三太郎さん
レビュアー:
▼
「工場」というタイトルに釣られて買ってしまいました。
小山田浩子さんのデビュー作だとか。実は「工場」というタイトルに釣られて買ってしまいました。
僕は62歳まで大手の化学メーカーの研究所勤務だったのですが、その会社は全国に工場があり、化学工場ですから広い敷地に巨大な反応装置が立ち並び、その間を用役(工業用水、高圧スチーム、水素ガスなど)用の配管が走っています。工場内の移動用にバスがある場合もあります。それらの工場の半分くらいは構内に入ったことがあり、幾つかの工場では仕事で通っていたことも。その他様々な業種の顧客企業の工場を訪問した経験もあり、小説で描かれる工場ってどんな具合か興味があったのです。
読むとこの小説の舞台は「印刷工場」だとあり、ちょっと意表をつかれました。印刷会社の巨大な工場とはどんなところか直ぐにはイメージできませんでした。読み終わった今でもその点はよく分からないままです。印刷ですから構内は印刷に用いる有機溶剤の臭いがしそうですが、そういった記述も見当たりません。
広大な工場の敷地の真ん中を大きな川が流れていて、二つの工場敷地の間に橋があるというこの印刷工場は、僕が知っているある化学メーカーの工場にそっくりでした。著者は様々な工場のイメージの寄せ集めでこの小説の舞台を考案したのかも知れません。小説ではこの川に住み着いている、カワウに似て非なるある黒い鳥が最後で重要な役割を果たしますが、それはもう少し後で説明しましょう。
主な登場人物は3名で、一人は元システムエンジニアの若い男性、もう一人は大学のオーバードクターから工場に採用された元研究者の中年男性で、三人目が主人公の若い女性です。彼女は日本語を研究していたといいますが、企業に勤めては短期間に辞めて再就職するのを繰り返し、この工場では廃棄する印刷物をシュレッダーにかける非正規従業員です。そして元SEの男性はこの女性の兄だという設定です。兄は元の会社を首になったあと派遣社員になり、この工場で校正のような仕事をしています。
一番奇妙なのが元研究者だった男性で、工場に勤務してから特に決まった仕事がないまま15年間を過ごしてきました。彼は正社員です。
元SEの男性もその妹も今の仕事に意味を見出せず不満が募っているのですが、いろいろ問題を抱えていそうな妹はともかく、兄の方はまだ若いのに何故正社員の職を探さないのか不思議です。
でも一番不思議なのは元研究者の中年男性でしょう。上司から仕事の指示がもらえないとこぼしながら自発的には何も始めないのです。大学で研究職に付けずに企業に就職したのですが、上司から指示がないなら自分でテーマを決めて研究し論文を書いて、それを元手に転職先を探したらよいと思うのですが。
実はこの小説はとても読み難く書かれています。芥川賞でも狙って難しく書いているのかなあ。三人の話者が突然切り替わるのですが、誰が語っているのか直ぐには分かりません。時制も突然変わります。
文庫本の解説を読むとこの小説は「カフカ的」ということのようです。
カフカと言えば不条理ということになるのでしょうが(僕はカフカを読んでいませんが)、小説の最後はシュッレダー作業中の妹がカワウの様な黒い鳥に「変身」する場面で終わります。彼女は変身後は工場の川で魚を摂って生きていくのだろうか?
でも、読み終わったときの印象では、この妹は以前から心に病を抱えていて、最後の場面で遂に精神病を発症したのかもと想像しました。だからこの小説を不条理を描いたものだとは受け取らなかったのです。どうでしょうか?
僕は62歳まで大手の化学メーカーの研究所勤務だったのですが、その会社は全国に工場があり、化学工場ですから広い敷地に巨大な反応装置が立ち並び、その間を用役(工業用水、高圧スチーム、水素ガスなど)用の配管が走っています。工場内の移動用にバスがある場合もあります。それらの工場の半分くらいは構内に入ったことがあり、幾つかの工場では仕事で通っていたことも。その他様々な業種の顧客企業の工場を訪問した経験もあり、小説で描かれる工場ってどんな具合か興味があったのです。
読むとこの小説の舞台は「印刷工場」だとあり、ちょっと意表をつかれました。印刷会社の巨大な工場とはどんなところか直ぐにはイメージできませんでした。読み終わった今でもその点はよく分からないままです。印刷ですから構内は印刷に用いる有機溶剤の臭いがしそうですが、そういった記述も見当たりません。
広大な工場の敷地の真ん中を大きな川が流れていて、二つの工場敷地の間に橋があるというこの印刷工場は、僕が知っているある化学メーカーの工場にそっくりでした。著者は様々な工場のイメージの寄せ集めでこの小説の舞台を考案したのかも知れません。小説ではこの川に住み着いている、カワウに似て非なるある黒い鳥が最後で重要な役割を果たしますが、それはもう少し後で説明しましょう。
主な登場人物は3名で、一人は元システムエンジニアの若い男性、もう一人は大学のオーバードクターから工場に採用された元研究者の中年男性で、三人目が主人公の若い女性です。彼女は日本語を研究していたといいますが、企業に勤めては短期間に辞めて再就職するのを繰り返し、この工場では廃棄する印刷物をシュレッダーにかける非正規従業員です。そして元SEの男性はこの女性の兄だという設定です。兄は元の会社を首になったあと派遣社員になり、この工場で校正のような仕事をしています。
一番奇妙なのが元研究者だった男性で、工場に勤務してから特に決まった仕事がないまま15年間を過ごしてきました。彼は正社員です。
元SEの男性もその妹も今の仕事に意味を見出せず不満が募っているのですが、いろいろ問題を抱えていそうな妹はともかく、兄の方はまだ若いのに何故正社員の職を探さないのか不思議です。
でも一番不思議なのは元研究者の中年男性でしょう。上司から仕事の指示がもらえないとこぼしながら自発的には何も始めないのです。大学で研究職に付けずに企業に就職したのですが、上司から指示がないなら自分でテーマを決めて研究し論文を書いて、それを元手に転職先を探したらよいと思うのですが。
実はこの小説はとても読み難く書かれています。芥川賞でも狙って難しく書いているのかなあ。三人の話者が突然切り替わるのですが、誰が語っているのか直ぐには分かりません。時制も突然変わります。
文庫本の解説を読むとこの小説は「カフカ的」ということのようです。
カフカと言えば不条理ということになるのでしょうが(僕はカフカを読んでいませんが)、小説の最後はシュッレダー作業中の妹がカワウの様な黒い鳥に「変身」する場面で終わります。彼女は変身後は工場の川で魚を摂って生きていくのだろうか?
でも、読み終わったときの印象では、この妹は以前から心に病を抱えていて、最後の場面で遂に精神病を発症したのかもと想像しました。だからこの小説を不条理を描いたものだとは受け取らなかったのです。どうでしょうか?
お気に入り度:





掲載日:
外部ブログURLが設定されていません
投票する
投票するには、ログインしてください。
1957年、仙台に生まれ、結婚後10年間世田谷に住み、その後20余年横浜に住み、現在は仙台在住。本を読んで、思ったことあれこれを書いていきます。
長年、化学メーカーの研究者でした。2019年から滋賀県で大学の教員になりましたが、2023年3月に退職し、10月からは故郷の仙台に戻りました。プロフィールの写真は還暦前に米国ピッツバーグの岡の上で撮ったものです。
この書評へのコメント

コメントするには、ログインしてください。
書評一覧を取得中。。。
- 出版社:新潮社
- ページ数:329
- ISBN:9784101205427
- 発売日:2018年08月29日
- Amazonで買う
- カーリルで図書館の蔵書を調べる
- あなた
- この書籍の平均
- この書評
※ログインすると、あなたとこの書評の位置関係がわかります。




















