ぽんきちさん
レビュアー:
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ある人種をその人種であることを理由に排除していくということ
少々思い切ったタイトル(原題はHitler's American Model)である。著者は米国人であり、読者の反発を予想してか、本書中でも慎重な説明がされている。
アメリカはユダヤ人を虐殺してはいないし、ナチズムに加担はしていない。しかし、ナチスが法整備にあたり、アメリカの人種隔離政策を参考にし、それを取り入れたことが史料からは読み取れる、というのが本書の主眼である。
ユダヤ人から公民権を奪い取るニュルンベルク法の制定にあたっては、ドイツ国内でもさまざまな議論があった。法律的にユダヤ人を排除するのにどれほどの論理的根拠を持たせることができるか。いかにナチスといえども、すべてを強圧的に押し切ったわけではなかったのである。
その際に最も参考にされたのは、アメリカの人種隔離政策であった。いわゆるジム・クロウ法、黒人(あるいは広く有色人種)の一般公共施設の利用を禁止制限した法律である。
ニュルンベルク法に向けての議論の中で、ナチス寄りの法律家たちの多くがアメリカの事例を引いている記録が残っている。
本書では大きく、2点について見ている。
1つは公民権をどのようにして奪っていくか。選挙権を持たせず、居住地を限定し、一段劣った「二級市民」とする方策である。
もう1つは「純血」の線引きをどこでするか。ユダヤ人の「混血」の扱いについては、親ナチの法律家であっても慎重な意見が多かった。ハーフのものも「ユダヤ人」の範疇に入れるのを躊躇うものもあった。アメリカの「血の一滴」(ワンドロップルール)(=少しでも有色人種の血が入っていれば有色人種と見なす)の厳しさにむしろひるんでいた節もある。このあたりは、「黒人」と「白人」の場合と比較して、「ユダヤ人」と「(ナチスが定める)ドイツ人」の間にさほどの外見の違いがなかったことも大きいだろう。結局のところ、ユダヤ人とは何かは難しい問題で、最終的には「独自の文化があること」に落ちつけていくことになる。
史料からは、ドイツ人法律家が法策定にあたって、かなり厳密に論拠を積もうとしていたことが読み取れる。一方で、アメリカの人種政策はコモンロー、つまり伝統や慣習、先例に依っていた部分も大きい。このコモンローの魅力にひかれた法律家もあったようである。「前からこういうものだったから」といえば論証はいらないわけで、ある意味、これほど強いものはないかもしれない。
全般、うすら寒さが漂う。もちろん、アメリカの法律には優れたものもあるわけだが、ジム・クロウ法が存在したことは事実であり、ある意味、ニュルンベルク法より過酷な点もあったわけである。
人をある属性にしたがって区別し、排除していった先に何があるのか、そして区別し、排除する(あるいは区別され、排除される)可能性は誰にもどこにでもあり、歴史の前例はどうであったかを、私たちはよくよく考えてみるべきなのかもしれない。
アメリカはユダヤ人を虐殺してはいないし、ナチズムに加担はしていない。しかし、ナチスが法整備にあたり、アメリカの人種隔離政策を参考にし、それを取り入れたことが史料からは読み取れる、というのが本書の主眼である。
ユダヤ人から公民権を奪い取るニュルンベルク法の制定にあたっては、ドイツ国内でもさまざまな議論があった。法律的にユダヤ人を排除するのにどれほどの論理的根拠を持たせることができるか。いかにナチスといえども、すべてを強圧的に押し切ったわけではなかったのである。
その際に最も参考にされたのは、アメリカの人種隔離政策であった。いわゆるジム・クロウ法、黒人(あるいは広く有色人種)の一般公共施設の利用を禁止制限した法律である。
ニュルンベルク法に向けての議論の中で、ナチス寄りの法律家たちの多くがアメリカの事例を引いている記録が残っている。
本書では大きく、2点について見ている。
1つは公民権をどのようにして奪っていくか。選挙権を持たせず、居住地を限定し、一段劣った「二級市民」とする方策である。
もう1つは「純血」の線引きをどこでするか。ユダヤ人の「混血」の扱いについては、親ナチの法律家であっても慎重な意見が多かった。ハーフのものも「ユダヤ人」の範疇に入れるのを躊躇うものもあった。アメリカの「血の一滴」(ワンドロップルール)(=少しでも有色人種の血が入っていれば有色人種と見なす)の厳しさにむしろひるんでいた節もある。このあたりは、「黒人」と「白人」の場合と比較して、「ユダヤ人」と「(ナチスが定める)ドイツ人」の間にさほどの外見の違いがなかったことも大きいだろう。結局のところ、ユダヤ人とは何かは難しい問題で、最終的には「独自の文化があること」に落ちつけていくことになる。
史料からは、ドイツ人法律家が法策定にあたって、かなり厳密に論拠を積もうとしていたことが読み取れる。一方で、アメリカの人種政策はコモンロー、つまり伝統や慣習、先例に依っていた部分も大きい。このコモンローの魅力にひかれた法律家もあったようである。「前からこういうものだったから」といえば論証はいらないわけで、ある意味、これほど強いものはないかもしれない。
全般、うすら寒さが漂う。もちろん、アメリカの法律には優れたものもあるわけだが、ジム・クロウ法が存在したことは事実であり、ある意味、ニュルンベルク法より過酷な点もあったわけである。
人をある属性にしたがって区別し、排除していった先に何があるのか、そして区別し、排除する(あるいは区別され、排除される)可能性は誰にもどこにでもあり、歴史の前例はどうであったかを、私たちはよくよく考えてみるべきなのかもしれない。
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分子生物学・生化学周辺の実務翻訳をしています。
本の大海を漂流中。
日々是好日。どんな本との出会いも素敵だ。
あちらこちらとつまみ食いの読書ですが、点が線に、線が面になっていくといいなと思っています。
「実感」を求めて読書しているように思います。
赤柴♀(もも)は3代目。
この夏、有精卵からヒヨコ4羽を孵化させました。そろそろ大雛かな。♂x2、♀x2。ニワトリは割と人に懐くものらしいですが、今のところ、懐く気配はありませんw
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- 出版社:みすず書房
- ページ数:224
- ISBN:9784622087250
- 発売日:2018年09月04日
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