darklyさん
レビュアー:
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とにかく質が高いとしか言いようがない。狐につままれたような気持ちで読み返す人が多いと思う。
ジェフリー・フォードと言えば「白い果実」三部作が有名ですが、読もうと思いながら未読であったところ、本屋でたまたまこの幻想小説好きならハッとするぐらい見事なジャケットが目に入り、しかもジェフリー・フォードということで思わず手に取ってしまいました。
13の短篇が収められていますが、かなりバラエティに富んだラインナップになっています。大まかに言って同じ幻想小説のカテゴリでも前半は奇想系の凝ったプロットものが多く、後半はCAスミスやあるいはダンセイニ風のファンタジーに近いものが多いような気がします。
気に入った作品を何点か紹介します。
【創造】
少年は神による人間創造の話を聞き、森で木切れなど様々な材料を集め人間(人形)を創る。創った人間は夢でキャビア―ノという名であることを知る。森に行き創ったキャビア―ノが命を吹き込まれ森を彷徨っていることを確信した少年は創造の責任を感じ良心の呵責に苛まれる。耐えきれなくなって父親に打ち明け一緒に森に出かける。
多感でみずみずしい感性を持っていた子供時代の話であり共感します。結末はフワっとした色々な解釈の仕方のあるものです。純粋にホラーとも読めますが、私は子供時代の自分もそうだったと思う父親の優しさの物語と読みました。父親のキャラクターが粗野でブルーカラーっぽいイメージだけになおさらその結末の解釈の方がギャップがありシャープに感じます。
【ファンタジー作家の助手】
ファンタジー作家アシュモリアンの作品が大好きな助手のメアリーは、アシュモリアンから人気ファンタジーシリーズの続きが見えなくなり執筆できなくなったと告白され、物語に入って続きを見てきてくれと頼まれる。メアリーは物語の中に入りファンタジーの主人公の死をアシュモリアンに伝えるが・・
凝りに凝った入れ子構造のファンタジーです。読み終わったとき狐につままれた気分になること請け合います。誰が現実の存在で何が現実に起こっているのか。とても好きな作品でした。
【熱帯の一夜】
少年時代父親に連れられて訪れたバー「熱帯」の絵巻物のような壁画に魅せられ強い印象を持っていた主人公は大人になって「熱帯」を訪れる。そこのバーテンは子供時代の知り合いでかつて手の付けられない不良だったボビーだった。そしてボビーから奇妙な話をされる。それは呪われたチェス盤の話であった。
この短編集の中では比較的ストレートなホラー。一見南国の穏やかな楽園風景を描いているように見えた「熱帯」の壁画の意味は?物語の最後になってやっとこの壁画とボビーの話のつながりが見えてきます。作者が少年時代に見た絵を元に想像力を働かせた作品だろうと推測しますが着想が見事です。
【光の巨匠】
光の真実について解き明かした光のアーティストであるラーチクロフトに取材する機会を得たオーガストは光の正体について奇妙な話を聞くことになる。ラーチクラフトは「光には二種類ある。一つは恒星や蝋燭などの外なる光、もう一つは心から生じる内なる光である。」そして外なる光と内なる光を混ぜ合わせることが光の魂の深みを探ることになると気づいたラーチクラフトは額に穴を開ける手術を受ける。やがてラーチクラフトは光の真実とは光と闇の真実であることを悟る。しかし闇は真実を教えてくれるが犠牲を求める。オーガストは代償を払うことになる。
なんのこっちゃですね。これも入れ子構造になっている複雑なプロットです。額に穴を開けてエメラルドを入れる着想は所謂第三の目の開眼ようであり、手術を受ける側ですがマッドサイエンティスト譚のような印象があります。そういえばムアコックの小説にも額に宝石が入っていた人がいましたね。また夢の世界で繰り広げられることが現実の世界につながるというところはラブクラフト的でもあります。ラーチクラフトの夢の中で彼の分身が夢の街のある場所を探して辿りつくところなど正にネオがマトリックスからザイオンに帰るための電話を探しているようなイメージととても被りました。最も印象的な物語でした。
とにかく全体的に凝った作りの話が多いので、ざっと読んで楽しむ本ではありません。じっくりと行きつ戻りつ楽しむ本だと思います。とても質が高い短編集で読んで損はないと思います。近いうちに「白い果実」三部作も読まなければ。
13の短篇が収められていますが、かなりバラエティに富んだラインナップになっています。大まかに言って同じ幻想小説のカテゴリでも前半は奇想系の凝ったプロットものが多く、後半はCAスミスやあるいはダンセイニ風のファンタジーに近いものが多いような気がします。
気に入った作品を何点か紹介します。
【創造】
少年は神による人間創造の話を聞き、森で木切れなど様々な材料を集め人間(人形)を創る。創った人間は夢でキャビア―ノという名であることを知る。森に行き創ったキャビア―ノが命を吹き込まれ森を彷徨っていることを確信した少年は創造の責任を感じ良心の呵責に苛まれる。耐えきれなくなって父親に打ち明け一緒に森に出かける。
多感でみずみずしい感性を持っていた子供時代の話であり共感します。結末はフワっとした色々な解釈の仕方のあるものです。純粋にホラーとも読めますが、私は子供時代の自分もそうだったと思う父親の優しさの物語と読みました。父親のキャラクターが粗野でブルーカラーっぽいイメージだけになおさらその結末の解釈の方がギャップがありシャープに感じます。
【ファンタジー作家の助手】
ファンタジー作家アシュモリアンの作品が大好きな助手のメアリーは、アシュモリアンから人気ファンタジーシリーズの続きが見えなくなり執筆できなくなったと告白され、物語に入って続きを見てきてくれと頼まれる。メアリーは物語の中に入りファンタジーの主人公の死をアシュモリアンに伝えるが・・
凝りに凝った入れ子構造のファンタジーです。読み終わったとき狐につままれた気分になること請け合います。誰が現実の存在で何が現実に起こっているのか。とても好きな作品でした。
【熱帯の一夜】
少年時代父親に連れられて訪れたバー「熱帯」の絵巻物のような壁画に魅せられ強い印象を持っていた主人公は大人になって「熱帯」を訪れる。そこのバーテンは子供時代の知り合いでかつて手の付けられない不良だったボビーだった。そしてボビーから奇妙な話をされる。それは呪われたチェス盤の話であった。
この短編集の中では比較的ストレートなホラー。一見南国の穏やかな楽園風景を描いているように見えた「熱帯」の壁画の意味は?物語の最後になってやっとこの壁画とボビーの話のつながりが見えてきます。作者が少年時代に見た絵を元に想像力を働かせた作品だろうと推測しますが着想が見事です。
【光の巨匠】
光の真実について解き明かした光のアーティストであるラーチクロフトに取材する機会を得たオーガストは光の正体について奇妙な話を聞くことになる。ラーチクラフトは「光には二種類ある。一つは恒星や蝋燭などの外なる光、もう一つは心から生じる内なる光である。」そして外なる光と内なる光を混ぜ合わせることが光の魂の深みを探ることになると気づいたラーチクラフトは額に穴を開ける手術を受ける。やがてラーチクラフトは光の真実とは光と闇の真実であることを悟る。しかし闇は真実を教えてくれるが犠牲を求める。オーガストは代償を払うことになる。
なんのこっちゃですね。これも入れ子構造になっている複雑なプロットです。額に穴を開けてエメラルドを入れる着想は所謂第三の目の開眼ようであり、手術を受ける側ですがマッドサイエンティスト譚のような印象があります。そういえばムアコックの小説にも額に宝石が入っていた人がいましたね。また夢の世界で繰り広げられることが現実の世界につながるというところはラブクラフト的でもあります。ラーチクラフトの夢の中で彼の分身が夢の街のある場所を探して辿りつくところなど正にネオがマトリックスからザイオンに帰るための電話を探しているようなイメージととても被りました。最も印象的な物語でした。
とにかく全体的に凝った作りの話が多いので、ざっと読んで楽しむ本ではありません。じっくりと行きつ戻りつ楽しむ本だと思います。とても質が高い短編集で読んで損はないと思います。近いうちに「白い果実」三部作も読まなければ。
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昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。
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- 出版社:東京創元社
- ページ数:334
- ISBN:9784488016678
- 発売日:2018年12月20日
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