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ぱせりさん
ぱせり
レビュアー:
美味しいを求めることは、たのしいこと、うれしいことなのだ。
著者は、(この本を書く)十年以上前に電子レンジを捨てた。ご飯は土鍋で炊く。蒸しものは蒸篭で。だしは肉や干魚類から、煮出してとる。
忙しい毎日だよ、そんな暇をどこで作る。と尋ねたくなるわたしには、「その丁寧さは恐ろしく時間を喰うもの」という先入観があるのだ。時間をかけようと思えばきりがない。丁寧に暮らそうと思えば、それもきりがない。私は面倒なことは嫌い。効率よく手を抜く方法は正義だった。
でも、でも……。
でも。本当にそうなのか。


著者は、「こうでなければならない」という固定観念から離れている。
試行錯誤し取捨選択し、自分の暮らしにあった、ほどほどの丁寧さ、これ以上は譲れないところの簡単さに行きついていったのだ、と感じる。
たとえば、蒸すということひとつとっても、「蒸さなければ生まれない、味わうことのできないおいしさというものが、確かに存在する」から。蒸しだけではなくて、料理全般に通じることなのだ。
そして、毎日の仕事であれば、他の何事とも折り合いをつける、それなりの条件のもとで、自分らしいやり方で。
何よりも、(私には目から鱗だけれど)そういう暮らし方を、著者は、こころから楽しんでいる。それが一番大切なの事だった。


著者は、幼い頃の、お母さんの料理を思い出す。たとえば、ちらし寿司。面倒で、手間ばかりかかるそれを、お母さんはなんてたのしそうに、うれしそうにつくっていたことか、と。
「……つくるたのしさをたっぷり受け取ってきた。食べるたのしさをたくさん蓄えつづけた。それをこんどは自分がつくるたのしさに変えて、ゆっくりとよろこびに引き寄せてきたのである」
こどものときに、からだごと吸収したいのは、(そして、伝える側にとって一番大切なことって)手順や技術よりも、喜びかもしれない。楽しむことかもしれない。料理だけに限らず。
おかあさんが著者にもたせてくれた、幸せな宝物。それをいま、本を通じてわたしも分けてもらっている。

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ぱせり
ぱせり さん本が好き!免許皆伝(書評数:1742 件)

いつまでも読み切れない沢山の本が手の届くところにありますように。
ただたのしみのために本を読める日々でありますように。

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