darklyさん
レビュアー:
▼
資本主義社会が行き詰まった現在の状況で読めば本書はまた違った意義があるのではないか。それにしてもポール・モランは予言者か。
題名「黒い魔術」は所謂「黒魔術」と混同されたくなかったと訳者があとがきで書いています。しかし、本書にはヴ―ドゥを始めとする黒魔術が関連する話がいくつか出てきます。にも拘わらず混同されたくなかった訳はもっと大きなテーマ「黒人の魔術」があるからです。ここでいう「黒人の魔術」とは直接的な「黒魔術」的な魔術もありますが、白人を中心とした欧米に与えたもっと広い意味での影響等を指すのだろうと思われます。
本書には8つの短篇が収められていますがもちろん中心は黒人です。作者が実際に探訪したカリブ海、アメリカ、アフリカを舞台にしたそれぞれ全く違う切り口による黒人の物語です。それは必然的に差別や西欧文化、資本主義を映し出す鏡となっているのです。
何点か紹介しますと
【黒い皇帝】
フランス植民地後アメリカに統治されていたハイチはアメリカの統治時代が終わり主人公オクシドの独裁政権が誕生する。そして始まるオクシドの愚かで最悪な独裁。植民地支配後によく見られることではある。
アメリカがハイチから引き揚げた理由はなんと日米の真珠湾での戦い。20年近く前に真珠湾攻撃を予言していたと言うのか。
【チャールストン】
フランスでアメリカの白人女性が軽い怪我をして道に倒れているところを主人公が助ける。主人公の家で襲われた事情を聞こうとしたが奔放な彼女は意外な話を始める。黒人の血が混じることを忌避しながら黒人に魅せられ、アメリカでは考えられない白人と黒人のカップルが見られるパリへの憧れ。パリにおけるジャズとその演奏者の素晴らしさ。
同じ西欧でもアメリカとフランスにおける黒人に対する差別は微妙に違うのでしょう。バド・パウエルをモデルにデクスター・ゴードンが主演した映画「ラウンド・ミッドナイト」もフランスに活躍の場を求めたアメリカ黒人が描かれます。
【さらばニューヨーク!】
見た目は白人ながら少しだけ黒人の血が入っているロレーンは遺産により裕福であり、アフリカツアーに参加するために豪華客船に乗っていた。船内でロレーンの出自を知っていた人の悪意によりアフリカ寄港地に置き去りにされたロレーンはジャングルの中に入っていく。
強烈なアフリカのイメージ、圧倒的な熱量、太古のリズム、資本主義世界の象徴であるニューヨークおける価値観に囚われていた自分への決別。本書の中で最も好きな短篇でした。
【星降る国の人びと】
シリア人のマレクはコートジボワールで商売し一旗揚げようと張り切っていた。愚かな黒人を相手にうまく立ち回ろうとしたのだが上手くいかない。彼らは金の価値を知らないので高く売ることができるのだが、しかし彼らには欲しいものがない。苦戦する中、ある時原住民たちが狂乱状態に陥り、農地、家畜、マレクの店すべて焼き尽くされてしまった。彼らが崇める精霊のお告げであったらしい。這う這うの体で逃げ出したマレクは従兄とその地を訪れたがそこには飢餓状態となった原住民がいた。
物語の中でマレクが「シリアに帰りたい」と言うと「シリア人がシリアに帰るなんていうのは見たことがないぞ!」と返されます。何かこれも現在の状況を暗示しているように思えました。
本書が書かれたのが1920年代、黒人を差別し、愚かで穢らわしい存在と見るのが一般的である反面、好奇心や怖いもの見たさもあって黒人に興味を持つ人もいたでしょう。アメリカとフランスにおいても黒人の置かれていた状況は違っていたかもしれません。しかし所詮はアメリカを中心とする資本主義陣営が覇者となる20世紀の初頭で西欧各国の人々は自分たちが幸せな文明国であることを露ほども疑わない時代であり自分たち中心の物の見方は微塵とも揺らぎません。
また「星降る国の人びと」で描かれるように呪術等を信じて破滅するような科学技術が発達した文明国からしてみれば愚かとしか思えない一面もあるでしょう。反面、資本主義がバラ色ではないことを人々が気付きだした現在、全く違う価値観を持つ彼らを果たして愚かで野蛮であると切り捨てることができるでしょうか?
本書が奇妙な読後感を与えるのはどちらが素晴らしいとも結論はないところにあるような気がします。前述のような欧米の価値観中心の社会を背にしながらこのような物語を創ったポール・モランの感覚の鋭さには驚きます。我々現代人はどうも思い描いていた未来にはたどり着けないようです。かと言って原始の世界に戻ることもできません。外交官でもあったポール・モランは現在の世界情勢をどう見ているのでしょうか。
ポール・モランの代表作は堀口大学が訳した「夜ひらく」(未読)ですが、解説を読むと新感覚派と呼ばれた横光利一にも大きな影響を与えたようです。全く偶然なのですが、本書を読み終えた後次に読もうと準備している本がなんと横光利一の短編集なのです。すこしゾッとしました。
本書には8つの短篇が収められていますがもちろん中心は黒人です。作者が実際に探訪したカリブ海、アメリカ、アフリカを舞台にしたそれぞれ全く違う切り口による黒人の物語です。それは必然的に差別や西欧文化、資本主義を映し出す鏡となっているのです。
何点か紹介しますと
【黒い皇帝】
フランス植民地後アメリカに統治されていたハイチはアメリカの統治時代が終わり主人公オクシドの独裁政権が誕生する。そして始まるオクシドの愚かで最悪な独裁。植民地支配後によく見られることではある。
アメリカがハイチから引き揚げた理由はなんと日米の真珠湾での戦い。20年近く前に真珠湾攻撃を予言していたと言うのか。
【チャールストン】
フランスでアメリカの白人女性が軽い怪我をして道に倒れているところを主人公が助ける。主人公の家で襲われた事情を聞こうとしたが奔放な彼女は意外な話を始める。黒人の血が混じることを忌避しながら黒人に魅せられ、アメリカでは考えられない白人と黒人のカップルが見られるパリへの憧れ。パリにおけるジャズとその演奏者の素晴らしさ。
同じ西欧でもアメリカとフランスにおける黒人に対する差別は微妙に違うのでしょう。バド・パウエルをモデルにデクスター・ゴードンが主演した映画「ラウンド・ミッドナイト」もフランスに活躍の場を求めたアメリカ黒人が描かれます。
【さらばニューヨーク!】
見た目は白人ながら少しだけ黒人の血が入っているロレーンは遺産により裕福であり、アフリカツアーに参加するために豪華客船に乗っていた。船内でロレーンの出自を知っていた人の悪意によりアフリカ寄港地に置き去りにされたロレーンはジャングルの中に入っていく。
強烈なアフリカのイメージ、圧倒的な熱量、太古のリズム、資本主義世界の象徴であるニューヨークおける価値観に囚われていた自分への決別。本書の中で最も好きな短篇でした。
【星降る国の人びと】
シリア人のマレクはコートジボワールで商売し一旗揚げようと張り切っていた。愚かな黒人を相手にうまく立ち回ろうとしたのだが上手くいかない。彼らは金の価値を知らないので高く売ることができるのだが、しかし彼らには欲しいものがない。苦戦する中、ある時原住民たちが狂乱状態に陥り、農地、家畜、マレクの店すべて焼き尽くされてしまった。彼らが崇める精霊のお告げであったらしい。這う這うの体で逃げ出したマレクは従兄とその地を訪れたがそこには飢餓状態となった原住民がいた。
物語の中でマレクが「シリアに帰りたい」と言うと「シリア人がシリアに帰るなんていうのは見たことがないぞ!」と返されます。何かこれも現在の状況を暗示しているように思えました。
本書が書かれたのが1920年代、黒人を差別し、愚かで穢らわしい存在と見るのが一般的である反面、好奇心や怖いもの見たさもあって黒人に興味を持つ人もいたでしょう。アメリカとフランスにおいても黒人の置かれていた状況は違っていたかもしれません。しかし所詮はアメリカを中心とする資本主義陣営が覇者となる20世紀の初頭で西欧各国の人々は自分たちが幸せな文明国であることを露ほども疑わない時代であり自分たち中心の物の見方は微塵とも揺らぎません。
また「星降る国の人びと」で描かれるように呪術等を信じて破滅するような科学技術が発達した文明国からしてみれば愚かとしか思えない一面もあるでしょう。反面、資本主義がバラ色ではないことを人々が気付きだした現在、全く違う価値観を持つ彼らを果たして愚かで野蛮であると切り捨てることができるでしょうか?
本書が奇妙な読後感を与えるのはどちらが素晴らしいとも結論はないところにあるような気がします。前述のような欧米の価値観中心の社会を背にしながらこのような物語を創ったポール・モランの感覚の鋭さには驚きます。我々現代人はどうも思い描いていた未来にはたどり着けないようです。かと言って原始の世界に戻ることもできません。外交官でもあったポール・モランは現在の世界情勢をどう見ているのでしょうか。
ポール・モランの代表作は堀口大学が訳した「夜ひらく」(未読)ですが、解説を読むと新感覚派と呼ばれた横光利一にも大きな影響を与えたようです。全く偶然なのですが、本書を読み終えた後次に読もうと準備している本がなんと横光利一の短編集なのです。すこしゾッとしました。
お気に入り度:







掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。
- この書評の得票合計:
- 43票
| 読んで楽しい: | 3票 | |
|---|---|---|
| 素晴らしい洞察: | 4票 |
|
| 参考になる: | 36票 |
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。
この書評へのコメント

コメントするには、ログインしてください。
書評一覧を取得中。。。
- 出版社:未知谷
- ページ数:296
- ISBN:9784896425529
- 発売日:2018年04月26日
- Amazonで買う
- カーリルで図書館の蔵書を調べる
- あなた
- この書籍の平均
- この書評
※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。
『黒い魔術』のカテゴリ
登録されているカテゴリはありません。






















