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darklyさん
darkly
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芥川龍之介ファンの方は必読です。そうでない方は本屋で少し立ち読みしてからにしてください。
この本をどのように紹介したらよいのか。1994年に日本に移住したイギリス人デイビィッド・ピースが芥川龍之介の作品を基に彼の実際に交友があった人達や彼が生み出したキャラクターを交え晩年を中心にその一生を追った作品集です。彼の精神の遍歴を辿る伝記とも言えるかもしれません。しかも日本の文学を基に英語で執筆されその翻訳というどこの国の文学なのか分からない、今まで読んだこともなくカテゴリもよく分からない本です。

最初に告白しておかなければならないのは私は芥川作品は有名な作品以外あまり読んでいません。それは小学校の時のプチトラウマのせいかもしれません。小学校時妙な進学塾に行かされていて、そこの国語の試験は作品丸ごと暗記しなければ解答することができないというものでした。芥川作品で憶えているのは「トロッコ」。その後芥川作品を好んで読んだことはありませんでした。

何が言いたいかと言えば、本書は芥川作品ファンや芥川龍之介という人物のファンが読むのとそうでない私のような者が読むのでは天と地ほど印象や面白さが違うだろうと推測できるからです。つまり芥川ファンの方には是非読んでいただき書評を読ませていただきたいと思うのです。

内容は蜘蛛の糸をモチーフとした「糸の後、糸の前」から始まり「地獄変の屏風」そしてキリスト教の影響が濃くなっていく「黄いろい基督」「悪魔祓い師たち」そして死ぬ間際の「基督の幽霊たち」、異色な作品として夏目漱石によって語られる「切り裂きジャックの寝室」、関東大震災時の「災禍の後、災禍の前」等があります。

これらの作品は芥川作品のみならず他の作家の作品もミックスされたものも沢山あります。親友であった菊池寛や川端康成、龍之介に睡眠薬を処方した斎藤茂吉、そして師匠であった夏目漱石など謂わばこの時代の日本文壇の中心となる錚々たる人物たちが登場します。この辺の人物相関図に詳しい方が読んでも楽しいかもしれません。

芥川龍之介はキリスト教への関心が高かったわけですがそれは彼の晩年の精神状態にもかなり影響したのではないかと思います。全く根拠のない私のイメージですがキリスト教のような一神教は非常に内省的な一面がある一方、敵(異教徒等)に対してはかなり攻撃的な一面もあります。西洋人のように物心ついた時からキリスト教に慣れ親しんだ人たちは何も思わないのかもしれませんが私には奇異に映ります。日本人は基本的に内省的ではないかと思うのですが、芥川龍之介を始め頭脳明晰で鋭敏な感覚を持っている人の内面にキリスト教が食い込んできた場合にはその内省的な部分のみが深く浸透し人間という存在が抱える矛盾を消化できなくなるのではないかと思います。

この時代の作家の中には晩年人間のエゴなどの矛盾に対して内省的な傾向が強くなり自殺
あるいは精神が原因の病気によって亡くなる人が多かったように思います。このデイビィッド・ピースという作家は、もちろん芥川龍之介に傾倒していることは間違いないのですが、それだけでなくこの時代の日本の文壇や精神全体に魅せられ本書を執筆したような気がします。
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darkly
darkly さん本が好き!1級(書評数:337 件)

昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。

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