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ぽんきち
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時を越え、プラハ出身のマジシャンとロサンジェルスの少年の物語が重なり合う。2人を結びつけたのは、マジシャンが使った1つの「トリック」。
20世紀の初頭、プラハで1人の男の子、モシェが生まれた。ユダヤ人の聖職者とその美しい妻の間に。けれど、そこには1つの秘密があった。父親は少年を厳格に育てたが、少年はある時見たサーカスの世界に魅かれてゆく。
21世紀の初め、ロサンジェルスで1人のユダヤ人少年、マックスが11歳の誕生日を迎えようとしていた。少年には悩みがあった。父と母が離婚しそうなのだ。2人の離婚を何とか止められないのか。夢見がちな少年は、かつて有名だったという1人のマジシャンに願いを託そうとする。

20世紀中欧と、21世紀アメリカ。
1章ごとに2つの物語は視点を変え、やがて交錯する。

モシェが魅入られたのは、謎めいた仮面をつけた「半月男」と、ペルシャのアリアナ姫の魔術だった。消えたかと思うと現れ、刺されたはずなのに無傷の姫。妖しい美しさにモシェは魂を奪われる。

マックスが探し出した老マジシャンは偏屈でスケベでわがままだった。およそヒーローとは掛け離れた人物だが、少年は彼を信じ、彼に賭けようとする。父が持っていた古いレコードには、若き日のかのマジシャンが「永遠の愛」を叶えると唱えていたから。

モシェの20世紀とマックスの21世紀の間には、もちろん、ナチスとホロコーストが横たわる。
モシェはその荒波を超える。それには大きな代償が伴った。左腕を損ない、愛も故郷も失った。
21世紀のマックスにもそれは無縁ではなかった。ある1つの「トリック」がなければ、彼の運命は大きく変わっていたかもしれなかった。

読心術の種明かし、ステージマジックの仕掛けといった、魔術のディテールが楽しい。
妖しく美しい舞台の描写にもうっとりさせられる。
重い事件も含みつつ、著者の筆は、温かくウィットに富み、軽妙だ。まるで熟練のマジシャンのテーブルマジックを見るように。

別々の大陸、別々の時代を描く物語は、終盤で1つになる。
生きていることは、それだけでひとつの祈りなんだ。

モシェの父の言葉が、遠く、深く響く。
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ぽんきち
ぽんきち さん本が好き!免許皆伝(書評数:1825 件)

分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。

本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。

あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。

「実感」を求めて読書しているように思います。

赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。現在、中雛、多分♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw

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