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献本書評
たけぞう
レビュアー:
#描いてみた クリムトの魅力を余すところなく伝えるスゴ本! 展覧会の感想も追記しました。
「お絵描き書評の部屋。」参加書評です。
絵画は大好きなのですが、画集は買わないようにしています。
意外でしょうか? 理由はあります。欲しいけど、あえての選択なのです。

理由が二つあります。最初の理由です。
油絵具の特性上、実際の作品と写真とでは違いが大きすぎるのです。
実際に見ると、作品の大きさや光の当たりかたで迫力が伝わるのですが、
写真はそこが表現できないのです。
色合いも、印刷技術で実際と違う場合があります。
だから写真によって本物を見た記憶がリセットされないようにしたいのです。
図書館でチラ見するぐらいは、まあ仕方ないと思っていますが。

もう一つの理由は、解説を読むのが煩わしい場合があるのです。
自分が好きなように絵を楽しみたい部分があるのに、徹底的に分析されると、
その解釈があたかもただ一つの正解のように思えてくるのですね。
だからこころのどこかが醒めてしまうのかもしれません。
そういう画集は、見開きで作品1ページ、解説が細かい字で
1ページびっしりというイメージです。

ここにこんな描写があって、この部分がこれを意味していてという解説は、
本当に画家がそんなに説教くさく考えながら描いたのかしらんと
思ってしまうのですね。宗教画はさもありなんですけれど。

────── なんでくどくど書いたかというとですね、この画集にとてつもない衝撃を
受けたからなのです。いままでの固定観念が吹き飛びました。こんな画集は初めてです。

写真のマイナス面は仕方ないとしても色合いはかなり綺麗です。印刷、頑張っています。
なによりも絵を存分に楽しめるように、解説が別ページになっているのですね。
しかも絵の意味や解釈は少なくて、作品制作の背景やクリムトが主導した分離派の活動が
まとめられているので、読者に最大限の配慮がされていると言っていいでしょう。

思わず著者と発行者を検索してしまいましたよ。
パイ・インターナショナル社と海野弘さん著とあり、他の画集の評判も
すこぶるいいのですね。選択すべき組み合わせと思います。

中身の素晴らしさも紹介しますね。
収録作品数がとにかく多いです。代表作だけでなく、未完の作品や若描きの頃、
デッサンも含まれていて画家の技術が分かる絵が何枚も入っています。
興奮しますね。下地や下絵がこうなっていたというのは、ものすごく参考になります。

絵ごころという言葉があります。
具体的には、以下の二つの要素から成り立つと思います。
1.対象をとらえて、魅せる力
2.対象を描く技術

1は、題材の選びかた、構図の取りかた、色のつけかた、強調の度合いなどで
画家のこころを反映する部分です。
これは絵を見る人に伝わる部分なので、見る人がいろいろと解釈することから
クリムトはこうであるとは言いにくいですね。自分はこう思うという程度です。

2は、技術的なことなので分析しやすいです。
絵を描く技術は、以下の三つが重要と思います。
(1)見たまま描く能力
(2)見えるものから必要な情報を整理する能力
(3)細かい作業をおろそかにしない能力

この知識の詳細は、「絵はすぐに上手くならない」で勉強しました。
素晴らしい本なので、気になったらぜひお読み下さい。

クリムトは、上記の三つの能力をすべて完璧に持っています。技術的には天才です。
下手に描くことができない人です。
ピカソもそういう画家だと言えば、伝わるでしょうか。
自分なんかは一生懸命に線を重ねて似せようとするのですが、
クリムトは一発で正しい線が引けるので、一般人がなぜ見た通りに描けないのか
きっと理解できないでしょう。

超有名画家でも、この三つの技術がすべてあるとは限りません。
逆に、技術があるばかりに、肝心の1の能力を発揮できずに綺麗なだけの絵を描いて
評価の上がらない人もいます。

そんなことが、この画集を見るとはっきり分かります。
もちろんこんな無粋な解説は書いていないですけれどね。

クリムトがすごいのは、1の魅せる能力も天才的だということです。
この画集を見るまでは一部の代表作しか知らなかったので、顔が妙にリアルで
変わったヌードばかり描く画家という程度にしか思っていませんでした。
とんでもない思い違いでした。
風景画、肖像画にも素晴らしいものがあります。
それを踏まえて作品群の全体を見渡すと、よく紹介されているヌード画が
神々しくさえ思えてきます。

ウイーン美術史美術館の装飾画には、クリムトが手掛けたものがあります。
エントランスの写真を貼っておきますね。クリムトの絵の写真がなくてすみませんが、
雰囲気が伝わればと思います。
また、下手くそなりにクリムトのデッサンを模写しましたので、
それも載せておきます。何かが伝われば嬉しいです。

真の天才に触れられる画集ですよ。素晴らしい編集です。


<追記その1>---------------------------

2019.5/19に国立新美術館で開催中のウィーンモダン展に行ってきました。
この本の帯に割引券がついていて感謝です。
同時期に東京都美術館でクリムト展が開催中だからなのか、
他のクリムト本の書評での情報どおり、待ち時間なしでした。
東京でこんなことはめったにないレベルです。興味のある方、大チャンスです。
もちろんガラ空きではありませんが、絵を見る列がないので快適ですよ。
日曜の午後でこうですから、展覧会終盤でなければ大丈夫でしょう。

ウィーンモダン展は、ウィーン美術館の所蔵品展です。
だからクリムトはありますが、油彩・水彩とも数点です。
ただし、デッサンとクロッキーが山のようにありますので、
ある面ではクリムト展よりもすごいかもしれません。
パラス・アテナ、エミリー・フレーゲの肖像、その他肖像画1点と
ブルク劇場などが見られます。

なにより、ウィーン分離派の作品が見られるのがいいのです。
ハンス・マカルトという作家さんを知ったことも大収穫でした。
クリムトが分離派を立ち上げる前に尊敬していた画家なのですが、
これがまあすごかったこと。
ドーラ・ガビロンという女性の赤い肖像画があるのですが、
何十分足止めを食ったことか。ネットで見るとちゃちなのですが、
現物を見ると息が止まりそうになります。鼻血まで止まります。
日本のWikiにはありませんが、海外のWikiで見られます。

そしてクリムト。パラス・アテナのど迫力。
思ったよりも小ぶりでしたが、写真とはかなり違いました。
写真はやはり軽めに写りますね。金ぴか感は控えめで荘厳でした。
なによりも肌の色がとてつもなく暗く、衝撃です。
エミリー・フレーゲの肖像も同じくです。
写真であれだけ魅力的な絵がどうなるのか、すごいですよー。

自分の絵画の知識が、いかに狭いものか思い知らされました。
中世写実絵画の次は、屋外に出て印象派になり、野獣派になり、
エコールドパリの活動がありと思っていましたが、
ウィーンでは写実絵画が超写実へと正常進化をしていたのですね。
知りませんでした。恥ずかしく思いました。
先日ホキ美術館に行ったところで、いずれレビューしますが、
次元が違いました。ホキ美術館も充分頑張っているのですが、
頭の中でつい比べてしまってごめんなさい。

発見がたくさんある展覧会でした。
なお、自分の模写も書評に載せていますが、当然ながら
一世一代の恥さらしレベルということが分かってしまいました。
デッサン・クロッキーを見ると、クリムトの天才具合が
よく分かります。迷いなく引かれた線にしびれますよ。


<追記その2>---------------------------

2019.8/9に愛知県豊田市美術館で開催中のクリムト展に行ってきました。
東京都美術館での開催は平日でも結構混んでいるみたいだったので、
豊田市にかけてみました。平日に行ったとはいえ、お盆前の休日に
入っている人も多かったはずです。それでこの混雑であれば成功だと思いました。
係の人に聞いてみたら、東京と豊田の両方に行った人がいたみたいで、
ずいぶん嬉しかったのか空いていてよかったですと
おっしゃっていたそうです。

がら空きではありませんが、ほぼ待たずに絵を見られるのでお薦めです。
チケット売り場には10分くらいの列ができており、最初の部屋は
やや混雑気味でしたが、奥に進むにつれ空いてきて、たっぷり楽しめました。
土日はやや混んでいるみたいですが、臨時駐車場もあります。
平日なら確実に待たずに入れるでしょう。

両方見た感想ですが、甲乙つけがたいですね。
クリムト展は、有名絵画が結構あってしびれました。
豊田市限定ですが、愛知県立美術館所蔵の人生は戦いなりも来ていて
感激でした。

ヘレーネ・クリムトの肖像という少女の白色系統の側面画や、ユーディット、
ヌーダ・ヴェリタスなど、現物から衝撃を受けました。
透明性の高い画風なので、本物の迫力はすさまじいものがありました。
肖像画や風景画も結構ありました。

ハンス・マカルトもあります。デッサンは少しだけ。
まあ、そちらはウィーン・モダン展に譲るとして、大満足の展覧会です。
ウィーンモダン展は大阪に巡回されるみたいです。
どちらもとてもお薦めですよ。
この本を読んでから行ったので、深く楽しめた気がします。
    • ウイーン美術史美術館のエントランス
    • デッサンの模写です。なにげなく見えますが超絶難しかったです。
    • ウィーン・モダン展にあるエミリー・フレーゲの肖像
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ふとしたことで始めた書評書き。読んだ感覚が違うことを知るのは、とても大事だと思うようになりました。本が好き! の場と、参加している皆さんのおかげです。
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自己紹介ページの二番目のアドレスは「飲んでみた」の書評です。
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よかったらのぞいてみて下さい。

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この書評へのコメント

  1. ぴょんはま2019-04-02 13:29

    いつも、「参考になる」は割と気軽に押すのですが、読んで楽しいし、絵のわかる方の素晴らしい洞察なのでしょうし、手にしたらきっと共感するに違いない、全部含めて絵の素人に深く「参考になる」書評だと思いました。

  2. たけぞう2019-04-02 21:06

    >ぴょんはまさん
    もったいないお言葉、ありがとうございます。クリムトの天才具合が伝わればとても幸せです。

  3. たけぞう2019-05-19 19:58

    5/19、ウィーンモダン展に行ってきました。素晴らしかったです。本文中に追記しましたので、よかったら読んで下さい。

  4. たけぞう2019-08-09 19:21

    8/9、クリムト展に行ってきました。ウィーン・モダン展と両方行けてとても幸せな気持ちになりました。本文中に追記しましたので、よければそちらもどうぞ。

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