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たけぞう
レビュアー:
現代に甦る土着の魂。
「f植物園の巣穴」の続編です。
梨木香歩さんの作品は読み順が大事な場合が多く、
この作品もできれば守った方がいいです。
とはいえ、執筆時期が空いたからなのか二作品の間には適度な距離感があるので、
逆になってもあまり問題にはならないと思いますが。
いずれにしろ、作品世界が広がりますのでセットで読むことをお薦めします。

椿宿、ツバキシュク。
旧宿場町の名前ですが、いまはどこにでもある名前に変わっています。
主人公のわたしは佐田山幸彦(やまさちひこ)と言います。通称は山彦。
従妹は海幸比子(うみさちひこ)。通称は海子。名づけは祖父です。
古事記に海幸彦と山幸彦の話があります。それが名前の由来なのでしょう。

山彦は激しい肩の痛みに苦しんでいました。
かかりつけのクリニックに通ってしのいでいますが、快方にはほど遠いです。
あるとき、実家を借りている鮫島さんから手紙をもらいました。
実家といっても山彦は住んだことはなく、曾祖父母の代から
他人に貸し続けています。借り手の鮫島さんも祖父母の代から住んでいて、
かれこれ五十年以上になります。

家賃といっても都会に比べれば微々たるもの、修繕費は向こうもちで
好きに維持されていたのでここまで来れたのです。
しかし鮫島さんが仕事の都合で引っ越すことになり、
年老いた母も連れていくので空き家になる見通しとのこと。
ついては賃貸契約を打ち切りたいという申し出でした。

なぜ長きにわたってその家に住み続けたのでしょう。
どうも土着の魂みたいなものとのしがらみが影響しているみたいです。
魂といっても人間などの個別のものではなく、
自然の意思といえばいいのかもしれません。
しがらみの発露の一つはf植物園の巣穴ですし、しかしそれすらも根源ではなく
はるか古の地脈みたいな土地に染みついた力のようなのです。
激しい肩の痛みも無関係ではなさそうです。

山彦は手紙のなかに気になることを見つけます。
差出人の名前が鮫島宙彦なのです。
山彦、海彦に宙彦がそろったのです。因果を感じます。

何かの力に引かれて集まることは、偶然ではなく必然です。
その一つの形が、曾祖父の頃はf植物園であり、現代は椿宿です。
著者ファンにはたまらない一冊だと思いますよ。
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たけぞう
たけぞう さん本が好き!免許皆伝(書評数:1467 件)

ふとしたことで始めた書評書き。読んだ感覚が違うことを知るのは、とても大事だと思うようになりました。本が好き! の場と、参加している皆さんのおかげです。
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この書評へのコメント

  1. Yasuhiro2019-07-08 19:33

    楽しく読ませていただきました。早く読みたいのですが、こういう時に限って未読本が山積みです。

    f植物園も確か佐田さんで、虫歯で苦しんでましたね、不思議な雰囲気が好みだったので、これも楽しみです。

  2. たけぞう2019-07-08 21:02

    >Yasuhiroさん
    ええ、そうなんです。梨木さんらしい世界観ですよ。お楽しみに。

  3. No Image

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