書評でつながる読書コミュニティ
  1. ページ目
詳細検索
タイトル
著者
出版社
ISBN
  • ログイン
無料会員登録

ときのき
レビュアー:
暗い森の記憶と少年期の終わり
 八十歳を過ぎ、老人ホームで余生を送る語り手が、1930年代のテキサスでの少年時代に遭遇した陰惨な事件を回想する。
 11歳のハリーは妹と夜の森で黒人女性の他殺体を発見する。周辺地域では同様の殺人が連続していた。犯人は森に棲むという怪物、ゴートマンなのだろうか?

 戦前のアメリカ南部が舞台だ。主人公の父親は理髪店と兼業で治安官を務めているため、事件の捜査をおこない、検死もすれば黒人のコミュニティにも出入りする。そのあとをついて回るハリーは事件の情報とともに、貧困状態で暮らす黒人たちの生活と、白人による激しい差別と暴力を目にする。
 現在より森の闇は深く、茂みの中を角をはやした伝説の怪物が徘徊し、人々は荒々しく粗野で、世界が秩序ではなく非理性的な衝動により覆われている事実を隠しもしない。少年の前で父親は理知の灯をかかげてみせるが、その光はいかにもささやかだ。
 犯人捜しを導引としつつ、物語の主眼となるのはこのなつかしくもおぞましい、思い出という地獄めぐりだ。やがて事件の謎は解かれ、犯人が明かされるだろう。だが一度ほころびた少年の世界が“元に戻る”ことはない。
 
 それでも、今や老人となったかつてのハリー少年にとって、この時期こそが、まだしも人生が意味のある物語としての体をなしていた時代として輝かしく思い返せるのだ。登場人物たちの手短で断片的な後日談は、事件後の語り手にとってもはや世界は突発的な悲劇や解き明かされることのない謎や回収されない伏線しかない、意味や一貫性を求めることができない不条理と化した証のようでもある。
 誰もが皆、暗闇から生まれ出で、やがて再び暗闇へと還っていく。その途次でのちいさな冒険と発見、そして少年期の終わりを描いた、南部ゴシック・ホラーの秀作。
掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
ときのき
ときのき さん本が好き!1級(書評数:137 件)

海外文学・ミステリーなどが好きです。書評は小説が主になるはずです。

読んで楽しい:2票
参考になる:24票
あなたの感想は?
投票するには、ログインしてください。

この書評へのコメント

  1. No Image

    コメントするには、ログインしてください。

書評一覧を取得中。。。
  • あなた
  • この書籍の平均
  • この書評

※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。

『ボトムズ』のカテゴリ

フォローする

話題の書評
最新の献本
ページトップへ