところ。

日本では一度は忘れられた絵師であるため、その生涯には不明な点も多いようだが、今後さらに注目が高まれば、さまざまなことが明らかになっていくのかもしれない。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1826 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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この書評へのコメント

  1. クロニスタ2019-06-24 22:47

    私は茅ヶ崎美術館で開催された美術展に行きました。クリムト展にも古邨のの作品が1点出てましたよ。

  2. ぽんきち2019-06-24 23:09

    コメントありがとうございます。

    実際にご覧になったのですね。
    茅ヶ崎のは原安三郎コレクションですかね。こちらでも、再評価の先駆けになった展示と紹介されていました。

    クリムト展でも展示があったのですね。お気に入りの1枚だったのかな。

    本も楽しかったのですが、摺りの具合とか、やはり実物が見たいなとも思いました。
    近くで展示があったら行ってみたいと思います~。

  3. No Image

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