darklyさん
レビュアー:
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この作品を10人中6人以上高い評価するとは思えない。しかし10人中2人ぐらいはとても好きな人もいそうだ。私はその一人である。
万城目学さんの小説を読むのは初めてです。名前はよく聞きますし、聞いたことのある映画もありますので人気小説家だろうというぐらいしか知らずこの作品についても何の予備知識がないまま読み始めました。
主人公の九朔はバベル九朔という古い雑居ビルの管理人をしながら小説を書いている。このビルは九朔の祖父が建てたものだ。場末感も漂うパッとしないテナントビル。カラスのゴミ漁りとの闘い、数少ない仕事の公共料金のメーター調べ、小説家として前に進めない焦り。
九朔はある日、グラマラスな体を強調した全身黒ずくめで大きなサングラスをかけた若い女がビルの階段を上がってくるところに出くわした。それから不思議なことが起こり始め、やがて現実ではない世界に入り込む羽目になる。カラス女、謎の少女、九朔の祖父であり既に亡くなっている大九朔らが入り乱れる不思議な世界、誰が言っていることが正しいのか、バベルとは何なのか、そして九朔の決断は。
読み始めてこれは著者自身の小説家として成功までの自伝的小説、管理人時代のテナントの人々との触れ合い等を描く作品なのかなと思って読んでいると全く予想できないファンタジーの世界にいきなり突入します。そのファンタジーの世界はかなり村上春樹の小説におけるファンタジーに近い感じもしますが本質的に全く違います。
村上作品におけるファンタジーはあくまでも現実世界の話が主でありファンタジーの部分は何らかの暗喩あるいは主人公の深層心理の投影であるようなものなのでしょう。つまり現実世界とファンタジーは有機的につながっており、読者は現実世界におけるファンタジーの意味や意義を理解あるいは解釈しようとして藻掻くことが多く、それは一部のアンチ村上という反応に出てくることも多いと思います。
しかしこの作品は構造的にも村上作品と同じで現実世界の話として始まりやがてファンタジーの世界に入っていくけれどもその二つの世界には全くつながりはありません。いわば無機質的というか、村上作品のウエットな感じに対してかなりドライな印象を受けます。ファンタジー世界の謎についての解答は得られますが現実とつながっていないためどうにでも設定できるという印象です。
しかもやたら長い。相当のページ数にわたり理解不能な現象が起こり続け、九朔自身訳が分からないという記述が終盤まで続きます。この作品を読んだ人の中には途中で挫折した人も多いのではないかと推測します。そして謎解きがあったとしても前述の通り、現実世界とは切り離されているため、「そうだったのか!」というようなカタルシスはなく「そうなのね」という感想に留まります。
では読んで面白くなかったのかと言われれば凄く面白いとは言えないが好きな作品ではあると答えます。カラス女をはじめとする魅力的なキャラクターや絵画の中に入るというイメージ、エッシャーの騙し絵のような世界、バベルの塔というイメージなど描かれる世界観がとても好みでした。この作品が万城目ファンの方からどういう評価をされているのかは知りませんが、それほど一般受けするとも思えないことから万城目さんとしてはかなりリスクを覚悟での意欲作だったのかもしれません。そしてこの作品をカドフェスにいれる角川文庫さんもやりますね。
主人公の九朔はバベル九朔という古い雑居ビルの管理人をしながら小説を書いている。このビルは九朔の祖父が建てたものだ。場末感も漂うパッとしないテナントビル。カラスのゴミ漁りとの闘い、数少ない仕事の公共料金のメーター調べ、小説家として前に進めない焦り。
九朔はある日、グラマラスな体を強調した全身黒ずくめで大きなサングラスをかけた若い女がビルの階段を上がってくるところに出くわした。それから不思議なことが起こり始め、やがて現実ではない世界に入り込む羽目になる。カラス女、謎の少女、九朔の祖父であり既に亡くなっている大九朔らが入り乱れる不思議な世界、誰が言っていることが正しいのか、バベルとは何なのか、そして九朔の決断は。
読み始めてこれは著者自身の小説家として成功までの自伝的小説、管理人時代のテナントの人々との触れ合い等を描く作品なのかなと思って読んでいると全く予想できないファンタジーの世界にいきなり突入します。そのファンタジーの世界はかなり村上春樹の小説におけるファンタジーに近い感じもしますが本質的に全く違います。
村上作品におけるファンタジーはあくまでも現実世界の話が主でありファンタジーの部分は何らかの暗喩あるいは主人公の深層心理の投影であるようなものなのでしょう。つまり現実世界とファンタジーは有機的につながっており、読者は現実世界におけるファンタジーの意味や意義を理解あるいは解釈しようとして藻掻くことが多く、それは一部のアンチ村上という反応に出てくることも多いと思います。
しかしこの作品は構造的にも村上作品と同じで現実世界の話として始まりやがてファンタジーの世界に入っていくけれどもその二つの世界には全くつながりはありません。いわば無機質的というか、村上作品のウエットな感じに対してかなりドライな印象を受けます。ファンタジー世界の謎についての解答は得られますが現実とつながっていないためどうにでも設定できるという印象です。
しかもやたら長い。相当のページ数にわたり理解不能な現象が起こり続け、九朔自身訳が分からないという記述が終盤まで続きます。この作品を読んだ人の中には途中で挫折した人も多いのではないかと推測します。そして謎解きがあったとしても前述の通り、現実世界とは切り離されているため、「そうだったのか!」というようなカタルシスはなく「そうなのね」という感想に留まります。
では読んで面白くなかったのかと言われれば凄く面白いとは言えないが好きな作品ではあると答えます。カラス女をはじめとする魅力的なキャラクターや絵画の中に入るというイメージ、エッシャーの騙し絵のような世界、バベルの塔というイメージなど描かれる世界観がとても好みでした。この作品が万城目ファンの方からどういう評価をされているのかは知りませんが、それほど一般受けするとも思えないことから万城目さんとしてはかなりリスクを覚悟での意欲作だったのかもしれません。そしてこの作品をカドフェスにいれる角川文庫さんもやりますね。
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昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。
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- 出版社:KADOKAWA
- ページ数:384
- ISBN:9784041077627
- 発売日:2019年02月23日
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