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かもめ通信
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#東京創元社 #文庫創刊60周年 企画をきっかけに手にした本。(もっと早く読めば良かった!)と思うのはお約束だが(もっと読みたい!もっと書いてよ!)と切に願う和製ファンタジーに出会えたことは貴重な体験。
日本海に位置する三つの島からなる蕃東国(ばんどんこく)。
地理的なことを考えれば当然かもしれないが、この蕃東国、政治、宗教、文化のいずれの点においても、日本や中国と密接な関係を持っていて、互いに共通する点も多いという。

聞くところによると、中世後期の蕃東国には賢帝と愚帝がほぼ交互に現れたというのだが、中でも臨光帝は、愚帝のなかの愚帝という、あまり好ましからぬ呼び名を後の世の人々から献じられるのだという。

もっとも愚帝の治める時代が民にとって住みにくい時代かというと必ずしもそうでもないようで、この時代はとりわけ文化面で大きな発展があり、識字率の向上や、技術革新による生活水準の向上という良い面もあったと評されもしているという話はなかなか興味深い。

本書にはこの臨光帝の時代を舞台にした5つの物語が収録されている。
それぞれの物語はさほど密接な関係にはなく、時系列にならんでもいないが、所々に登場する同じ人物によってゆるやかにつながっている様は、日本の平安朝文化にもよく似た語り口で、語り部が思い出すままにあれこれと語っているようにも思え、読み手は思わず、文字に現れることのない物語る人の人となりをも想像してしまう。


架空の国を舞台にした和製ファンタジーは、平安文学を思い起こさせたかと思えば、中国の故事のようにも読め、そうかと思えば、西洋的なイメージが顔を出し、様々な「参考文献」からの引用によって蕃東国の有り様を「客観的」に紹介しもする。
まるで万華鏡のように凝った作り込みなのだが、そういうこまごまとした技巧に目をこらさずとも、読むだけでおもしろい物語でもあって、その多重構造がまた興味深い。

こうなると「ぜひとも長編も」と思ってしまうのが読者の欲。
とはいえ、これだけ細部にこだわって作り込むとなると、長編では作者の身が持たないのかもしれないなどと思ったりもした。
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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2236 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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この書評へのコメント

  1. かもめ通信2019-05-30 06:59

    これもまた
    【公式】東京創元社文庫創刊60周年祝企画 くらりからの挑戦状
    https://www.honzuki.jp/bookclub/theme/no354/index.html?latest=20
    参加レビューです。

  2. No Image

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