たけぞうさん
レビュアー:
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誰? この女はいったい誰? 書評の後半に自己流解釈をまとめてみました。

摩訶不思議な今村夏子ワールド全開です。
祝芥川賞受賞、おめでとうございます。
とはいえ、これが受賞作だからと初読みに選んでしまう人が多いと
評判が落ちそうで心配です。作品の出来が悪いという意味ではありません。
今村ワールドに触れていないと、なんじゃこりゃになってしまうことを
心配しています。
初読みにはデビュー作の「こちらあみ子」をお薦めします。
そちらを読んでから戻ってきても遅くはないでしょう?
さてさて、むらさきのスカートの女です。
表紙絵は水玉のスカートの二人羽織で、そういう解釈に納得する部分もあります。
しかしわたしは結局、物語を完全には理解できていません。
それを許せてしまう感覚が今村ワールドにはあります。
不思議ちゃんでいいじゃんと、頭のスイッチを入れてしまえることが
今村ワールドの楽しみかただと思っていますので。
うちの近所に「むらさきのスカートの女」と呼ばれている人がいるという
一文で物語が始まります。主人公はわたしです。
わたしは最初、むらさきのスカートの女のことを、若い女の子だと
思っていました。小柄な体型と肩まで垂れ下がった黒髪です。
しかし近くで見ると決して若くないのです。
黒髪はツヤがなくパサパサしています。頬のあたりにはシミが浮き出ています。
わたしは公園に向かうむらさきのスカートの女を観察し続けます。
一番奥のベンチでクリームパンを大事そうに食べる姿から、
わたしの姉に似ている気がします。
しかし、まったくの別人ということは、顔が全然違うから分かります。
むらさきのスカートの女が姉に似ているなら、
妹のわたしに似ていることになることになるのかもしれません。
あちらがむらさきのスカートの女なら、こちらは黄色いカーディガンの女です。
違いが一つだけあります。
むらさきのスカートの女は商店街の誰もが知っているのに、
黄色いカーディガンの女はその存在を知られていません。
このお話は、黄色いカーディガンの女がむらさきのスカートの女を
観察し続けた記録なのです ────── 表面上は。
表面上は? じゃあ本当は何かと聞かれると、何も書いてありません。
わたしの中にはある結論があります。
しかしあまりにも何も書いていないため、ここに書くのもためらわれるほどです。
行間を楽しむという言葉がありますが、今村ワールドは一歩先を進んでいて、
欠落したページを楽しむ作品だと言えるかもしれません。
読み解こうとすると解釈というよりも二次創作になってしまうから、
自分の考えは自分の中だけに留めておこうと最初は思っていました。
ところが文藝春秋の収録号で、小見出しがストーキングする女とされる女という
売り文句だったのです。それは違うと思いました。
ネタバレではありませんが、以下に自分なりに欠落したページを
埋めてみようと思います。かなり方向付けをしてしまうので、
気になる方は読み飛ばして下さい。
>
>
>
――< 以後に自己流解釈を書きます。気になる方は読み飛ばして下さい >――
今村夏子さんの作品の特徴は、どこかに違和感を含んでいて何かが変という
歪みがあるのです。言いかえれば、信用できない語り手です。
そういう目線で見ると、この作品にも明らかにおかしい描写があります。
そしてそれを分からせるために、何度となくヒントを忍ばせています。
おかしい点は一つです。語り手である黄色いカーディガンの女の存在感が、
異常に少なすぎではないですか?
むらさきのスカートをこれほど執拗につけまわしているのに、
まったく気づかれないなんて変でしょう。
ましてバスの中でむらさきのスカートの女の鼻をつまんで、
相手に睨みつけられたはずなのに何のやり取りもないなんて変です。
ほんの少し職場で話しかけられる場面がありますが、
職場でもほとんど気づかれていません。異常なレベルです。
もしくは話しかけないと変だという場面で、黄色いカーディガンの女が
話しかけられたと錯覚している可能性もあります。
わたしの仮定は、黄色いカーディガンの女は、実はむらさきのスカートの女と
同一人物ではないかというものです。
すべてはむらさきのスカートの女の妄想です。
強いストレスがかかった時に、人格分裂気味にちょっと離れた位置から
自分自身を見つめている状態ではないかと思うのです。
だから黄色いカーディガンの女は誰の目にも入らないのです。
だって、それこそが分裂した自分の精神なのですから。
ふとそういう考えが頭に浮かぶと、いろいろなシーンがすっとつながりました。
ラストあたりでお金を借りようと社長を脅す場面は、黄色いカーディガンの女の
言葉として書かれていますが、むらさきのスカートの女の行動と考えれば
しっくりきます。この場面でわたしは確信しました。
今村夏子さんにこの解釈をどう思うか、聞いてみたい気分です。
祝芥川賞受賞、おめでとうございます。
とはいえ、これが受賞作だからと初読みに選んでしまう人が多いと
評判が落ちそうで心配です。作品の出来が悪いという意味ではありません。
今村ワールドに触れていないと、なんじゃこりゃになってしまうことを
心配しています。
初読みにはデビュー作の「こちらあみ子」をお薦めします。
そちらを読んでから戻ってきても遅くはないでしょう?
さてさて、むらさきのスカートの女です。
表紙絵は水玉のスカートの二人羽織で、そういう解釈に納得する部分もあります。
しかしわたしは結局、物語を完全には理解できていません。
それを許せてしまう感覚が今村ワールドにはあります。
不思議ちゃんでいいじゃんと、頭のスイッチを入れてしまえることが
今村ワールドの楽しみかただと思っていますので。
うちの近所に「むらさきのスカートの女」と呼ばれている人がいるという
一文で物語が始まります。主人公はわたしです。
わたしは最初、むらさきのスカートの女のことを、若い女の子だと
思っていました。小柄な体型と肩まで垂れ下がった黒髪です。
しかし近くで見ると決して若くないのです。
黒髪はツヤがなくパサパサしています。頬のあたりにはシミが浮き出ています。
わたしは公園に向かうむらさきのスカートの女を観察し続けます。
一番奥のベンチでクリームパンを大事そうに食べる姿から、
わたしの姉に似ている気がします。
しかし、まったくの別人ということは、顔が全然違うから分かります。
むらさきのスカートの女が姉に似ているなら、
妹のわたしに似ていることになることになるのかもしれません。
あちらがむらさきのスカートの女なら、こちらは黄色いカーディガンの女です。
違いが一つだけあります。
むらさきのスカートの女は商店街の誰もが知っているのに、
黄色いカーディガンの女はその存在を知られていません。
このお話は、黄色いカーディガンの女がむらさきのスカートの女を
観察し続けた記録なのです ────── 表面上は。
表面上は? じゃあ本当は何かと聞かれると、何も書いてありません。
わたしの中にはある結論があります。
しかしあまりにも何も書いていないため、ここに書くのもためらわれるほどです。
行間を楽しむという言葉がありますが、今村ワールドは一歩先を進んでいて、
欠落したページを楽しむ作品だと言えるかもしれません。
読み解こうとすると解釈というよりも二次創作になってしまうから、
自分の考えは自分の中だけに留めておこうと最初は思っていました。
ところが文藝春秋の収録号で、小見出しがストーキングする女とされる女という
売り文句だったのです。それは違うと思いました。
ネタバレではありませんが、以下に自分なりに欠落したページを
埋めてみようと思います。かなり方向付けをしてしまうので、
気になる方は読み飛ばして下さい。
>
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――< 以後に自己流解釈を書きます。気になる方は読み飛ばして下さい >――
今村夏子さんの作品の特徴は、どこかに違和感を含んでいて何かが変という
歪みがあるのです。言いかえれば、信用できない語り手です。
そういう目線で見ると、この作品にも明らかにおかしい描写があります。
そしてそれを分からせるために、何度となくヒントを忍ばせています。
おかしい点は一つです。語り手である黄色いカーディガンの女の存在感が、
異常に少なすぎではないですか?
むらさきのスカートをこれほど執拗につけまわしているのに、
まったく気づかれないなんて変でしょう。
ましてバスの中でむらさきのスカートの女の鼻をつまんで、
相手に睨みつけられたはずなのに何のやり取りもないなんて変です。
ほんの少し職場で話しかけられる場面がありますが、
職場でもほとんど気づかれていません。異常なレベルです。
もしくは話しかけないと変だという場面で、黄色いカーディガンの女が
話しかけられたと錯覚している可能性もあります。
わたしの仮定は、黄色いカーディガンの女は、実はむらさきのスカートの女と
同一人物ではないかというものです。
すべてはむらさきのスカートの女の妄想です。
強いストレスがかかった時に、人格分裂気味にちょっと離れた位置から
自分自身を見つめている状態ではないかと思うのです。
だから黄色いカーディガンの女は誰の目にも入らないのです。
だって、それこそが分裂した自分の精神なのですから。
ふとそういう考えが頭に浮かぶと、いろいろなシーンがすっとつながりました。
ラストあたりでお金を借りようと社長を脅す場面は、黄色いカーディガンの女の
言葉として書かれていますが、むらさきのスカートの女の行動と考えれば
しっくりきます。この場面でわたしは確信しました。
今村夏子さんにこの解釈をどう思うか、聞いてみたい気分です。
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ふとしたことで始めた書評書き。読んだ感覚が違うことを知るのは、とても大事だと思うようになりました。本が好き! の場と、参加している皆さんのおかげです。
星の数は自分のお気に入り度で、趣味や主観に基づいています。たとえ自分の趣味に合わなくても、作品の特徴を書評で分かるようにしようと務めています。星が低くても作品がつまらないという意味ではありません。
自己紹介ページの二番目のアドレスは「飲んでみた」の書評です。
三番目のアドレスは「お絵描き書評の部屋」で、皆さんの「描いてみた」が読めます。
四番目のアドレスは「作ってみた」の書評です。
よかったらのぞいてみて下さい。
この書評へのコメント

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書評一覧を取得中。。。
- 出版社:朝日新聞出版
- ページ数:160
- ISBN:9784022516121
- 発売日:2019年06月07日
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