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星落秋風五丈原
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青は藍より出でて藍より青し イギリスはアメリカに愛されているのか?
 イギリス人のサー・フランシスはハリウッドで唯一の勲爵士。映画会社の主任シナリオライターだったが今では宣伝部に左遷され、彼がスペイン娘として売り出そうとしていた娘が、社の方針でアイルランドの田舎娘に変えるよう圧力を受けて、もめている。

 かつてイギリスから独立したにもかかわらず、いつの間にか人も金もイギリスを越えてしまったアメリカが、たった一つ持っていなかったのは伝統ある歴史と文化だ。それらを持っているヨーロッパに憧れたアメリカの新興成金達は、持っていた金でヨーロッパの文化遺産を買いあさり、不毛の荒野を文明の地に生まれ変わらせようとした。買われたのは物だけではない。イギリスの人々も望まれてアメリカにやって来た。ところが、いつまでも有難がってくれるわけはない。賞味期限が過ぎれば飽きられ、捨てられる。イギリス人は、イギリスの威光を必要としなくてもやっていけるようになったアメリカから、今や駆逐されようとしている。

 捨てられた者達がやって来るのは墓地だ。ここにはイギリス人詩人のデニスがいる。とはいっても死者のために詩を読むのではなく、ペット専門墓地で、ペットのためにしゃれた文句を考えており、アメリカの映画会社に雇われたイギリス人から仕事の中にはイギリス人なら絶対にやらないというのがあるが、きみの仕事は間違いなくその一つイギリスの恥だから帰国しろとまで言われてしまう。
 
 そんな時デニスは、ペット墓地の隣にある人間用墓地『囁きの森』霊園で遺体化粧師をしているアメリカ人女性エイミーに恋をする。一方霊園の修復師ジョイボイもエイミーに恋している。二人の男性が他人の詩の文句を使ってエイミーを口説くデニスも母親べったりのジョイボイもどちらもパーフェクトではない。二人の男性がアメリカとイギリスを象徴していると考えるとウォーの両国観が透けて見える。愛されたものは愛するものの心を知らず、愛するものは愛される要素を持たず、それでも表面上はいい関係を保ちつつ、たまに綻びが生じては墓場に葬られる。何ともブラックなイーヴリン・ウォーのトラジコメディ(tragicomedy)。

 2009年に英国ガーディアン紙が発表した、「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」選出。

イーヴリン・ウォー作品
『ヘレナ』
卑しい肉体 (20世紀イギリス小説個性派セレクション)
『スクープ』
イーヴリン・ウォー傑作短篇集 (エクス・リブリス・クラシックス)
回想のブライズヘッド〈上〉
回想のブライズヘッド〈下〉
黒いいたずら
大転落
つわものども:誉れの剣1 (エクス・リブリス・クラシックス)
士官たちと紳士たち 誉れの剣II (エクス・リブリス・クラシックス)
無条件降伏:誉れの剣Ⅲ (エクス・リブリス・クラシックス)
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2325 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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