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星落秋風五丈原
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豪華客船で起こった殺人 解決するのは名探偵デュー警部!…のはず
 ローリングトゥエンティと言われた1921年、ロンドンに住むウォルターは、妻で女優のリディアから一方的にアメリカ移住を告げられた。ロンドンの演劇界に見切りをつけ、旧知のチャップリンを頼ってハリウッドで銀幕デビューを果たそうというのだ。歯科医としての成功がやっと見え始めた矢先だったウォルターは、失意の末、愛人のアルマにそそのかされるまま、アメリカへ渡る豪華客船のなかで妻を殺害する計画を立てる。ところが船内で別の殺人事件が起こってしまい、ウォルターが名乗った偽名が原因で、彼は事件に巻き込まれてしまう。

 ところで愛人と書いているが、アルマとウォルターの間はプラトニック。ウォルターは普通に歯科医として、患者のアルマが来ればにっこり微笑み、予約していたのに来なくなれば心配しているだけなのに、アルマの中では彼のやることなすこと言うこと総てが愛ゆえの言動に映る。自分の頭一つで悲劇のヒロインにも愛する人を救うジャンヌダルクにもなれるのはシアワセなことだが、“一人の人を亡き者にする”殺人はさすがに想像でカバーできない。さあどうする?

 アルマのいっちゃってる度に気を取られそうになるが、ウォルターも何も考えているのかよくわからないキャラクターだ。主体性がないという設定なのかもしれない。喧嘩してでも妻を説得した方がよほど危険がないのに、よく知らない患者の一人だったアルマの計画をほいほいと聞くもんだ。人を殺すために船に乗った男が、ひょんな事から殺人犯を追う側に立つことになる。タイトルからしてネタばれだが、実は伝説のデュー警部を名乗ってしまうのは彼だ。今と違ってドローンで画像をキャッチされないとはいえ、派手な事件を解決したのだから知っている人が一人くらい客船に乗っているかもしれない。また、捜査のプロではないのだから、とんちんかんな質問をしてすぐに馬脚が現れるかも。さあ、どうする?

 豪華客船に集う種々雑多な人々とくれば、ミステリの舞台としてはもってこい。何気に密室であり、現在ならばともかく、少し前の時代では、犯人は華麗に姿を消すことができない。但し探偵が見掛け倒し。この事件、解決できるのか?

 現代感覚で読むと「揃いも揃って皆何て緩い時間を生きている人達なんだろう。何て心優しい人なんだろう。」と思えるほど緊張感のないミステリ(舞台が船だから?)。章タイトルが皆チャップリンの出演作になっている。英国推理作家協会賞ゴールド・ダガー賞。
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2331 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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