darklyさん
レビュアー:
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私的には現在のところ今年一番の本。
本書はざっくり言えば小説の中に使われている単語を調べそのパターンを解析し統計的に処理することによりどのようなことが分かるかについて書かれた本です。英語での題名は「Nabokov's Favorite Word Is Mauve」つまり「ナボコフの好きな単語は藤色」となります。それでは何の本か全く分からないためこのような邦題にしたのではないかと思います。
本書の内容は多岐に渡りますが、いくつかの面白いと思った調査について紹介します。
一つ目は男性と女性では使う単語に明確な傾向があり、これを元にある文章のジェンダー予測すると80%の確率で当たるという。これを古典小説やベストセラーなどに適用したところ例えばベストセラー作品のうち最も男性的な小説(数値で判定する)と判定された20冊と最も女性的な小説と判定された20冊を抽出すると間違いは1冊だけであった。古典文学全体では100冊中60冊正しく判定している。もちろん数値が低いほど男性作家か女性作家かの判定精度は低下する。
これはこの判定システムの問題というよりもしかするとジェンダーは0か1ではなくレインボーであるということに起因する可能性があると思います。
また、もしトランスジェンダーの方がそのことを隠して作家活動をしていた場合、この調査をされるとそのことがばれてしまうのではないかと。文章を書くというのは内面の発露でありそれは隠せないのではないかと。意に沿わない暴露とかないようにと思います。
それと「O嬢の物語」を調査してみて欲しいと。ご存知の方も多いと思いますが、作者の「ポーリーヌ・レアージュ」はペンネームで一時期序文を書いた「ジャン・ポーラン」が真の作者と目されていましたが結局ポーランに気に入られたかった「ドミニク・オーリー」という女性が自分の作品であると告白しています。もし調査してとても男性的な小説と判定されたら面白いなあ。
また別の調査方法では個別の作家についてもかなりの確率で判別できる。つまり作家たちは指紋というべき一貫した文体を持っていることがわかる。これは例えば作者を偽っていても真の作者が誰がか分かるということである。1976年、アメリカのラジオ司会者ジョン・カルヴィン・バチェラーがトマス・ピンチョンは実はサリンジャーでないかとの仮説を発表した。これはその後、トマス・ピンチョンから誤りであるとの手紙を受け取り撤回されたが、この調査を行ってみると確かにピンチョンはサリンジャーではないと判定された。なにかとてもワクワクしませんか?
私を含めこのサイトの皆さんにもそれぞれ指紋があると思いますが、筆者不明の書評を誰が書いたものかをこの調査で当てることができればとても面白いと思います。指紋は変えることはできませんので、分からないようにいつもの書評のスタイルを変えてもバレるのであれば悪いこともできませんね。
このような調査が可能となったのはコンピューターを始めとするIT技術の発達のおかげです。IT技術の発達はネットを快適にさせ、SNSの発達を生み、紙の本を読むのを好む人々を減少させるという私のような反電子化レジスタンスにとって敵の側面もあるのですが、人間一人が一生で読むことができる本の数は砂漠の中の砂粒ほどでしょうし、コンピューターを使うことで誰もが見ることができなかった膨大な本の集合体から浮かび上がる新たな風景が見つかるかもしれません。そして今まで分からなかった新たな文学史を切り開くかもしれないというのはロマンがあります。
まえがきでアメリカの民主主義への第一歩を刻んだ論文集「ザ・フェデラリスト」の著者が誰なのか、アレクサンダー・ハミルトンもジュイムズ・マディソンもお互いが自分の著作としていたが、コンピューターを使った統計処理による調査は真の著者はマディソンであると結論付けました。実に19世紀からの論争に決着がついたのです。これも新たな歴史の一つなのでしょう。
他にも様々な調査があり、どれも興味深いのですがキリがありませんので興味のある方は是非お読みください。今年初の五つ星です。ちなみに数式等は一切出てきませんので。
本書の内容は多岐に渡りますが、いくつかの面白いと思った調査について紹介します。
一つ目は男性と女性では使う単語に明確な傾向があり、これを元にある文章のジェンダー予測すると80%の確率で当たるという。これを古典小説やベストセラーなどに適用したところ例えばベストセラー作品のうち最も男性的な小説(数値で判定する)と判定された20冊と最も女性的な小説と判定された20冊を抽出すると間違いは1冊だけであった。古典文学全体では100冊中60冊正しく判定している。もちろん数値が低いほど男性作家か女性作家かの判定精度は低下する。
これはこの判定システムの問題というよりもしかするとジェンダーは0か1ではなくレインボーであるということに起因する可能性があると思います。
また、もしトランスジェンダーの方がそのことを隠して作家活動をしていた場合、この調査をされるとそのことがばれてしまうのではないかと。文章を書くというのは内面の発露でありそれは隠せないのではないかと。意に沿わない暴露とかないようにと思います。
それと「O嬢の物語」を調査してみて欲しいと。ご存知の方も多いと思いますが、作者の「ポーリーヌ・レアージュ」はペンネームで一時期序文を書いた「ジャン・ポーラン」が真の作者と目されていましたが結局ポーランに気に入られたかった「ドミニク・オーリー」という女性が自分の作品であると告白しています。もし調査してとても男性的な小説と判定されたら面白いなあ。
また別の調査方法では個別の作家についてもかなりの確率で判別できる。つまり作家たちは指紋というべき一貫した文体を持っていることがわかる。これは例えば作者を偽っていても真の作者が誰がか分かるということである。1976年、アメリカのラジオ司会者ジョン・カルヴィン・バチェラーがトマス・ピンチョンは実はサリンジャーでないかとの仮説を発表した。これはその後、トマス・ピンチョンから誤りであるとの手紙を受け取り撤回されたが、この調査を行ってみると確かにピンチョンはサリンジャーではないと判定された。なにかとてもワクワクしませんか?
私を含めこのサイトの皆さんにもそれぞれ指紋があると思いますが、筆者不明の書評を誰が書いたものかをこの調査で当てることができればとても面白いと思います。指紋は変えることはできませんので、分からないようにいつもの書評のスタイルを変えてもバレるのであれば悪いこともできませんね。
このような調査が可能となったのはコンピューターを始めとするIT技術の発達のおかげです。IT技術の発達はネットを快適にさせ、SNSの発達を生み、紙の本を読むのを好む人々を減少させるという私のような反電子化レジスタンスにとって敵の側面もあるのですが、人間一人が一生で読むことができる本の数は砂漠の中の砂粒ほどでしょうし、コンピューターを使うことで誰もが見ることができなかった膨大な本の集合体から浮かび上がる新たな風景が見つかるかもしれません。そして今まで分からなかった新たな文学史を切り開くかもしれないというのはロマンがあります。
まえがきでアメリカの民主主義への第一歩を刻んだ論文集「ザ・フェデラリスト」の著者が誰なのか、アレクサンダー・ハミルトンもジュイムズ・マディソンもお互いが自分の著作としていたが、コンピューターを使った統計処理による調査は真の著者はマディソンであると結論付けました。実に19世紀からの論争に決着がついたのです。これも新たな歴史の一つなのでしょう。
他にも様々な調査があり、どれも興味深いのですがキリがありませんので興味のある方は是非お読みください。今年初の五つ星です。ちなみに数式等は一切出てきませんので。
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昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。
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- 出版社:DU BOOKS
- ページ数:440
- ISBN:9784866470658
- 発売日:2018年07月13日
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