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ホメロスを愛した皇帝の話
ローマ帝国の末期、キリスト教の国教化へと流れていく中でローマ皇帝となったユリアヌスの物語です。
彼の母親であるバシリナが皇帝コンスタンティヌスの弟であるユリウス・コンスタンティウスと結婚した時から物語は始まります。
ニコメディアに住んでいた旧貴族の娘バシリナは、家族や周囲のものが実子クリスプスを殺し妻ファウスタを殺したコンスタンティヌスの義妹となることに反対するなかで、若さゆえか怖れを感じることもなくユリウスに嫁いでいった。
懐妊したバシリナは血の海に折り重なるような屍体の山、そして英雄アキレスが光り輝く姿で現れる夢を見た。
自分が産む息子がアキレスのような英雄になることを信じつつも、アキレスのように短命でなければと案じる母親の姿が描かれます。

産後の肥立ちが悪かったのかバシリナはユリアヌスを産んで少しして亡くなったが、父や忠実な召使に囲まれてユリアヌスは幸せな幼年時代を過ごす。
だがそれは儚く短い夢のような時間でしかなかった。
コンスタンティヌスの臨終を境に再び血生臭い争いが始まり、父ユリウスや年長の兄たち、親戚が殺され幼いユリアヌスはニコメディアに送られる。
皇帝の権力を自分たちのものにしようと暗闘するキリスト教の司教たちの姿も描かれていた。
司教エウセビウスの監視のもとで窮屈な少年時代を過ごしたユリアヌスの心の支えは母が愛したトロイの物語やオデュッセウスの冒険の物語だった。

ユリアヌスの成長と共に、兄ガルスとの関係や従兄で皇帝であるコンスタンティウス二世との緊張感あふれる様子、そして皇妃エウセビアの助けによって実現したギリシア遊学の様子が丁寧に描かれていく。
町娘と恋をしたり、ギリシア文化に傾倒したりと遊学はプラスだったようですが、ユリアヌスにとってはキリスト教は迫害の象徴であり、ギリシア文化は幼くして亡くした父母の代わりのようなものだったのだろう。

歴史の通り、ユリアヌスはギリシアを離れコンスタンティノポリスへ、政治と権力の中心へと呼び戻された。
そして戦場へと送られる。
鬼神と怖れられるほどの戦いぶりを見せ、皇帝となり、改革を推し進めていくユリアヌス。
ペルシアとの戦いの中で倒れるユリアヌス。
どんなシーンを描いても不思議な静謐さが漂うのは作者の語り方だろうか。
夢見るような瞳をしたユリアヌスの姿が見えるかのような物語だった。
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DB
DB さん本が好き!1級(書評数:2034 件)

好きなジャンルは歴史、幻想、SF、科学です。あまり読まないのは恋愛物と流行り物。興味がないのはハウツー本と経済書。読んだ本を自分の好みというフィルターにかけて紹介していきますので、どうぞよろしくお願いします。

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この書評へのコメント

  1. 星落秋風五丈原2024-06-19 02:08

    DBさんみなさんこんばんは。懐かしい。この本学生時代に読みました。

  2. DB2024-06-19 07:44

    わたしも再読だったんですが、久しぶりに読み返しても感動する本でした。

  3. 菅原万亀2024-06-20 09:44

    私もこの本は再読したい作品の一つです。
    歴史ものはあまり読まないのですが(人の名前が覚えられない…;;特にカタカナ)、辻邦生の作品はそれを乗り越えてでも読みたいと感じます。
    思い出させてくださってありがとうございました^^

  4. 星落秋風五丈原2024-06-20 10:12

    みなさんこんにちは。私は辻邦生さんは最初教科書に載っている文章を読んでファンになりました。その後既発表作を読んで、リアルタイムでは晩年で、もうエッセイしか書かれていなかったと思います。なんというか文章が好きなんです。

  5. 菅原万亀2024-06-20 10:37

    >星落秋風五丈原さん

    私も辻邦生の作品は、書かれている内容というより文体が好きなんだと思います。
    エッセイもしかり、です^^ あまりメジャーな作家ではありませんが「推し」です(笑)DBさんのサイトで勝手に語ってすみません;;

  6. DB2024-06-20 20:51

    どうぞ存分に語ってください(^^)/
    辻邦夫さんの作品はこのユリアヌスと、「春の戴冠」を読みましたがどちらも儚い空気をまとったかのような文章でとても好きです。他にもおすすめの作品があったら是非教えてください。

  7. No Image

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