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morimoriさん
morimori
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アメリカ合衆国YMCAの仲介により、キリスト教伝道者として派遣されたウィリアム・メレル・ヴォーリズ。建築家、実業家として活躍し、戦後日本のためにある決断をした。
 明治38年24歳のメレルは、仏教徒の多い近江八幡で英語教師となった。学校では英語を教えたが、自宅ではバイブルクラスを始めた。その盛況ぶりに県内の他校からも依頼を受けるほどだった。しかし、2年後英語教師を解職され宿舎も立ち退くことになった。それからが、メレルの本領発揮ともいえる。近江商人さながらのたくましさで自らの生活、人生を切り開いていく。

 メレルは建築家になりたくてマサチューセッツ工科大学の入学許可をえたものの、家が裕福ではなかったことや健康面を考えて地元コロラド大学理系の道を選択した。建築士としての資格はない。しかし、英語教師を辞めた後、京都YMCA会館の設計に応募、受注は叶わなかったものの工事監督の仕事を得た。監督としての能力を認められヴォーリズ建築事務所として会館の一室を使い、その後も現場監督の仕事を受ける。なんともたくましく、ものごとを前向きにとらえるメレル。小説を読んでいる限りは、順調に次から次へと仕事が舞い込んでくるかのように感じるのは神の御加護か?テンポ良く綴られるメレルとかつての教え子、井上悦蔵(ベビーさん)とのコンビもベリーグッド!やがて、広岡浅子との出会いによってメレルの運命がより開花していく。

 建築家でもないのに建築の仕事を請け負い、日本人でもないのに近江商人の如く商売をするメレルのたくましさにはワクワクさせられる。実際は、小説に書かれているように順風満帆ではなかったのかもしれないが、物事が良いように展開していく様子は、決して物事を悪く考えず実行に移すからなのか。日本に帰化しても、日本人にはあらずさりとてアメリカ人でもなく、自分のアイデンティティをどうとらえるのかで悩むことがあっても、だからこそメレルにしかできない偉業があったのだと思う。メレルの人柄が人間関係を豊かにし、そこから仕事の依頼だけでなく天皇制存続の重要な役割を果たすことになったのだ。

 この小説を初めて読んだのに、なぜかメレルのことを知っている気がした。それは、ブクレコ時代に読んだ玉岡かおる氏の「負けんとき」にメレルが登場していたのだ。この小説はメレルの妻、華族出身の満喜子を中心に綴った内容で華族でありながら外国人と結婚する難しさ、戦時中のことなどが綴られていたように記憶している。

 門井慶喜氏の小説はこれまで何冊か読んだが、どの小説も史実に基づき想像を豊かに膨らませている作品のようで読み応えがあっておもしろい。この小説も、日本の重要な歴史を知ることのできる素晴らしい作品なのだと思う。

 
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morimori
morimori さん本が好き!1級(書評数:951 件)

多くの人のレビューを拝見して、読書の幅が広がっていくのが楽しみです。感動した本、おもしろかった本をレビューを通して伝えることができればと思っています。

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