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darklyさん
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中村文則さんの昔の作品に戻ったかのような
緊縛師が殺された。刑事は捜査を始める。手がかりは被害者の手帳にあった刑事の知り合いの女性の名刺。それをきっかけに開かれるSMの世界。やがてYという男が事件の鍵を握っていることに刑事は辿り着く。

一応殺人事件が起こり刑事たちが捜査を行うというミステリ仕立てにはなっていますが、中村さんの小説らしくそこに主題はなく、あくまでも人間の内面の物語となっています。中村さんの最近の著作である「教団X」や「R帝国」は私の中での評価はかなり低く本作品も読もうか迷ったのですが結果的には読んで正解でした。

本作品はイメージ的に初期の作品である「掏摸」などに近いものを感じさせます。私は中村さんの小説の特徴は「物語の奥に何かある」と思わせるのが上手いことだろうと思います。中村さんの心の中に本当に何かあるのか、あるいはそう思わせているだけかもしれませんが、読者がそう思えるのならそれは小説家としての技量なのでしょう。

通常SMといえば雑誌やネットに溢れる所謂プレイという側面が強調されますので、男性の中には誰にだろうとそういうことをされること自体が好きな女性がいるという勘違いをしてしまう人もいるでしょうが、想像するに本来とても精神的な世界であろうと思います。プレイはあくまでも手段にすぎない。支配する側の昂揚感と責任、支配される側の安心感と心の解放、それに伴う普通では味わえない快楽。精神的にとても強い結びつきがある世界でしょう。ゆえに古今東西文学の題材になるのだと思います。お互い心の鎧を付けたままのノーマルな男女関係では絶対に味わえない世界なのでしょう。

だからこそ刑事は自分の好意を持っていた女性がそのような女性であり、服従する相手がいることに激しく嫉妬し破滅していくのです。普通に彼氏がいただけではそうはならないのでしょう。

しかしこの物語の重要人物であるYは愛を前提とした支配者ではなく、虚無的で悪意の塊のような人物であり、他人の命にも、いや自分の命でさえも軽視するほど反社会的であり、巨大な星が自らの重力により潰れてしまうように自らの精神に耐えられずに壊れていくのです。そして捜査している刑事も心に虚無を抱えていることをYに見抜かれるのです。
「お前は、こっち側の人間だ。そうだろう?


読み始めた当初に受けたエルロイの暗黒刑事小説のような印象が次第にデビットリンチ作品のような妖しいイメージに変化していきながらも、単なる扇情的で刺激的なものではなく、しっかり人の心の本質まで描いているように思います。人によっては特に女性にとっては不快と感じる可能性もありますので万人向けとは言い難いですが。

一つケチをつけると、縄から注連縄→神社→神話→天皇というように本当かどうか知りませんが蘊蓄のようなことが登場人物によって語られます。このような部分は正直必要なのか疑問に思いました。天皇についても女系天皇と女性天皇を混同しているような記述も見られますし。


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darkly
darkly さん本が好き!1級(書評数:337 件)

昔からずっと本は読み続けてます。フィクション・ノンフィクション問わず、あまりこだわりなく読んでます。フィクションはSF・ホラー・ファンタジーが比較的多いです。あと科学・数学・思想的な本を好みます。

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