かもめ通信さん
レビュアー:
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もうこれ最高!ピタリとツボにはまりましたw良いところも悪いところも含め、気になる作家について熱く語ることの楽しさを思い出させてくれる1冊です!
あの 『中二階』のニコルソン・ベイカーが、 “ウサギ”シリーズなど多くヒット作品を生み出した人気作家ジョン・アップダイクへの想いを綴った自伝的エッセイ。
ひと昔前……1990年代後半ぐらいの時期ならいざ知らず、今の時代、そう聞いただけで「これは読みたい!!」と思う人は、いったいどれぐらいいるのだろうか。
少なくても私は全く食指が動かなかった。
なにしろ私ときたら、複数の読友さんから是非にと薦められたにもかかわらず、未だ1ページも『中二階』を読んだことがないし、アップダイクにしてもわずか1作 『クーデタ』を読んだことがあるだけなのだ。
にもかかわらず、私がこの本を手に取ったのは、本書が「第五回日本翻訳大賞の二次選考対象作品だったから」という理由にすぎない。
実はこのたび、念願叶って日本翻訳大賞中間報告会に参加できることになって、どうせ参加するなら対象作品に触れておいた方がより楽しめるだろうと思っていたところ、図書館の新着コーナーで見かけて手に取ったのだった。
前述した通り、ベイカーもアップダイクもろくに知らない私が読み通せるものとも思えなかったので、さわりだけでも読んで雰囲気をつかんでおこうと思ったのだった。
ところが。ところがである。
この本ときたら、しょっぱなからぐいぐい引っ張るどころではない。
ことのおこりは1989年、かつて師と仰いだ作家ドナルド・バーセルミの訃報に接し、落ち込んだベイカーが『ニューヨーカー』誌に追悼文を送ることを思い立ったことだった。
ところがいざ書こうとすると、“アップダイクがナボコフのために書いた追悼文よりもいいものが書きたい”と、力んでしまいあえなく挫折。
こんなことではもしも万が一、敬愛するアップダイクが亡くなったときにも、同じようなことになりかねない。
そしてもしそんなことになったなら、自分は今度こそ立ち直れないと思い悩んだベイカーは、アップダイクについてのエッセイを書くことを思いたったというのだ。
つまりこの時点でアップダイクは存命どころか、現役バリバリで活躍中の人気作家で、対するベイカーはようやく2冊目の本が出たばかり。
その上ベイカーときたら、アップダイクに入れ込んでいるとはいうものの、その作品の半分も読んでいない。
にもかかわらず、アップダイクについて書き始めてしまうのだが、参考のために未読本を読みあさるなどということは一切しない。
それどころか、かつて読み今手元にある本さえ、自分が抱いてきた印象を変えかねないと、再読はおろかチラ見すらしまいと固く決意してしまう。
そんなわけで「記憶批評」「読まず語り」などと称しつつ、あれこれ語りあげるために、小難しい「文学論」は一切無く、(もしもアップダイクと一緒にゴルフをしたら……)とか、(もしやあの作品のさえないモデルは自分なのでは……)などと、あっちの方向、こっちの方向へと行ったり来たりしながら縦横無尽に筆を走らせていく。
(まあ、これは言葉の綾で実際は筆ではなくタイプだったと思うがそれはさておき)
なんだかもう本当に、馬鹿馬鹿しいぐらいのノリなのだが、それでいて(こういう言い方をするとベイカーは喜ばないと思うが)文学的な示唆に富み、その上、触れられているどの作品もやけに面白そうで、アップダイクもナボコフもベイカーも、あれもこれもと読みたくなってきてしまうのだ。
訳者と編集者によって本文の流れを損なうことなく工夫された豊富な注釈もわかりやすく、次々と話題に上る作品を知っていれば、より楽しめるのかもしれないが、知らなくても十分楽しめた。
読みながらニヤニヤするのをとめられず、時には思わず声を上げて笑って、家族にひんしゅくをかってしまったほどだ。
図書館で借りた本だったが、手元に置いておきたくなって思わず購入を決意した。
もっともこの先、ベイカーにしろアップダイクにしろナボコフにしろ、読み進めながら(そういえばこの本ではなんと言っていたかしら……)などと該当箇所を探してみる……などという読み方はしそうにない。
なにしろこのレビューだって、ベイカーを見習って手元の本を開くことなく、「記憶」のみに基づいて書いているのだから。
もっとも作家という生き物は、作り話をせずにはいられないものだから、実際にベイカー自身が「記憶のみに基づいて」書いたのかどうかはわからないけれどね!
ひと昔前……1990年代後半ぐらいの時期ならいざ知らず、今の時代、そう聞いただけで「これは読みたい!!」と思う人は、いったいどれぐらいいるのだろうか。
少なくても私は全く食指が動かなかった。
なにしろ私ときたら、複数の読友さんから是非にと薦められたにもかかわらず、未だ1ページも『中二階』を読んだことがないし、アップダイクにしてもわずか1作 『クーデタ』を読んだことがあるだけなのだ。
にもかかわらず、私がこの本を手に取ったのは、本書が「第五回日本翻訳大賞の二次選考対象作品だったから」という理由にすぎない。
実はこのたび、念願叶って日本翻訳大賞中間報告会に参加できることになって、どうせ参加するなら対象作品に触れておいた方がより楽しめるだろうと思っていたところ、図書館の新着コーナーで見かけて手に取ったのだった。
前述した通り、ベイカーもアップダイクもろくに知らない私が読み通せるものとも思えなかったので、さわりだけでも読んで雰囲気をつかんでおこうと思ったのだった。
ところが。ところがである。
この本ときたら、しょっぱなからぐいぐい引っ張るどころではない。
ことのおこりは1989年、かつて師と仰いだ作家ドナルド・バーセルミの訃報に接し、落ち込んだベイカーが『ニューヨーカー』誌に追悼文を送ることを思い立ったことだった。
ところがいざ書こうとすると、“アップダイクがナボコフのために書いた追悼文よりもいいものが書きたい”と、力んでしまいあえなく挫折。
こんなことではもしも万が一、敬愛するアップダイクが亡くなったときにも、同じようなことになりかねない。
そしてもしそんなことになったなら、自分は今度こそ立ち直れないと思い悩んだベイカーは、アップダイクについてのエッセイを書くことを思いたったというのだ。
つまりこの時点でアップダイクは存命どころか、現役バリバリで活躍中の人気作家で、対するベイカーはようやく2冊目の本が出たばかり。
その上ベイカーときたら、アップダイクに入れ込んでいるとはいうものの、その作品の半分も読んでいない。
にもかかわらず、アップダイクについて書き始めてしまうのだが、参考のために未読本を読みあさるなどということは一切しない。
それどころか、かつて読み今手元にある本さえ、自分が抱いてきた印象を変えかねないと、再読はおろかチラ見すらしまいと固く決意してしまう。
そんなわけで「記憶批評」「読まず語り」などと称しつつ、あれこれ語りあげるために、小難しい「文学論」は一切無く、(もしもアップダイクと一緒にゴルフをしたら……)とか、(もしやあの作品のさえないモデルは自分なのでは……)などと、あっちの方向、こっちの方向へと行ったり来たりしながら縦横無尽に筆を走らせていく。
(まあ、これは言葉の綾で実際は筆ではなくタイプだったと思うがそれはさておき)
なんだかもう本当に、馬鹿馬鹿しいぐらいのノリなのだが、それでいて(こういう言い方をするとベイカーは喜ばないと思うが)文学的な示唆に富み、その上、触れられているどの作品もやけに面白そうで、アップダイクもナボコフもベイカーも、あれもこれもと読みたくなってきてしまうのだ。
訳者と編集者によって本文の流れを損なうことなく工夫された豊富な注釈もわかりやすく、次々と話題に上る作品を知っていれば、より楽しめるのかもしれないが、知らなくても十分楽しめた。
読みながらニヤニヤするのをとめられず、時には思わず声を上げて笑って、家族にひんしゅくをかってしまったほどだ。
図書館で借りた本だったが、手元に置いておきたくなって思わず購入を決意した。
もっともこの先、ベイカーにしろアップダイクにしろナボコフにしろ、読み進めながら(そういえばこの本ではなんと言っていたかしら……)などと該当箇所を探してみる……などという読み方はしそうにない。
なにしろこのレビューだって、ベイカーを見習って手元の本を開くことなく、「記憶」のみに基づいて書いているのだから。
もっとも作家という生き物は、作り話をせずにはいられないものだから、実際にベイカー自身が「記憶のみに基づいて」書いたのかどうかはわからないけれどね!
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本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
この書評へのコメント
- かもめ通信2019-03-11 06:19
第五回日本翻訳大賞の中間報告会が、
3/21(木)14時より青山ブックセンター本店にて行われます。
第二次選考対象作品の17作、
そして最終選考の5作、
さらに翻訳にかんする一般的な話題について、楽しく語るイベントとのこと。
今年は私も念願叶って参加できることになりました!
興味がある方がいらしたらぜひ、ご一緒しませんか?
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