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efさん
ef
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ブラフマンという生き物……これは何? 何とも不思議な味わいの小品です。
 主人公の『僕』は、村の外れにある『創作者の家』の管理人をしています。
 『創作者の家』とは、とある出版社が運営している、宿泊設備を備えた施設で、様々な分野の芸術家たちがここを訪れ、それぞれの創作活動に打ち込む場所でした。
 ここを訪れる芸術家の中には、有名な賞を受賞するような芸術家もいるのだそうです。
 僕は、それぞれの部屋の掃除をしたり、様々な雑用を引き受けてこの施設を管理していました。

 芸術家たちは、自分の創作活動のためにこの施設を訪れるのですが、夏の期間だけはちょっと様子が違っていました。
 夏の間は保養のために訪れる芸術家も多く、特段創作活動に打ち込むでもなく、のんびりと過ごしている者もいました。

 ある日、僕の部屋に森から一匹の動物が紛れ込んで来ました。
 少々怪我をしているようです。
 何という動物なのかはっきり説明されてはいませんが、長い尻尾を持ち、両手で抱えられる位の大きさで、鳴くことはなく、泳ぎが得意で、何だか小さな猿のような感じもします。

 僕は、その小動物の怪我を治療してやり、餌を与えたところ、すっかりなついてしまったこともあり、以後、自分の部屋でその動物を飼ってやることにしました。
 名前もつけなければなりません。
 僕は、『創作者の家』で仕事をしている碑文彫刻師を訪ねました。
 彼は、墓石に様々な名前や言葉を刻む仕事をしていましたから、名前のことなら彼に尋ねるのが一番だろうと思ったからです。

 彼は、好きにつければ良いとでも言うように、沢山並んだ墓石を指し示すだけでした。
 僕は、その中から、見知らぬ文字が一文字だけ彫刻されている墓石を選びました。
 「何て読むの?」
 「ブラフマン。謎という意味だ。」
 それ以来、その小動物はブラフマンという名前になりました。

 さて、本作は、こんな始まり方をする何とも不思議な物語です。
 穏やかな『創作者の家』での、僕とブラフマンとの生活が淡々と描かれていきます。
 少々のミステリアスな味付けがある程度で、全編を通じて流れているのは、鄙びた村の夏の景色だけです。

 大変静かな小説です。
 何かを強く訴えようとする意図がある作品とも思えません。
 ただ、ブラフマンがやってきて、そして……というだけのお話なのです。
 小川洋子さんらしいと言えば、らしいです。
 穏やかで不思議な味わいの作品を読みたくなった時、こんな本はいかがでしょうか?
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ef
ef さん本が好き!1級(書評数:4939 件)

幻想文学、SF、ミステリ、アート系などの怪しいモノ大好きです。ご紹介レビューが基本ですが、私のレビューで読んでみようかなと思って頂けたらうれしいです。世界中にはまだ読んでいない沢山の良い本がある!

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