Yasuhiroさん
レビュアー:
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AIをテーマとしたSFショートショート集。どんなに最先端のテーマを俎上にのせても、結局星新一の軛から逃れられない。AI創作以前に人間作家の課題であるようだ。
efさんのレビューを拝見し、興味を惹かれて読んでみました。人工知能学会の学会誌である『人工知能』に掲載されたSFショート・ショートをテーマ別に編纂したアンソロジーとなっています。
計27のショートショートが収録されていますが、新井素子が二作入っている以外は全て一作家一作です。編集が難しいところですが、人工知能学会はテーマを8つ設けて作品を割り振り、その分野の代表的研究者による解説をつけました。これが成功してとても読み易くまた啓蒙的なアンソロジーになっています。efさんがおっしゃるように解説が素晴らしいですし、最後にAIが「創作」したショートショートを掲載したのもこのプロジェクトの最終目標の一つを具現化しており興味深いところです。
さて掲載された作品ですが、どれもAIに関して最新の情報・知見が盛り込まれていて、知的好奇心をくすぐられます。
ただ、ショートショート形式のSFということで、プロットの練り方ひねり方、オチのつけ方などにどうしても先駆者である故星新一氏の影がチラつきます。あくまでも私見ですが、星的作品八割、非星的作品二割と言う印象でした。
後者ではっきりしているものを二つ挙げてみます。かんべむさしのチューリング・テストを題材とした「202x年のテスト」は、オチをつけないという手法であえて星的手法を避けたという気がします。樺山三英の「あるゾンビ報告」はひたすら一本調子の語りという形式で哲学的ゾンビを扱っています。どちらも意図は理解でき意欲作ではあるのですが、率直に言って面白くはない。星的なものを否定する、という事は面白みを否定することであるのだ、と改めて感じました。
惜しいのは高野史緒の「舟歌」。題名がショパンのバルカローレから取られているように、芸術を鑑賞するAIというテーマがとても斬新なのですが、結局AIがなにをしたというところが書かれておらず読者の想像に任されています。よって自分のクラシックの知識をひけらかしただけでショートショートの体をなしていない、という情けない結果に終わってしまいました。
さて、efさんに「理系」としての感想をリクエストしていただいたのですが、残念ながらAI自体は専門ではありません。あえて言うと本作で該当するテーマは「神経科学」です。この分野はまだSF世界と現実の乖離が大きく、SFがまだSFとしてのんびり眺めていられました。解説では2020年には人間の脳全体をシミュレーションするために必要なスーパーコンピューターが開発されると予想されているそうですが、それで人工脳がすぐできるわけでもありませんしね。
それよりも現代医学において喫緊の問題はむしろ「AIと法律」のカテゴリーなのです。
例えば診断能力においてAIは既に人間医師を凌駕しているとさえ言われているのですが、ではAIの下した診断を医師の診断よりも優先して、実は医師の診断が正解だと後で分かった場合、瑕疵はあるのか、あるのなら誰の責任か。
また、今最先端の手術用医療ロボット「ダ・ヴィンチ」、これは現時点では遠隔操作ロボットに過ぎませんが、将来的にAIが自律的に手技を選択して手術を進めるようになれば、その結果が良くなかった場合、それは不可抗力なのか失敗なのか、訴訟になった場合誰が訴えられるのか。
まあ結局は医師に責任がかかってくるのでしょうが、不確定要素があまりにも多く絶対的正解のない医学の世界でにAIを導入するのは難しい問題です。
などと愚痴ともつかぬ感想になってしまいましたが、文系理系を問わず知的好奇心を満たすいい読み物だと思います。とは言え、SFショートショートとしては星新一の軛から解放されていないところが、AIによる小説創作どころか、現代SF作家にも重い課題なのかなと思いました。
計27のショートショートが収録されていますが、新井素子が二作入っている以外は全て一作家一作です。編集が難しいところですが、人工知能学会はテーマを8つ設けて作品を割り振り、その分野の代表的研究者による解説をつけました。これが成功してとても読み易くまた啓蒙的なアンソロジーになっています。efさんがおっしゃるように解説が素晴らしいですし、最後にAIが「創作」したショートショートを掲載したのもこのプロジェクトの最終目標の一つを具現化しており興味深いところです。
さて掲載された作品ですが、どれもAIに関して最新の情報・知見が盛り込まれていて、知的好奇心をくすぐられます。
ただ、ショートショート形式のSFということで、プロットの練り方ひねり方、オチのつけ方などにどうしても先駆者である故星新一氏の影がチラつきます。あくまでも私見ですが、星的作品八割、非星的作品二割と言う印象でした。
後者ではっきりしているものを二つ挙げてみます。かんべむさしのチューリング・テストを題材とした「202x年のテスト」は、オチをつけないという手法であえて星的手法を避けたという気がします。樺山三英の「あるゾンビ報告」はひたすら一本調子の語りという形式で哲学的ゾンビを扱っています。どちらも意図は理解でき意欲作ではあるのですが、率直に言って面白くはない。星的なものを否定する、という事は面白みを否定することであるのだ、と改めて感じました。
惜しいのは高野史緒の「舟歌」。題名がショパンのバルカローレから取られているように、芸術を鑑賞するAIというテーマがとても斬新なのですが、結局AIがなにをしたというところが書かれておらず読者の想像に任されています。よって自分のクラシックの知識をひけらかしただけでショートショートの体をなしていない、という情けない結果に終わってしまいました。
さて、efさんに「理系」としての感想をリクエストしていただいたのですが、残念ながらAI自体は専門ではありません。あえて言うと本作で該当するテーマは「神経科学」です。この分野はまだSF世界と現実の乖離が大きく、SFがまだSFとしてのんびり眺めていられました。解説では2020年には人間の脳全体をシミュレーションするために必要なスーパーコンピューターが開発されると予想されているそうですが、それで人工脳がすぐできるわけでもありませんしね。
それよりも現代医学において喫緊の問題はむしろ「AIと法律」のカテゴリーなのです。
例えば診断能力においてAIは既に人間医師を凌駕しているとさえ言われているのですが、ではAIの下した診断を医師の診断よりも優先して、実は医師の診断が正解だと後で分かった場合、瑕疵はあるのか、あるのなら誰の責任か。
また、今最先端の手術用医療ロボット「ダ・ヴィンチ」、これは現時点では遠隔操作ロボットに過ぎませんが、将来的にAIが自律的に手技を選択して手術を進めるようになれば、その結果が良くなかった場合、それは不可抗力なのか失敗なのか、訴訟になった場合誰が訴えられるのか。
まあ結局は医師に責任がかかってくるのでしょうが、不確定要素があまりにも多く絶対的正解のない医学の世界でにAIを導入するのは難しい問題です。
などと愚痴ともつかぬ感想になってしまいましたが、文系理系を問わず知的好奇心を満たすいい読み物だと思います。とは言え、SFショートショートとしては星新一の軛から解放されていないところが、AIによる小説創作どころか、現代SF作家にも重い課題なのかなと思いました。
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馬鹿馬鹿しくなったので退会しました。2021/10/8
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- 出版社:文藝春秋
- ページ数:318
- ISBN:9784167908508
- 発売日:2017年05月10日
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