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ヤドリギ
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罪のない嘘、意味のない嘘。洋服や髪型を変えてイメチェンするように、名前や性別、年齢を装い違う人を生きる。
先日、本屋さんで懐かしい名前を見かけて思わず手にっとった。

中学に入って、初めて自分で買った本が長野まゆみの「少年アリス」だった。今まで読んでいた児童書とは違う幻想的な世界にのめり込んだ。美しい表紙絵は眺めているだけで幸せな気持ちになれる。高校生になり、皆んなが村上龍や山田詠美、吉本ばななのような刺激的で大人っぽいものを読み出したので、私も長野まゆみは読まなくなった。

「ポンペイのとなり」
2段ベッドの下段で雑誌から切り抜いたポンペイ遺跡の写真を眺めて過ごす姉。上段には、同じくポンペイの写真を壁に貼りつけた双子のような弟がいる。姉はわがままでちょっと意地悪。二人にはお互いの不用品を入れる箱がある。主に姉が捨てたものを弟が拾って使う。中学生になっても、姉のお古のギンガムチェックで襟にフリルがついたブラウスを平気で着る弟。

ん?なんか変。この姉の一人語りは信用ならない。本書には6つの物語が収められているが、誰もが何かしら嘘をついている。例えば、実在しないパリ暮らしの叔母からのみやげものを見せびらかしたり、くるみぐらいの大きさなのに重さが一キロある石を持っていると言ってみたり。他愛もない嘘から、出自に関するものまで大小さまざま。

本編で姉のつく嘘はどことなく恐ろしい。虚実の境が曖昧で、嘘をついているという自覚が薄い。頭痛持ちの姉の記憶はたまにあやふやになる。弟はまるで分身か影法師のように扱われる。姉は弟の大切なものを何でも欲しがる。弟はそれを喜んで差し出す。しかし、弟は本当に大切なものは絶対に見せない。

姉を真似たポンペイの写真も枕元に隠した貯金箱も実はダミーだ。大切なものを隠すためのカモフラージュなのだ。姉はそれもちゃんと知っていて、何とかして弟の大切な物に辿りつこうとする。頭痛はどんどんひどくなり、中学を一年休学する。弟とは同学年になる。姉は修学旅行にも行けない。弟が斑鳩からお土産に持ち帰った砂をこっそり貯金箱に入れた。まるで骨壷に骨を納めるように。

弟はその頃から祖母の家で暮らすようになり、あまり家に寄りつかなくなった。そして、ある日を境に弟を見失う。姉はマスクをして弟になりすまし、代わりに模試を受ける。弟の友達とも普通に会話するが誰も気がつかない。そんな筈は無いのだが…

私にも二つ下の弟がいる。引っ込み思案な私と違って、ひょうきんで物怖じしない彼は、正月になると親戚の前で歌ったり踊ったりしてみんなの笑いを集めた。流行にも敏感で、スケボーやブルーハーツ、バイクなど何でも早かった。私はそれを横目で見ていた。小さい頃は殴る蹴るのけんかもしたが、男女ということもあり今はつかず離れずの仲である。

久しぶりの長野作品。昔とはテイストも少し違っていたが、当時の子どもでも大人でもない、女になる一歩手前の曖昧な気持ちを呼び覚ましてくれた。実家に置き去りの「少年アリス」や「野ばら」もそのうちまた読もう。
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ヤドリギ
ヤドリギ さん本が好き!1級(書評数:55 件)

はじめまして^_^ 太宰治「津軽」が私の初レビューです。

芥川や太宰、梶井基次郎など日本文学が好き。カミュやサガンなどフランスの文学も素敵。

レトロなカフェで小説を読んでいると時間を忘れてタイムスリップした気分に…

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