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かもめ通信
レビュアー:
停電ばかりでろくに電話も通じない経済危機に陥ったキューバで、数人の男女が互いに駆け引きをしながら必死に探し求めるのは、電話がキューバで発明されたことを証明する貴重な文書だった!?
80を過ぎた実家の父は旅行が趣味で
退職してからというもの、夫婦であちこち出かけてきた。
そんな父が、前々から一度は行きたいと言い続けながら、
行けずにいたのがキューバだ。

近年すっかり観光地化されて
旅行もしやすくなってきたと聞きはするが、
いかんせんキューバは遠い。
高齢者夫婦二人で温泉旅行に行くのとはわけがちがうし、
荷物持ちをかねたお伴として、
父の血を受け継いだのかこれまた行きたがりやの娘がついていったとしても、
ゆったりと旅をするには時間もお金もかかりすぎ、
かなりの体力も必要だから、実現はまず無理だろう。

でも待って!
実際に行くのは無理でも本の中なら旅はできる!
そんなことを考えていた矢先に目にしたのがこのタイトル。
旅したがりの娘は、
まずは下見とばかり、早速出かけてみることにした。


物語の主な舞台は、1993年。
ソ連の崩壊で後ろ盾を失い深刻な経済危機にみまわれていたキューバだ。
語り手は数学教師のジュリア。
元は大学で教えていたが、いろいろあって今は高専で教えている。

そんな彼女が、恩師であり、かつての恋人であり、
今は大事な友人でもあるユークリッドから打ち明けられたのは、
「電話はキューバで発明された」ということを証明するための
「文書」を探しているという話だった。

イタリア人発明家・メウッチがハバナで暮らしていた時期に
電話を発明したということを裏付ける重要な自筆文書。
その文書をめぐって、メウッチゆかりの人物や、作家やジャーナリストなど
様々な人々が様々な思惑を抱いて、駆け引きを繰り広げる様を
自らも渦中に身を置くことになったジュリアの視点から描き出す。

数学者であるジュリアは
物事を常に秩序立て、理論立てて理解しようと試みる。
それは恋愛や友情など人間関係や自己分析においても同様で
たとえばそれが恋人との修羅場であっても、
わざわざ人目のある場所を選び、
自分自身に冷静さを要求することを忘れない。

持ち前の分析力で自分や周囲の
虚実入り交じった駆け引きを見極めようとするジュリアは
果たしてその貴重な文書を見つけ出すことが出来るのか。

年中停電に見舞われ
電話はなかなか通じず
口にするのは豆と粗悪な密造酒ばかりの
ないもの尽くしのキューバで
彼女たちが追い求めているものは本当に文書なのか
それは一縷の希望なのか
それともただの幻なのか

まるで自分も物語の中に入り込んだかのように
あれこれと推理をしてみたりしながら
キューバの海はどんな色をしているのだろうかなどと思い巡らす。

好きだなあ。これ。
ジュリアをとりまく男たちだれもが
どうしようもない奴ばかりであることを含めて
とても意欲的で面白い物語だった。

そしてまたますますキューバに行ってみたくなってしまった。
行ったところであの頃のキューバや
あの頃のあの人たちには
会えないとは、わかってはいるのだけれど……。
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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2236 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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この書評へのコメント

  1. かもめ通信2019-05-06 14:12

    【GW期間限定企画】世界旅行に出かけよう! #本で旅する世界旅行 は
    連休明けにクールダウン用の一日をもうけたため,いよいよ明日が最終日。
    今からでも遅くない!?
    あなたも旅にでかけませんか?w
    https://www.honzuki.jp/bookclub/theme/no350/index.html?latest=20

  2. No Image

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