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かもめ通信
レビュアー:
「物語を聞いたり本を読んだりするだけで満足するのは危険だ。」自戒をこめて、繰り返し読む。
原題は“The Displaced: Refugee Writers on Refugee Lives”
2018年4月にアメリカで刊行されたエッセイ集。
ドナルド・トランプの大統領就任とそれにつづく排外的政策に危機感を覚えた18人の難民作家が、自らの経験を語るために筆を執ったのだという。

その多くは、アメリカやカナダで既に永住権を得ていて、「難民」ではなく「移住者」であるふりをしていた方が、「厄介ではなく、要求がましく感じられることもなくて、怖がられることもあまりない」と思われるが、それでもあえて声をあげる。

アフガニスタン、ソヴィエト、ヴェトナム、メキシコ、エチオピア、ボスニア、イラン等々、様々な国から、様々な状況のもと、様々な手段で故郷を後にしてきた作家たちが語るのは、“どのような場所からどのようにして逃げてきたか”であったり、“逃げ延びたはずの地での残酷な体験”であったり、“失ったもの”であったり、“得たもの”であったりする。

涙なしには読めないものもあれば、読みながら誰にぶつけていいのかわからない激しい憤りを覚えずにはいられないものもある。

忘れられない本になるだろうと思いつつも、つとめて心を静め、編者でもあるヴィエト・タン・ウェンの言葉を繰り返し、繰り返し読み返す。

 作家のヴィジョンに声を与えるには、物語が必要であり、おそらく声なき者のかわりに語るためにも物語が求められる。声なき者の声を聞くというレトリックには強い力があるが、物語を聞いたり本を読んだりするだけで満足するのは危険だ。物語を聞き、本を読んだからといって、声をもたない人のなにかが変わるわけではない。読者も作家も、文学が世界を変えると自らを欺いてはいけない。文学が変えるのは読者と作家の世界だ。人々が腰をあげて世界に出て、文学が語る世界のあり方を変えようとなにかすることで、ようやく文学は世界を変えることができる。それがなければ、文学はただ読者と作家の崇拝の対象にすぎず、声なき者の声を聞いていると思っていても、実は作家個人の声を聞いているのにすぎない。

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かもめ通信
かもめ通信 さん本が好き!免許皆伝(書評数:2233 件)

本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。

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