ことなみさん
レビュアー:
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山道を歩いていたら金色の玉が落ちていた。拾ろおうと追っかけると、コロコロ転がって縁側で寝ていた祖父の鼻に飛び込んだ。目を覚ました祖父は「ああ~~恐ろしかった、踏まれて死ぬところだった」といったという。
私が子供の頃何度も聞いた話。
幼い頃寝る前にお話をせがむと、叔父たちがかわるがわるお話をしてくれた、みんなもう居ないけれど。こんな話の種が私の中で芽吹いて思い出すたびに少しずつ育っている。
こうして里で生まれた話はさまざまに形を変えて民話に育っていくのだろうか。
☆
死者は体のどこかに最後の願いを伝えるためにイクラのような赤い「ぎょらん」を残すという。気づいて拾い上げて口にいれたり手のひらに乗せると思いが伝わってくる。
という話のマンガが雑誌に連載されていた。
それを読んでから兄の朱鷺は、大学もやめてしまって引きこもり「ぎょらん」の研究を始めた。
華子が男の告別式から帰ると朱鷺が荒れていた。母が大切なマンガ本を処分してしまったと叫んで泣き喚いた。荒れた兄は華子だけには優しく、お互いの想いが届いていた。
華子は家庭のある男を愛して信じていたが男はトラックにはねられて即死だった。事故現場はすぐ近くでバイク事故だった。朱鷺は妹への男の想いを知るために華子と現場に行き、あたりを探してみたが何も残っていなかった、もちろん「ぎょらん」も。
朱鷺は葬儀社に就職した。バイトからはじめて勝手がわからない新人時代も無事勤め、見かけの良さ聡明さもあって次第に馴染んでくる。
しかし葬儀社とは思い切った就職先だ。一人の人間が亡くなるということはこうも面倒なものか。残された人たちの重く沈んだ中で働かなくてはならない葬儀社というところ。まして厳かな死のはずが生前のあれこれがあらわになることもあり基本になる決まり事もある。死の形も様々ある。
華子には優しかった死者も別の彼女に会いに行くところだった。悲しみは深いが少々間抜けに見える。この兄妹の純朴さ暖かさが救い。
「ぎょらん」にこだわる朱鷺の過去には親友の死があった。彼が縊死した姿で見つけた時は遅かった。「ぎょらん」を見つけて食べてから衝撃の後ニート生活が始まった。
幼い時父が亡くなり、二人を育ててきた母まで倒れて亡くなってしまった。
いくら「ぎょらん」で望んでいても、生者の思いはもう死者には伝わらない、繋がれない、心は別の世界に行っているよ。と先輩が華子に言う。
私は死んでしまうとただ心身ともに消滅するだけだと思っている。だから「ぎょらん」などというたわごとは読みたくないけれど、それでも死んだこともないので強くは言えない。
私の身近な人たちがほとんど亡くなっていても夢にも滅多にでてこない。
転生があるにしても前世のことなど何も覚えていないし、死んだあと生まれ変わりなど望んでもどうなるかなんて知るすべはない。
ただ自分と他人について同時代に生きてきたというだけで生き方を突き詰めて考え、一途に生まれた原点の貧富や身分の差などに迫り心のありかたを求めて、自身の迷いから悟りを開こうとした人々や、無為に生きるだけでなく身近に手段を求めて、それを極めようとする人の生き方はいつか究極の何かを掴めるのではないかと憧れながら思っている、それは後世の人たちに何か大きな思いを残す。
そこには「ぎょらん」があったとしても人の想いはいくら強くても記憶と共に消えていく。
消滅して何もかもなくしてしまう寂しさや思いで、残された人たちは苦しむのではないだろうか。そしていつか逸話を作り物語を創る。
だからこの話を読んでも登場人物たちの喜怒哀楽や生きていく術や、過去のあれこれもあまり実感がわかない。
もしこういった都市伝説が生まれていても、死者の想いが「ぎょらん」に託されていたとしてもそれはお話の世界でしか成立はしないのではないかというのは何かに毒されているのだろうか。
兄の朱鷺と妹の華子、亡くなった父母や周りの人たちとの喜怒哀楽を素直に感じる年齢を過ぎていることをしみじみ感じた。
「ぎょらん」を思いついた作者は、それを生み出した哀しい運命をうまく描いているし、登場人物も優しい。世代や思いがあえば感じるところもあるのだろうと思う。
幼い頃寝る前にお話をせがむと、叔父たちがかわるがわるお話をしてくれた、みんなもう居ないけれど。こんな話の種が私の中で芽吹いて思い出すたびに少しずつ育っている。
こうして里で生まれた話はさまざまに形を変えて民話に育っていくのだろうか。
☆
死者は体のどこかに最後の願いを伝えるためにイクラのような赤い「ぎょらん」を残すという。気づいて拾い上げて口にいれたり手のひらに乗せると思いが伝わってくる。
という話のマンガが雑誌に連載されていた。
それを読んでから兄の朱鷺は、大学もやめてしまって引きこもり「ぎょらん」の研究を始めた。
華子が男の告別式から帰ると朱鷺が荒れていた。母が大切なマンガ本を処分してしまったと叫んで泣き喚いた。荒れた兄は華子だけには優しく、お互いの想いが届いていた。
華子は家庭のある男を愛して信じていたが男はトラックにはねられて即死だった。事故現場はすぐ近くでバイク事故だった。朱鷺は妹への男の想いを知るために華子と現場に行き、あたりを探してみたが何も残っていなかった、もちろん「ぎょらん」も。
朱鷺は葬儀社に就職した。バイトからはじめて勝手がわからない新人時代も無事勤め、見かけの良さ聡明さもあって次第に馴染んでくる。
しかし葬儀社とは思い切った就職先だ。一人の人間が亡くなるということはこうも面倒なものか。残された人たちの重く沈んだ中で働かなくてはならない葬儀社というところ。まして厳かな死のはずが生前のあれこれがあらわになることもあり基本になる決まり事もある。死の形も様々ある。
華子には優しかった死者も別の彼女に会いに行くところだった。悲しみは深いが少々間抜けに見える。この兄妹の純朴さ暖かさが救い。
「ぎょらん」にこだわる朱鷺の過去には親友の死があった。彼が縊死した姿で見つけた時は遅かった。「ぎょらん」を見つけて食べてから衝撃の後ニート生活が始まった。
幼い時父が亡くなり、二人を育ててきた母まで倒れて亡くなってしまった。
いくら「ぎょらん」で望んでいても、生者の思いはもう死者には伝わらない、繋がれない、心は別の世界に行っているよ。と先輩が華子に言う。
私は死んでしまうとただ心身ともに消滅するだけだと思っている。だから「ぎょらん」などというたわごとは読みたくないけれど、それでも死んだこともないので強くは言えない。
私の身近な人たちがほとんど亡くなっていても夢にも滅多にでてこない。
転生があるにしても前世のことなど何も覚えていないし、死んだあと生まれ変わりなど望んでもどうなるかなんて知るすべはない。
ただ自分と他人について同時代に生きてきたというだけで生き方を突き詰めて考え、一途に生まれた原点の貧富や身分の差などに迫り心のありかたを求めて、自身の迷いから悟りを開こうとした人々や、無為に生きるだけでなく身近に手段を求めて、それを極めようとする人の生き方はいつか究極の何かを掴めるのではないかと憧れながら思っている、それは後世の人たちに何か大きな思いを残す。
そこには「ぎょらん」があったとしても人の想いはいくら強くても記憶と共に消えていく。
消滅して何もかもなくしてしまう寂しさや思いで、残された人たちは苦しむのではないだろうか。そしていつか逸話を作り物語を創る。
だからこの話を読んでも登場人物たちの喜怒哀楽や生きていく術や、過去のあれこれもあまり実感がわかない。
もしこういった都市伝説が生まれていても、死者の想いが「ぎょらん」に託されていたとしてもそれはお話の世界でしか成立はしないのではないかというのは何かに毒されているのだろうか。
兄の朱鷺と妹の華子、亡くなった父母や周りの人たちとの喜怒哀楽を素直に感じる年齢を過ぎていることをしみじみ感じた。
「ぎょらん」を思いついた作者は、それを生み出した哀しい運命をうまく描いているし、登場人物も優しい。世代や思いがあえば感じるところもあるのだろうと思う。
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徹夜してでも読みたいという本に出会えるように、網を広げています。
たくさんのいい本に出合えますよう。
この書評へのコメント
- ことなみ2024-02-13 20:18morimoriさん 
 こんばんは、三連休明けで雑用がたまっていて、落ち着くとこんな時間です。
 「ぎょらん」は素直に入り込めばとてもよくできていて町田さんって面白いなとは思いました。それぞれの形で、辛い中を切り開いていく前向きなお話でしたが読み方で欲張って、少しありきたり感をもってしまって辛口になりましたが。
 
 「うつくしヶ丘の不幸の家」後味がいいようですね。
 最後に紹介されていてびっくりしたのですが「52ヘルツのクジラたち」は積んでありました(読んでないのですが)帯に本屋大賞第一位、読書メーター第一位とあるのでそれを見て買ったかも、面白いのかなナンテ思ってそのまま積んでしまってました。こんなことで山が高くなるばかりです。
 それに「チョコレートグラミー」も評判がよかったような。
 すみませんだらだらと。「ぎょらん」ではお兄さんの朱鷺さんのまわりはホカホカです。名前もいいです♪クリックすると、GOOD!と言っているユーザーの一覧を表示します。
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- 出版社:新潮社
- ページ数:327
- ISBN:9784103510826
- 発売日:2018年10月31日
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