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かもめ通信
レビュアー:
年に一度のお約束。あらすじもなく記憶を記録にとどめるだけの、レビューともいえないような読書メモですがよかったら今回もおつきあいください。 #はじめての海外文学 vol.5
年に1冊のペースでゆっくりと読み進めているのは、
光文社古典新訳版の『失われた時を求めて』。

あいかわらず一気に読むことはせず、
あちこち寄り道し、行きつ戻りつしながら読んでいる。

前巻から2年後、
「私」は祖母と共にひと夏を避暑地バルベックで過ごすことになる。
あれほど恋い焦がれていたジルベルトへの想いも今では記憶になっているよう。

あまり気乗りのしないまま避暑地に向かう「私」に
読み手である私はまたもや自分を重ねはじめる。


ふと耳にした言葉や、偶然目にした地名をきっかけに、
遠い昔好きだった人のことを思い出す。
胸に傷みを感じたのは、その人のことを想ったからというよりは、
その人を大好きだった頃の自分が愛おしかったからだと気づいて少し寂しい。

そんなことってないだろうか。

大好きだった祖父と一緒のところを同級生に見られたときの気恥ずかしさと
恥ずかしいと思ってしまったことへの後ろめたさ

遙か昔のそんなにが思い出までも色鮮やかに思い出される。


ページをめくる手をとめて、
物語から連想したそんな自分の感傷に浸ってばかりいるものだから
一年なんてあっという間に過ぎてしまうのだ。

それでも、いずれまた、この場面に戻ってくれば良いのだからと
自分で自分に言い聞かせて先へ進むと
かなり奥手に思える語り手である「私」の青春時代がようやく幕を開ける。


いつも周囲を観察するばかりで
避暑地での生活に全くなじめそうになく
寂しくなったら壁を叩いて合図をするようにと祖母に言い聞かせられながら
しぶしぶホテルの部屋で一人寝る男の子はこの夏
さまざまな人々と出会い、
友情を得、異性に惹かれ、
母恋しさに涙することも、祖母の後ろに隠れることもなくなる青年になるのだ。

物語にはとにもかくにも大勢の人物が登場するが、
かつてあの場所にいたあの人が再び
意外なことにあそこで話題になっていたあの人とこの人は同一人物だったのか!?
といったつながりもたびたび。
そこがまた興味深く、面白くもあり、
ちょっとまっていて!以前の登場シーンを確認してくるからなどと
引き返すきっかけになったりも。

読みどころは多々あるが
なんといってもこの巻の圧巻は
画家エルスチールの描いた絵の描写だ。
ただひたすら文字を追い
描かれているのがどんな絵なのか想像する楽しさはもうそれだけで
至福のひとときを約束してくれる。

そしてまたかねて噂の女性アルベルチールの登場シーン。
読み手である私にとっては少々意外なことに何人もの少女のなかの一人。
その中で際立って「私」の関心を惹いてはいるものの
読み手である私の関心は今ひとつ。

避暑地の夏が終わった後
いずれ再び登場する場面で果たしてこの印象は変わるのかどうか
興味あるところでもある。

ところで私は前巻のレビューで。
この物語に描かれているあれこれは
「私」の“失望の記憶”ではないかと書いたのだけれど
改めて読み進めておもうことはつまり
「私」の“失望”の裏には
「私」の過度な“期待”があり
「私」ときたらいつも、与えることより与えられることを
想うよりより想われることを強く望んでいて、
だからこそ始終がっかりしてしまうのだ。

それはもちろん、思春期にはよくあることかもしれないが、
それがこの先、どういう風に変わるのか、変わらないのか
それもまた気になるところではある。

今回もまたお約束、
女中のフランソワーズが脇役中の脇役ながら良い味だしている。
フロンソワーズの視点から物語を語り直したら
それもまた面白いものになりそうな気がするけれど
数ある関連本の中にはそんな作品もあったりするのか?
そのあたりも気になっている。


<関連レビュー>
『失われた時を求めて〈1〉第一篇「スワン家のほうへ1」』
『失われた時を求めて〈2〉第1篇・スワン家のほうへ〈2〉」』
『失われた時を求めて〈3〉第二篇・花咲く乙女たちのかげに〈1〉』
「スワン家のほうへI」読み比べ
失われた時を求めて〈1〉第一篇 スワン家の方へ〈1〉集英社版
失われた時を求めて フランスコミック版 第1巻 コンブレー
収容所のプルースト
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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2234 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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この書評へのコメント

  1. かもめ通信2020-01-06 06:16

    タカラ~ムさん主催の読書会
    #はじめての海外文学 vol.5応援読書会
    https://www.honzuki.jp/bookclub/theme/no373/index.html?latest=20
    参加レビューです。

  2. かもめ通信2020-01-06 06:17

    1週間のネット休暇を経て、これが新年初投稿。
    皆様、今年もどうぞよろしくお願いいたします。

  3. No Image

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