かもめ通信さん
レビュアー:
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この短編集が今まで読んだ中でアリス・マンローの本の中で一番好きかも。
正直に言うとマンローはしんどい。
“短篇の名手”と言われるだけあって、
その作品のほとんどは短篇だ。
この本にも15作もの作品が収録されている。
一つ一つの作品は短いし、
翻訳はいつものように小竹由美子さんで
読みやすさも日本語の美しさも折り紙付きだ。
だから、このしんどさは、
「複雑なプロット」のせいでも
「こなれていない」せいでもない。
むしろ、翻訳小説になれていない読者でも
とても「読みやすい」のではないかとも思う。
けれども
登場人物たちの体験と
読者のそれとは重なりようのないのに
読み進めるうちに“郷愁”やら“胸の痛み”やらにたびたび襲われて、
とてもしんどくて、
とてもじゃないがいっきに読めやしない。
少しずつ、少しずつ読み進めるので
1冊読み終えるのにとても時間がかかるのだ。
ではいったいどんな話だったのかと尋ねられても
上手く説明することは出来ない。
それはつまり
一つ一つの作品があまりに短く
読んでいる間はともかく、
後々まで残るほどの余韻はないからだなどと思っていた。
そう、いままでは。
だが、この
(日本ではこれが初めての翻訳になるようだが、
本書がマンローの処女短編集で
原書はなんと50年前に出版されたという)
デビュー短編集を読んで、
私は自分が大きな誤解をしてきたのではないかと思い至った。
たとえば家族や親しい人から発せられた
何気ない一言に心をえぐられたとしても
日々の生活は続いていくのだから
その一言にこだわって
いつまでも怒ったり嘆いたりしてはいられない。
それでも、そのひと言は
すっかり忘れてしまったわけではなく
ふとしたきっかけで、時々頭に浮かんでくる。
そんなことって誰にでもあるだろう。
私はこれまで、
マンローの作品の1作1作に精巧に仕組まれた毒が
少しずつ与える刺激に痛みをおぼえながらも
そこに書かれていたあれこれは読んだ先から
すぐに忘れてきたと思っていた。
けれどもこの本を読んでいたら、
とうに忘れたと思っていた自分自身の古い記憶と共に
昔読んだマンローのあの本やあの作品やあの場面が
びっくりするほど鮮やかによみがえってきたことに驚いたのだった。
じっと見つめ続けるのはしんどいけれど
忘れることが出来ないあれこれが
マンローの作品には詰まっているのかもしれない。
本の中に出てきたこの一節も、
おそらくこの先、幾度か思い出すことになるような気がする。
小説を読み終えたときの気持ちに少し似ている気がした…という、
ちょっと気恥ずかしい感想とともに。
“短篇の名手”と言われるだけあって、
その作品のほとんどは短篇だ。
この本にも15作もの作品が収録されている。
一つ一つの作品は短いし、
翻訳はいつものように小竹由美子さんで
読みやすさも日本語の美しさも折り紙付きだ。
だから、このしんどさは、
「複雑なプロット」のせいでも
「こなれていない」せいでもない。
むしろ、翻訳小説になれていない読者でも
とても「読みやすい」のではないかとも思う。
けれども
登場人物たちの体験と
読者のそれとは重なりようのないのに
読み進めるうちに“郷愁”やら“胸の痛み”やらにたびたび襲われて、
とてもしんどくて、
とてもじゃないがいっきに読めやしない。
少しずつ、少しずつ読み進めるので
1冊読み終えるのにとても時間がかかるのだ。
ではいったいどんな話だったのかと尋ねられても
上手く説明することは出来ない。
それはつまり
一つ一つの作品があまりに短く
読んでいる間はともかく、
後々まで残るほどの余韻はないからだなどと思っていた。
そう、いままでは。
だが、この
(日本ではこれが初めての翻訳になるようだが、
本書がマンローの処女短編集で
原書はなんと50年前に出版されたという)
デビュー短編集を読んで、
私は自分が大きな誤解をしてきたのではないかと思い至った。
たとえば家族や親しい人から発せられた
何気ない一言に心をえぐられたとしても
日々の生活は続いていくのだから
その一言にこだわって
いつまでも怒ったり嘆いたりしてはいられない。
それでも、そのひと言は
すっかり忘れてしまったわけではなく
ふとしたきっかけで、時々頭に浮かんでくる。
そんなことって誰にでもあるだろう。
私はこれまで、
マンローの作品の1作1作に精巧に仕組まれた毒が
少しずつ与える刺激に痛みをおぼえながらも
そこに書かれていたあれこれは読んだ先から
すぐに忘れてきたと思っていた。
けれどもこの本を読んでいたら、
とうに忘れたと思っていた自分自身の古い記憶と共に
昔読んだマンローのあの本やあの作品やあの場面が
びっくりするほど鮮やかによみがえってきたことに驚いたのだった。
じっと見つめ続けるのはしんどいけれど
忘れることが出来ないあれこれが
マンローの作品には詰まっているのかもしれない。
オムネ・アニマル・ポスト・コイツム・トリニテ・エスト
性交のあと、すべての動物は悲しくなる
本の中に出てきたこの一節も、
おそらくこの先、幾度か思い出すことになるような気がする。
小説を読み終えたときの気持ちに少し似ている気がした…という、
ちょっと気恥ずかしい感想とともに。
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本も食べ物も後味の悪くないものが好きです。気に入ると何度でも同じ本を読みますが、読まず嫌いも多いかも。2020.10.1からサイト献本書評以外は原則★なし(超絶お気に入り本のみ5つ★を表示)で投稿しています。
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- 出版社:新潮社
- ページ数:326
- ISBN:9784105901547
- 発売日:2018年11月30日
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