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星落秋風五丈原
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何度も出版社に突き返されたルーシー・モード・モンゴメリの『赤毛のアン』みたいな経緯を辿り 世に出た著作 これもまた一つの奇跡
 不朽の名作『赤毛のアン』を最初にモンゴメリーが複数の出版社に原稿を持ち込んだときは、すべての出版社で出版を断られた。自宅の屋根裏部屋に“お蔵入り”していた時期を経て、モンゴメリーが本作を読み返し、面白いのでやはり出版すべきであると思い直し、出版社に再度交渉すると、今度はトントン拍子に進展した。名作にはそれくらいの逸話があってしかるべきなのかもしれない。ならば持ち込み原稿を断わられ続けること10年、スイスの名門ディオゲネス社から刊行されるや、たちまちベストセラーとなり、17ヵ国語に翻訳された本作も名作か。

 現在。ロサンジェルスの裕福なユダヤ人家庭に育ち、両親の離別に悩む少年マックスは、ある日父の荷物から古ぼけたレコードを見つけ、愛の魔法によって両親を復縁させようとする。
 第二次大戦前夜。チェコ映画『この素晴らしき世界』みたいな奇跡によって生まれた少年モシェの生涯が綴られる。

 二つのエピソードがやがてどこかで繋がることは読者は容易く予測できる。ナチスドイツとユダヤ人という組み合わせとくれば、更に読者は決まりきったストーリーを想像するだろうが、『この素晴らしき世界』同様本作も「ドイツ人は全て悪でユダヤ人は迫害される哀れな犠牲者」という単純な色分けはしていない。善と悪をすっぱり割り切れないキャラクターとして印象深いのが魔術師ザバティーニだ。彼こそがモシェの成長した姿だが、年をとっても若い女性に目がなく、気難しくてホームを追い出されるなど問題山積みの迷惑男として現在に現れる。かつ若い頃の彼も決して善行ばかり成してきたわけではない。しかし彼の大戦中の様子が描かれると、ヒロイズムから最も遠い所にいるような彼の見方が変わってくる。このキャラクターを思いついたことが本作成功の理由だろう。
    • 映画『この素晴らしき世界』ポスター
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2329 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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