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星落秋風五丈原
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ジュリエットはたとえ相手がロミオという名前でなくても愛すると言う しかしもし次の日ロミオが外側マキューシオ、内側ロミオで現れたら?
 恋に障害はつきものだ。フィクションの恋愛小説を読む時も、障害があればこそドラマが盛り上がり、読者は熱心に読みふける。相手が好きならば、性別も、人種も、年齢も、経済格差も、全て乗り越えられる。これは誰しもが想い描く理想の恋愛だ。

 相手と長く付き合う時間があった場合、長い時間を一緒に過ごすから、乗り越えられない壁だと思っていた事がささいな問題に思えてくる。だが、もし、好きな相手とたった一日しか、同じ姿で生きていけなかったら、それでも相手は、変わり続ける自分を愛してくれるだろうか?例え本質は何も変わっていないとしても?

 ジョン・グリーンとの共著『ウィル・グレイソン ウィル・グレイソン』ではLGBT問題を取り上げたデヴィッド・レヴィサン。今回の主人公は、毎朝、違う人物のからだの中で目覚める。なぜこうなったかはわからない。共通点は、からだを借りる相手はかならず16才。16才なら、男でも女でもあり得る。人種も変わるし家庭環境も変わる。住んでいる場所がメリーランド州の一定範囲内。からだを借りるのは、一日だけ。そして、二度と同じ人物にはならない。肉体も名前も持たない彼/彼女は、自分のことを「A」とだけ呼んでいる。

 Aの中には今まで成り代わってきた人だった時の記憶が積み重なっているが、取り憑かれたような感覚の宿主には記憶はなく、後から周囲の反応で「何か昨日は自分がおかしかったみたいだ」とわかる。Aのアイデンティティは常に脅かされ続ける。確固とした自分を持っていれば、かえって危険だ。

 だからAは、宿主の人生に影響を与えないよう、個性を出さないよう生きてきた。しかし、ある日入れ替わった少年の恋人に恋したことから、一日限りの人生でも出来ることをしようと考える「毎日を違う気持ちで過ごすことが出来たら新鮮なのに」と、現実には変わり映えのしない日常をうっとうしく感じる人もいるかもしれないが、Aからすれば昨日と同じ明日であることが大変なご褒美だ。

 意識が変わったAは、宿主の人生を救うこともあるが、気になる彼女に会いたいあまり取った行動で、Aの存在に気付く人も現れる。成り代われる年齢設定を16歳にしたのは、多感で経験不足で失敗しがちな年齢であるからだ。失敗を恐れずに純粋でいられるぎりぎりのタイムリミットとも言える。年齢の幅を広げてしまうと、大人の世界の話も入ってきてしまう。また、大人としての経験を積んだ主人公が想いのままに突っ走るとは思えないので、あのラストはあり得ない。

 表紙の一人だけ色のついた服を着ているのがおそらくAの恋する相手で、それ以外は全てAが一日体を借りた相手という分け方。全身真っ黒なのがAの中身なのか。それともどこかで中身のAを待っている外側のみのAか。読了した後でじっくり表紙を見直してみては?

デヴィッド・レヴィサン作品
サムデイ
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2338 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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