書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

darklyさん
darkly
レビュアー:
ミステリーと社会派を融合しようとする目論見が中途半端に終わってしまった感じ
石黒洋平は母親が病死したため遺品を整理していたところ手紙から母親は赤嶺信勝という人物と関係があったことが判明する。赤嶺は現役検察官でありながら石黒の母親の両親を惨殺した罪で死刑判決を受け現在収監中である。そして洋平は自分の実の父親が石黒剛ではなく赤嶺であるという事実を知る。

思わぬ自分の出自に戸惑う中、赤嶺事件が冤罪ではないかという疑念が浮上する。赤嶺事件の担当検事であった柳本弁護士、ジャーナリストの夏木涼子らと共に調査を始めるがそこには大きな壁があった。それは赤嶺自身が罪を認めており再審請求を行う意思がないということだ。洋平にとって実の父親は冤罪ではないかという希望はやがて確信に変わるが、それと交差するように洋平にとっては新たな悪夢が始まる。

所謂冤罪物ですがこの手の小説には主に二つの流れがあるように思います。一つは冤罪を証明するための謎解きに重きを置いたもので、もう一つは司法制度と警察、検察、裁判官等についての社会的問題に重きを置いたものです。そして後者は作者の問題意識が反映されていることが多いと思います。

この作品は現実に起こった冤罪事件を始め死刑を含む司法制度の問題点、司法制度の改正、不祥事等がふんだんに盛り込まれています。ざっと言っても「袴田事件」「和歌山カレー事件」をモチーフにしたもの、北海道警で発覚した裏金事件をモチーフにしたもの、検察による証拠改ざん事件をモチーフにしたもの、有罪至上主義の検察、痴漢容疑者の袋小路など。しかしそれは物語を彩る脇役でありどれも主題ではありません。作者に問題意識はあってもただそれを盛り込んでいるだけという印象です。

だからといって前者のようにミステリーらしいミステリーかと言えばそうでもありません。冤罪を立証するというところにそれほどのミステリーはなく、結局冤罪は時効が成立している上に何の証拠もない中、真犯人の自供により確かなものになります。この物語が変わっているのはプロが調べれば犯人であることに疑念を生じる証拠があるにも関わらず立件され無実の人間が罪を認め死刑囚となっていることです。つまりいくら自供があっても辻褄が合わなければ犯人にはされませんし、当然自分が犯人でなければ否認するはずです。にも拘わらずこのような状況を出現させるために真犯人との人間関係や検察の体質や不正が絡み合うというプロットは少し無理筋ではなかったかとの印象を持ってしまいます。

さらに言えば誰が犯人にしろ犯行の動機がちょっと納得できません。そんなことで人二人も惨殺するというところに根本的な疑問を感じてしまいました。またそのような短絡的で残忍な人物がその後真っ当な人生を送ってきたというのも違和感があります。冤罪や法廷を絡めたミステリーというのは現在とても多い印象があります。その中で新しい物語を作るのは並大抵ではないと思いますが少しテクニカルに過ぎた感がします。
お気に入り度:本の評価ポイント本の評価ポイント
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
darkly
darkly さん本が好き!1級(書評数:337 件)

昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。

参考になる:28票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『真実の檻』のカテゴリ

登録されているカテゴリはありません。

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ