かもめ通信さん
レビュアー:
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今はなきソヴィエト社会主義共和国連邦(ソ連)に行ってみた。
1936年の6月から8月にかけて、アンドレ・ジッドはソヴィエト社会主義共和国連邦(ソ連)を旅行した。
この旅行はソヴィエト作家同盟の招待で実現したもので、ジッドはこの機会に病床のゴーリキーを見舞つもりでもいたのだが、彼がかの地に着いたとき、ゴーリキーは既に亡くなっていて、結局、赤の広場で大々的に行われた葬儀で演説をすることになったのだった。
ジッド自身は共産党員ではなかったが、当時ヨーロッパの知識人層に急速に広まっていた社会主義や共産主義思想に共鳴していた。
(そんなばかな!)と、あるいは若いあなたは思うかもしれないが、マルクスやエンゲルスを引くまでもなく、「平等」を高く掲げたこうした思想が、反戦平和や人道主義、反ファシズムを唱える人々に熱く受け入れられていた時代だったのだ。
そんなわけでジッドも社会主義の理想を実現した国家がどんなものか、期待に胸を膨らませて彼の地を訪れたのだが、スターリン体制下のソ連を目の当たりにして失望することになる。
ページが進めば進むほど、旅がすすめが進むほど、ソ連という国の懐に深く入れば入るほど、ジッドの失望はより大きなものとなり、批判の気持ちがどんどん強くなっていく。
帰国後、彼は見聞きしたこと考えたことを率直に綴った旅行記を発表するが、これがまた、ソ連という国に、社会主義や共産主義といった思想に、ともに期待を寄せてきた人たちから、猛烈な批判を受けることになる。
そうした批判に対する反論として書かれたのが本書後半に収録された『ソヴィエト旅行記修正』だ。
こう書くとひどく堅苦しく小難しい本なのではないかと思われる方もいるかもしれないが、これが非常に読みやすく面白い。
もしあなたがソヴィエトという国のあれこれを全く知らなかったとしたら、実際にあったディストピア訪問記として楽しむことができるかもしれない。
あるいはもしあなたがソ連という大国に複雑な感情を抱いていたとしても、当時実際に交わされた激しい論争も既に歴史によって決着を見ているので、ある意味心穏やかに、興味深く読み進めることもできるだろう。
そしてもしあなたが私のように、青春の一時期、ロシア文学にかぶれた“オタク”だった過去をもっていたとしたら(そういう人が大勢いるとは思えないが)、これはもう、細かな文字で添えられた注釈の一語一句まで存分に楽しむことができるだろう。
なにしろジッドは、ソヴィエト作家同盟の招きによって旅行したのだ。
訪問先で待ち構える人も、彼にこっそりと耳打ちする人も、「おおっ!こんなところにあの作家が!」というマニアックな楽しみも保証しよう。
だがしかし、思う存分ソヴィエトへの旅を楽しんだ後、もしかしたらあなたは思うかもしれない。
今はなきかの国で、ジッドが目にしたあれこれは、本当にかの国だけのことだったのだろうか?と。
私たちは今一度、自分の良心に照らして、世界を、そして自分の国を真剣に見つめ直さなければならないのではないかと。
この旅行はソヴィエト作家同盟の招待で実現したもので、ジッドはこの機会に病床のゴーリキーを見舞つもりでもいたのだが、彼がかの地に着いたとき、ゴーリキーは既に亡くなっていて、結局、赤の広場で大々的に行われた葬儀で演説をすることになったのだった。
ジッド自身は共産党員ではなかったが、当時ヨーロッパの知識人層に急速に広まっていた社会主義や共産主義思想に共鳴していた。
(そんなばかな!)と、あるいは若いあなたは思うかもしれないが、マルクスやエンゲルスを引くまでもなく、「平等」を高く掲げたこうした思想が、反戦平和や人道主義、反ファシズムを唱える人々に熱く受け入れられていた時代だったのだ。
そんなわけでジッドも社会主義の理想を実現した国家がどんなものか、期待に胸を膨らませて彼の地を訪れたのだが、スターリン体制下のソ連を目の当たりにして失望することになる。
ページが進めば進むほど、旅がすすめが進むほど、ソ連という国の懐に深く入れば入るほど、ジッドの失望はより大きなものとなり、批判の気持ちがどんどん強くなっていく。
帰国後、彼は見聞きしたこと考えたことを率直に綴った旅行記を発表するが、これがまた、ソ連という国に、社会主義や共産主義といった思想に、ともに期待を寄せてきた人たちから、猛烈な批判を受けることになる。
そうした批判に対する反論として書かれたのが本書後半に収録された『ソヴィエト旅行記修正』だ。
こう書くとひどく堅苦しく小難しい本なのではないかと思われる方もいるかもしれないが、これが非常に読みやすく面白い。
もしあなたがソヴィエトという国のあれこれを全く知らなかったとしたら、実際にあったディストピア訪問記として楽しむことができるかもしれない。
あるいはもしあなたがソ連という大国に複雑な感情を抱いていたとしても、当時実際に交わされた激しい論争も既に歴史によって決着を見ているので、ある意味心穏やかに、興味深く読み進めることもできるだろう。
そしてもしあなたが私のように、青春の一時期、ロシア文学にかぶれた“オタク”だった過去をもっていたとしたら(そういう人が大勢いるとは思えないが)、これはもう、細かな文字で添えられた注釈の一語一句まで存分に楽しむことができるだろう。
なにしろジッドは、ソヴィエト作家同盟の招きによって旅行したのだ。
訪問先で待ち構える人も、彼にこっそりと耳打ちする人も、「おおっ!こんなところにあの作家が!」というマニアックな楽しみも保証しよう。
だがしかし、思う存分ソヴィエトへの旅を楽しんだ後、もしかしたらあなたは思うかもしれない。
今はなきかの国で、ジッドが目にしたあれこれは、本当にかの国だけのことだったのだろうか?と。
私たちは今一度、自分の良心に照らして、世界を、そして自分の国を真剣に見つめ直さなければならないのではないかと。
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本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
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- 出版社:光文社
- ページ数:350
- ISBN:9784334753962
- 発売日:2019年03月08日
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