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かもめ通信
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意外に思うかもしれないけれど、無性にアップルパイが食べたくなって、毎年この時期に国税還付金をあてている寄付金を今年はどこに託そうかと激しく迷い始めたのはこの本を読んだからだったりする。
『紙の動物園』『母の記憶に』に続く、ケン・リュウ日本オリジナル短編集第3弾!と聞けば、読まないわけにはいかないだろう。
たとえそれが、これまでの2冊とくらべると、私が苦手とするSF色が強いという前評判だったとしても。
なにしろ20篇もの作品を収録しているというのだから!

というわけで、意を決して手にした本は、これまでの2冊よりも更に厚くずしりと重い。
大事に少しずつ読むことにして、ページをめくると、表題作「生まれ変わり」とそれに続く「介護士」は、テンポもよく面白いが、どこかで読んだことがあるような予測可能な結末という気がしないでも。
SFに疎い私がいうのもなんだが、わりとオーソドックスな印象をうける作品が他にもいくつかあった。

3作目の「ランニング・シューズ」はこれ、ベトナムの女工を主役に据えた切なくも残酷な忘れがたい作品。
貧しい途上国とそれを搾取する先進国という、いわゆる“南北問題”を扱っているものは他にも収録されていて、いずれもなかなかの読み応え。

もう一つ、目立っていたのは“電脳化”をめぐるあれこれ。
商業誌デビュー作だという「カルタゴの薔薇」や絵文字が沢山登場する「神々は……」で始まる三部作、「七度の誕生日」などで繰り返し取り上げられていた。
いずれの作品も、“電脳化”の話ではあるが、同時に親子やきょうだいといった家族の絆をテーマにしてもいる。

後半にまとめて収録されている“中華風”の作品の面白さはやはり群を抜いていて、唐の時代に書かれた小説を元にしているという「隠娘」はもちろん、難民問題にするどく切り込んだ「ビザンチン・エンパシー」もすばらしい。

先進資本国と発展途上国の経済格差、移民・難民問題など、近未来として描かれているあれこれが、現代社会が直面している様々な社会問題と見事に重なるところも興味深かった。

お気に入りは、「ランニング・シューズ」「カルタゴの薔薇」「隠娘(いんじょう)」「ビザンチン・エンパシー」あたり。
あれ、やっぱり、SF度低めの作品を選んでしまったかな?

<ケンリュウ既刊レビュー>
紙の動物園
母の記憶に
蒲公英(ダンデライオン)王朝記 巻ノ一: 諸王の誉れ
蒲公英(ダンデライオン)王朝記 巻ノ二: 囚われの王狼
<関連レビュー>
折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー
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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2236 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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