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Wings to fly
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時を超えて届く、その土地に生きた人々の祈り。
江戸の昔、私の生家のすぐ近所は鷹匠屋敷だったそうだ。今は大きな病院が建っているが、その頃の周囲は静かな林の中で、訓練中の鷹が舞い降りていたに違いない。屋敷の明け暮れはどんな風だったのか・・・などと考えてしまうのも、この本のせいなのである。身近な場所に昔どんな人々がいて、どういう願いを抱いて生きていたのかと思いを馳せてしまう。

古都鎌倉の今と昔が幻のように入り混じる夏の物語である。兵吾と主税の兄弟は、単身赴任している父の急病のため、夏休みに北鎌倉の古い屋敷に住む大叔父に預けられる。ふたりはすぐに近所の少女静音と友達になる。ラブラドール犬ダンも含めたチームができた時、遥か昔に止まっていた時が動き始めるのだ。

「ある日、”きょうだいと娘、異形のもの”が現れるであろう。そのものたちは瑠璃を見つけ出すであろう。」

強い日差しに葉をきらめかせる深い木立、静寂の中に降り注ぐ蝉の大合唱、青目の不思議な猫。昼も薄暗い切通しの道で、突然過去への通路が開く。
あなた方を待っていた、と老人は告げる。「瑠璃」を見つけ出し、この星月谷に返して下さい。されば失った光がもどり、よどんだ時が流れ始めて我らは解放されるのだと。

鎌倉の歴史、伝説や地理、屋敷に残る文書を手掛かりに「ミッション星月谷」が始動する。瑠璃とは何?星月谷はどこにあった?そして、なぜぼくらが頼まれたのか?これらを探るうちに、彼らは瑠璃と星月谷を探すチームが過去にも存在したことを知る。それも、すぐ身近に。

難しい顔に時折かみ殺した笑いを浮かべて子どもたちを観察している大叔父さんと、「母親としてはどうなんだろ」と娘に思われている静音のママが実に良い雰囲気を添えている。大人たちもまた、遠い日々を思い出しつつ謎解きの導き手となる。過去の人々の思いが積み重なって今があるのだ。時の彼方に散っていった様々な思いも、切通しの道の地層のように重なり今を形作っているのだ。

プロローグに登場した若武者の正体が明かされた時、ミッションチームもまた「なぜぼくらが頼まれたのか」の答えを知る。
それぞれの時代の人を想う心が、涼やかな残香を漂わせる。誰にも過去を塗り替えることは出来ないが、流れる時はいつも新しい明日に向かっている。
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Wings to fly
Wings to fly さん本が好き!免許皆伝(書評数:862 件)

「本が好き!」に参加してから、色々な本を紹介していただき読書の幅が広がりました。

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